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『きのう何食べた?』コメディではない、優しく“笑える”ドラマ

 よしながふみの同名人気コミックのドラマ化で、西島秀俊内野聖陽がW主演を務めるドラマ24『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。主人公は、2LDKのアパートで月2万5000円の食費で暮らす、弁護士のシロさんこと筧史朗(西島)と美容師のケンジこと矢吹賢二(内野)の男性同士カップル。そんな2人の食事に対する「美味しそう」という声はネット上で非常に多く見られるが、興味深いのは、それと同じくらい、あるいはそれ以上に「ほっこり」「笑える」という感想が多いことだ。どんな点が「ほっこり」で、どんな点が「笑える」ドラマなのか。

シリアスさやデリケートさを優しく包み込む「笑い」で好評の『きのう何食べた?』(C)「きのう何食べた?」製作委員会

シリアスさやデリケートさを優しく包み込む「笑い」で好評の『きのう何食べた?』(C)「きのう何食べた?」製作委員会

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■2人の関係性と空気感が凝縮されたオープニング映像になぜか泣き笑いしそうになる

 Twitter上には「ほっこり」に関して、以下のようなコメントが見られる。「♯何食べ のほっこり感良いんだよなぁ…西島さんの料理するところ最高の癒し シロさんとケンジの仲良し感…これもまた、ひとつの『家族』の形」「ウンウンうなずけるところ満載&ほっこり&うまそー」「内野聖陽さん、素晴らしいよね ほんの少しの動作や目の表情に、シロさんへの思いが自然に出てるよね〜 ほっこり」。

 これらの感想からもわかるように、同作に「ほっこり」という感想を抱く理由には、史朗と賢二が互いに相手のことを大切に思う気持ちや優しさが挙げられるだろう。そして、2人の関係性と流れる空気感が、説明不要にわかる象徴が、オープニング映像だ。

 料理をしている史朗の姿を、賢二がスマホで撮影する。生姜焼きを慣れた手つきで作る史朗と、それを撮影しながら、嬉しそうに自分も映り込んで「自撮りツーショット」をしてしまう賢二。そして、そんな賢二の愛情表現をちょっと嗜めるようにしつつも、嬉しそうに笑いがこぼれてしまう史朗。その後も、ちょっかいを出す賢二と、かわしつつも嬉しそうな史朗、料理を盛り付けて、テーブルに置き、2人が向かい合って手を合わせて「いただきます」をするシーンに至るまで、あまりにナチュラルで穏やかで愛が溢れている日常の映像なのだ。このオープニングだけで、すでにニヤニヤしつつも、なぜか涙が出そうになってしまった視聴者は多数いたのではないだろうか。

■親の病気、自らの老後…誰にでも訪れる不安のさなかに見る「刹那の幸福」のような食卓

 この「普通の日常生活」があたたかさと優しさに満ちているのは、「ごく普通の幸せ」を守るために、2人がさりげなく、しっかりと積み上げてきた努力があるからだろう。

 史朗は有能な弁護士だが、仕事に対して「やりがいは求めず、毎日18時に上がれることを最優先」している。史朗が料理する姿は本当に幸せそうで、「厄介な案件を一つ綺麗に落着させたぐらいの充実感。個の充実感を1日1回必ず味わえるなんて、夕食作りは偉大だ」と語ってもいる。

 そして、そんな史朗の食事を、賢二もまた、ただ食べるわけじゃない。史朗の動きに合わせて、お皿やカップを並べたり、食材を取り出したり、洗濯物を畳んだり、絶妙なサポートをしながら、食卓につく。そして、毎日の料理について、嬉しさを表情で、全身で表現しつつ、ちゃんと言葉で具体的に美味しさを伝える。「日常」をともに過ごす相手だからこそ、リラックスするあまり、気が緩んだり、気を遣わなかったりすることは多いものだが、2人は何より「日常」を大切にしていることが食事風景からよくわかる

 さらに、2人の幸せそうな食事風景とともに、親の病気の不安や、子を持つことのない自らの老後の不安なども描かれる。これらは男性同士のカップルだけでなく、子を持たぬ夫婦や独身者、さらに40代以上くらいの年齢の人全般にとって、切実な問題として共感できるだけに、幸せな食事のひとときが、まるで刹那の幸福のように眩しく見えるのだ。

■真面目さや必死なズレ感、シリアスさやデリケートさを優しく包み込む「笑い」

「ほっこり」とともに多い感想「笑える」については、Twitterに以下のようなコメントがある。「何食べの7話目、ずっと笑いっぱなしで見てしまい いつもOPでホロリとするのに、お話がおもしろすぎて」「何食べ、週一の癒しと笑いの時間」「何食べの録画をゲラゲラ笑いながら見てしまった…シロさんの自意識過剰すごいし、小日向さん怪しすぎるし、ジルベールのTシャツひどいしケンジかわいいし」。

 このような絶妙な「笑い」を生むのは、登場人物たちの真剣さと「ズレ」具合だろう。まず思い出されるのは、史朗の「料理仲間」の主婦・佳代子さん(田中美佐子)のエピソード。

「安いけど、1個は食べきれるか…」という同じ葛藤をしていた見ず知らずの史朗を、「スイカを分かち合う」目的のために、自分の家にあげる。にもかわらず、「もしかして襲われる?」というトンデモな勘違いを炸裂・パニック→誤解を解くために「ゲイ」であることを大声で宣言する史朗→またもパニック→弁護士の名刺を渡して「ああ…」と落ち着く。本来はデリケートな問題をはらむエピソードだが、ゲイというものに対して知識が全くないかわりに、大雑把で、デリカシーもなければ偏見もないフラットさに、思わずクスリとさせられてしまう。

 また、「同じゲイ同士」として紹介された小日向さん(山本耕史)に、自分が狙われていると勘違いし、警戒しつつも、好みのタイプであることから動揺する史朗の必死さも笑える。さらに、そんな小日向さんが、「ジルベールのような美少年」と呼び、小悪魔的でワガママ放題なエピソードを語っていた恋人・航(磯村勇斗)は、実際に会ってみると、変な針ネズミTシャツを着て、ボサボサ頭で、無精ひげの、イメージとはかけ離れた青年だった。

 そのズレ具合と「恋は盲目」っぷりに、視聴者は史朗の心境とシンクロするように、爆笑させられてしまう。そして、極めつけは、史朗の母の存在だ。最初は、同性愛者である息子を理解しようと、オフ会に参加して必死に勉強し、「同性愛者なのは恥ずかしいことじゃないのよ」と力説していた。また、がんの手術をする夫を心配するあまり、病院でパニックになったり、神に祈ったり、史朗を怒ったりする大忙しの母。その大真面目なズレ具合には、本来深刻な状況にもかかわらず、クスリとさせられてしまう。

 しかも、そのパニックぶりから描かれるのは、いかに母が父を好きであるかということや、「一緒に暮らす相手は特別」ということ。そこで視聴者はホロリとさせられてしまうのだ。

「良い人たち」の真面目で必死なズレ感は、おかしくも愛おしい。そして、デリケートな問題や、シリアスな展開を、さりげなく笑いで描き、その後にじんわり泣かせる『きのう何食べた?』。当たり前の日常を描いているにもかかわらず、癒されたり、笑ったり、泣かされたり、感情の変化が大忙しのドラマだ。
(文/田幸和歌子)

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  • シリアスさやデリケートさを優しく包み込む「笑い」で好評の『きのう何食べた?』(C)「きのう何食べた?」製作委員会
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  • 自然な“ながら動作”から伝える心情が心に響く内野聖陽の演技(C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • ひとり“サッポロ一番”で幸せな表情を浮かべるケンジ(C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • ドラマ24『きのう何食べた?』より (C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • ドラマ24『きのう何食べた?』より (C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • “もう1組の男性カップル”の大策(山本耕史)&航(磯村勇斗) (C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • ドラマ24『きのう何食べた?』より (C)「きのう何食べた?」製作委員会
  • (C)「きのう何食べた?」製作委員会

提供元:CONFIDENCE

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