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「アカデミー賞」直前、『万引き家族』『未来のミライ』現地で高評価

 今週末に授賞式が行われる『第91回アカデミー賞』。今年は日本から、外国語映画賞に『万引き家族』、長編アニメーション映画賞に『未来のミライ』がノミネートされている。米メディアや映画関係者たちが各々の受賞予想を発表するなか、日本の2作への評価や声、一般観客の反応は、どのようなものなのか?そして、オスカー受賞の可能性は?授賞式直前の現地ハリウッドから、同2作を取り巻く温度感をお伝えしたい。

是枝裕和監督の映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

是枝裕和監督の映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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■『万引き家族』:受賞予想は控えめでも、評価&興収は上々

 まず、外国語映画賞にノミネートされている『万引き家族』は、過去に例を見ないほどの最強ライバルと肩を並べている。ノミネート作品の1本である『ROMA/ローマ』が、オスカー最大の目玉となる作品賞、さらには監督賞の最有力候補でもあるからだ。

『ROMA/ローマ』は、政治的・社会的混乱に揺れる1970年代のメキシコを舞台に、中流家庭とその家政婦の姿を描いたモノクロのドラマ映画。監督は、2014年に『ゼロ・グラビティ』で監督賞を受賞し、オスカーの寵愛を受けるアルフォンソ・キュアロンだ。自身の体験を投影したというコンセプト、人種や階級社会を扱ったテーマ、映画初出演の主演女優、現政権の国境強化案をめぐって関心が高まるメキシコが舞台、躍進中の動画配信サービス・Netflixによるオリジナル映画と、これ以上ないほどのアピール要素を携えた同作は、今年の賞レースを通じて、外国語映画賞をほぼ総なめしてきた。

 こうしたなか、同作を支持する会員が、作品賞や監督賞に票を投じ、外国語作品賞では、あえて別の作品を選ぶ可能性も考えられる。その場合の有力候補とされているのが、情熱的で繊細なモノクロの恋愛映画『COLD WAR あの歌、2つの心』(ポーランド)だ。ヨーロッパのアワードを席巻したほか、米国内でもナショナル・ボード・オブ・レビュー賞やニューヨーク映画批評家協会賞など、いくつかの主要アワードで『ROMA』を抑えている。

 さらにパヴェウ・パヴリコフスキ監督は、『万引き家族』がパルム・ドールに輝いた『カンヌ国際映画祭』で監督賞を受賞。『アカデミー賞』ではブラッドリー・クーパー(『アリー/スター誕生』)をおさえて、監督賞ノミネートを果たしている。こうした流れもあり、米主要メディアでは「外国語映画賞は『ROMA』が最有力。ただし、作品賞との票割れで『COLD WAR』の可能性もあり」という予想が目立つ。実際にこの2作は、メディアやSNSでも大々的なオスカー・キャンペーンを行っており、この数週間は2作のプロモーションを目にしない日がないほどだ。

■話題作がひしめくホリデーシーズンに一般観客を魅了

 こうしたなか、オスカー受賞予想においては控えめな『万引き家族』だが、批評家や関係者の評価、一般観客の反応はすばらしい。米映画批評サイト「ロッテン・トマト」の評価は99%と、ほぼ最高レベル。数々のレビューでは、カンヌ最高賞を受賞した同作に限られない是枝流フィルムメイキング、あまり語られることのない日本社会の深部に踏み込んだテーマ、そして、キャスト陣、とくに安藤サクラの演技に対し、惜しみない賞賛が贈られている。

 興行収入の面でも大健闘。米国で昨年11月の限定公開からスタートし、12月末時点で約100万ドル。その後、1月半ばのオスカー・ノミネーション発表前で200万ドル、ノミネーション発表後から今月18日までに309万ドルと、着実に興収を伸ばしている。

 米国の一般観客は、字幕やスピード感、異文化テーマの問題などから、外国語映画への関心が薄い傾向にあるため、どんなに批評家やメディアの評価を得ても、興収に数字が表れないことが多い。こうしたなか、『万引き家族』は、話題作がひしめくホリデーシーズンの劇場でも、しっかり上映枠を獲得し、一般観客を魅了した。

■大々的なPRを行っている『COLD WAR』の興収に迫る勢い

 その他の外国語映画賞ノミネート作品の興収(今月17日時点)は、『COLD WAR』が356万ドル、『カナペウム』(レバノン)が103万ドル、『ネバー・ルック・アウェイ』(ドイツ)が27万ドル(『ROMA』は、Netflixが視聴者数も劇場興収も公表していない)。『万引き家族』は、大々的なPRを行っている『COLD WAR』に迫る勢いだ。

 ちなみに、2009年に『アカデミー賞』外国語映画賞を受賞した『おくりびと』の米興収は150万ドル。上映劇場数や期間、他作品の動きなどが異なるため、単純比較はできないが、米公開された日本の実写映画としても、『万引き家族』の健闘ぶりがわかる。

■『未来のミライ』:受賞はなくても、細田アニメーションへの期待は高い

『未来のミライ』がノミネートされている長編アニメーション映画賞においても、米メディアや批評家の予想は1本に集中している。こちらも賞レースをほぼ総なめしている『スパイダーマン スパイダーバース』だ。同部門はディズニー/ピクサー映画の独壇場であり、過去11年で同スタジオ以外の作品が受賞したのは、一度だけ(2011年の『ランゴ』)。

 それを考えると、大人も子どもも魅了した『インクレディブル2』、ウィットとユーモアに飛んだ内容で好評価を得た『シュガー・ラッシュ:オンライン』という続編コンビも有力なのだが、『スパイダーマン スパイダーバース』の勢いは止まらなそうだ。業界人気の高いウェス・アンダーソン監督が、日本を舞台に日英バイリンガルで描いた『犬ヶ島』も、好意的な評価を受けているものの、受賞の可能性は薄いとみられている。

■米アニメファンから絶大な信頼を得ている細田守監督

 こうしたなか、『未来のミライ』もオスカー受賞予想においては控えめな立ち位置だが、批評家や映画ファンの評価は温かい。今月初めに発表されたアニメーション作品の最高峰であるアニー賞では、インディペンデント長編アニメーション映画賞を受賞(最高賞の長編アニメーション映画賞は『スパイダーマン スパイダーバース』)。

 昨年11月にハリウッドのアニメーション映画祭で上映された際には、満席の観客から、たびたび笑いが起こり、上映後の質疑応答では質問が止まらないほどだった。細田監督は、米アニメファンのなかで『劇場版デジモンアドベンチャー』シリーズの監督として絶大な信頼を得ており、批評家や映画通の間では『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』など過去作品の実績と合わせて、「アニメの達人」と呼ぶ声も多い。

 アカデミー賞の同部門に、スタジオジブリ以外の日本作品がノミネートされるのは初めてだが、「宮崎駿の次にオスカー常連となる可能性の高い日本のアニメーション映画監督」として、細田監督の名前を挙げる声もある。『未来のミライ』の興収自体は75万ドルと控えめだが、米国においても、観た人の心に残ったのではないだろうか。

■それでも何が起こるかわからないのが『アカデミー賞』

 このように、日本作品がノミネートされている両賞とも、強力な1本に大方の予想が集中しているのだが、何が起こるかわからないのが『アカデミー賞』でもある。とくに今年は、賞レースを通じて、各団体や組織の“お気に入り”がばらけている。

 数年前まで年配の白人男性が大多数を占めていたアカデミー会員が、大規模な増員により、急速に多様化している状況もある。予想外のサプライズが起きる可能性も十分にあるのだ。両部門の受賞作が発表される瞬間のドキドキを楽しみにしつつ、オスカーの行方とは別の次元で米映画ファンを魅了した2作品に敬意を表したい。
(文/町田雪)

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  • 是枝裕和監督の映画『万引き家族』(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
  • 細田守監督の映画『未来のミライ』(C)2018 スタジオ地図

提供元:CONFIDENCE

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