民放テレビ局による公式見逃し番組サービス「TVer」。2015年10月にスタートし、無料で民放の番組の直近放送回が見られる利便性から順調にユーザーを獲得してきた。テレビとネットの連携がますます求められる中、この秋から4年目に突入するTVerの将来像やローカル局との関係性など、今後取り組んでいく方向性について、TVer事務局長を務める日本テレビのICT戦略本部部長・山川洋平氏に話を聞いた。
■五輪&W杯の“地上波同時配信”は好調も「あくまで実験的な取り組み」
TVerは今年2月の平昌オリンピックと、6月〜7月のロシアW杯でライブ&アーカイブ配信を実施。これまではドラマが人気コンテンツだったためユーザーは女性が多かったが、特にロシアW杯を契機にスポーツに興味を持つ男性ユーザーが飛躍的に増加したという。「日本代表の決勝トーナメント進出がかかったポーランド戦は、地上波との同時配信視聴が最大で約18万、再生数が約86万でした。午後11時キックオフで基本的に在宅率の高い時間帯ですし、ライブ配信でも1分近くもディレイがあったので、TVerで視聴したのは勤務先でテレビが見られない人や、家にテレビデバイスがない人など、テレビ視聴を選択できない人の数字だと思われます。なので番組の平均視聴率が44.2%でしたが、食い合いはほとんどなかったのではないかと思っています」(山川氏、発言は以下同)。
ライブ配信へのニーズの高さを証明しているが、山川氏は「こういった大きなスポーツのライブ配信はあくまで実験的な取り組みで、TVerは地上波の同時配信のプラットフォームではありません。あくまで見逃し視聴という放送の補完ツールという位置付けです」と強調する。しかし、NHKが来年からテレビ放送とネットの同時配信を開始する意向を示しており、実現すると民放局にも同じ対応を求める声も上がるはず。その時に実績もありユーザーからも支持を集めるTVerが、何らかの役割を果たす可能性は高いと思われる。
民放がNHKに比べて同時配信に慎重になる理由、それは全国各地のローカル局(ネットワーク局)の存在だ。ローカル局はキー局制作の番組と、自社制作のローカル番組を組み合わせて放送している。だが、キー局が全国で放送同時配信を行うと地域の垣根がなくなり、ローカル局の放送がそもそも見られなくなってしまい、その存在意義が大きく揺らいでしまう恐れがあるのだ。ローカル局には地元の出来事や事件を取材して放送するだけではなく、地域の代表としてニュース素材を全国に取材・提供する役割がある。この優れた民放ネットワークが、ローカル局が弱体化することで根幹から崩れてしまう危険性もはらんでいる。
ただし、ローカル局にもチャンスは広がっている。これまでは自分たちで作った番組を他の地域で見てもらうには、他地域の放送局に番組を販売するしか方法がなかったが、TVerを使うことで全国で視聴される機会を得ることができるのだ。山川氏は「TVerをそういう場として使っていただきたい思いもある。日テレ系列でいうと、名古屋の中京テレビさんの『太田上田』という番組をTVerなどで無料配信していますが、まずはコンテンツを日テレが預かって、そこに我々がCMをつけて、再生数に応じた収益を中京テレビさんに払っています。ただ、これだとローカル局はコンテンツプロバイダ(CP)の立場に留まってしまうので、いずれは広告も各局で販売できる形になればいいなと思っていますが、ある程度のコンテンツ数が必要になるし、システム維持に費用もかかってくる。地域によって局の規模も異なってきますし、検討すべき課題は多々ありますが、TVerをキー局だけのものではなく民放ネットワーク全体のサービスにしていきたいと考えています。ローカル局ならではのメリットがあるはずなので、一緒に考えていきたい」と思いを明かす。
■ニーズ高い“テレビデバイス対応”も課題は多数 天才テレビマンの考えで立ち向かう
現在のTVerはPC、スマホ、タブレットなどで視聴できるが、テレビデバイスには対応していない。ユーザーはもちろん、テレビメーカーからの要望もあるというが「新たなシステム開発費もかかりますし、大画面用に画質(ビットレート)についても改善が必要になり、通信量も上がる。さまざまなコストがかかるので課題は多いですね。それに、スマホなどで見るから放送の“補完”サービスなので、テレビ画面でTVerを見られるとリアルタイムのテレビに影響が出るのではないか、という意見も当然予想されます」。
しかし、日本テレビのグループ企業であるHuluをはじめNetflixやAmazonプライムビデオなどの動画配信サービス、インターネットテレビ局のAbemaTV、さらには動画投稿サイトの最大手YouTubeなど、地上波テレビのライバル的存在が既にテレビデバイスに対応しており、大画面で高画質の動画を楽しめる環境が整っている。「地上波への影響を危惧し対応を控えている間に、他のOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスにユーザーが流れてしまう危機感は持っていますので、どのように取り組んでいくのか、TVerと民放テレビ全体の喫緊の課題として捉えています」。
その課題解決の道標となるのは、日本テレビで『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』(1988〜96年)や『マジカル頭脳パワー!!』(90〜99年)などの大ヒットバラエティー、さらにドラマ『家なき子』(94年)などを手がけた「伝説の天才テレビマン」こと、小杉善信氏(現・日本テレビ副社長)が掲げてきた「視聴者ファースト」という精神だろう。日テレでは、番組の編集や編成で悩んだときは「とにかく、視聴者が何を望むのかを第一に考えて判断する」という小杉氏の考えが徹底されている。視聴者がテレビデバイスでTVerを見たいという声が高まりきったとき、視聴者のニーズに応える解決策を必ず提示してくれるだろう。
開始から3年、さまざまな課題や障壁と向き合い、一つずつクリアしながら成長を続けてきたTVer。今月になり「NHKが今秋にも参加する検討に入った」という報道も出た。果たしてTVerはどのように進化していくのか。TV番組は見逃しても、TVerからは“見逃し”厳禁だ。
■五輪&W杯の“地上波同時配信”は好調も「あくまで実験的な取り組み」
TVerは今年2月の平昌オリンピックと、6月〜7月のロシアW杯でライブ&アーカイブ配信を実施。これまではドラマが人気コンテンツだったためユーザーは女性が多かったが、特にロシアW杯を契機にスポーツに興味を持つ男性ユーザーが飛躍的に増加したという。「日本代表の決勝トーナメント進出がかかったポーランド戦は、地上波との同時配信視聴が最大で約18万、再生数が約86万でした。午後11時キックオフで基本的に在宅率の高い時間帯ですし、ライブ配信でも1分近くもディレイがあったので、TVerで視聴したのは勤務先でテレビが見られない人や、家にテレビデバイスがない人など、テレビ視聴を選択できない人の数字だと思われます。なので番組の平均視聴率が44.2%でしたが、食い合いはほとんどなかったのではないかと思っています」(山川氏、発言は以下同)。
民放がNHKに比べて同時配信に慎重になる理由、それは全国各地のローカル局(ネットワーク局)の存在だ。ローカル局はキー局制作の番組と、自社制作のローカル番組を組み合わせて放送している。だが、キー局が全国で放送同時配信を行うと地域の垣根がなくなり、ローカル局の放送がそもそも見られなくなってしまい、その存在意義が大きく揺らいでしまう恐れがあるのだ。ローカル局には地元の出来事や事件を取材して放送するだけではなく、地域の代表としてニュース素材を全国に取材・提供する役割がある。この優れた民放ネットワークが、ローカル局が弱体化することで根幹から崩れてしまう危険性もはらんでいる。
ただし、ローカル局にもチャンスは広がっている。これまでは自分たちで作った番組を他の地域で見てもらうには、他地域の放送局に番組を販売するしか方法がなかったが、TVerを使うことで全国で視聴される機会を得ることができるのだ。山川氏は「TVerをそういう場として使っていただきたい思いもある。日テレ系列でいうと、名古屋の中京テレビさんの『太田上田』という番組をTVerなどで無料配信していますが、まずはコンテンツを日テレが預かって、そこに我々がCMをつけて、再生数に応じた収益を中京テレビさんに払っています。ただ、これだとローカル局はコンテンツプロバイダ(CP)の立場に留まってしまうので、いずれは広告も各局で販売できる形になればいいなと思っていますが、ある程度のコンテンツ数が必要になるし、システム維持に費用もかかってくる。地域によって局の規模も異なってきますし、検討すべき課題は多々ありますが、TVerをキー局だけのものではなく民放ネットワーク全体のサービスにしていきたいと考えています。ローカル局ならではのメリットがあるはずなので、一緒に考えていきたい」と思いを明かす。
■ニーズ高い“テレビデバイス対応”も課題は多数 天才テレビマンの考えで立ち向かう
現在のTVerはPC、スマホ、タブレットなどで視聴できるが、テレビデバイスには対応していない。ユーザーはもちろん、テレビメーカーからの要望もあるというが「新たなシステム開発費もかかりますし、大画面用に画質(ビットレート)についても改善が必要になり、通信量も上がる。さまざまなコストがかかるので課題は多いですね。それに、スマホなどで見るから放送の“補完”サービスなので、テレビ画面でTVerを見られるとリアルタイムのテレビに影響が出るのではないか、という意見も当然予想されます」。
しかし、日本テレビのグループ企業であるHuluをはじめNetflixやAmazonプライムビデオなどの動画配信サービス、インターネットテレビ局のAbemaTV、さらには動画投稿サイトの最大手YouTubeなど、地上波テレビのライバル的存在が既にテレビデバイスに対応しており、大画面で高画質の動画を楽しめる環境が整っている。「地上波への影響を危惧し対応を控えている間に、他のOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスにユーザーが流れてしまう危機感は持っていますので、どのように取り組んでいくのか、TVerと民放テレビ全体の喫緊の課題として捉えています」。
その課題解決の道標となるのは、日本テレビで『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』(1988〜96年)や『マジカル頭脳パワー!!』(90〜99年)などの大ヒットバラエティー、さらにドラマ『家なき子』(94年)などを手がけた「伝説の天才テレビマン」こと、小杉善信氏(現・日本テレビ副社長)が掲げてきた「視聴者ファースト」という精神だろう。日テレでは、番組の編集や編成で悩んだときは「とにかく、視聴者が何を望むのかを第一に考えて判断する」という小杉氏の考えが徹底されている。視聴者がテレビデバイスでTVerを見たいという声が高まりきったとき、視聴者のニーズに応える解決策を必ず提示してくれるだろう。
開始から3年、さまざまな課題や障壁と向き合い、一つずつクリアしながら成長を続けてきたTVer。今月になり「NHKが今秋にも参加する検討に入った」という報道も出た。果たしてTVerはどのように進化していくのか。TV番組は見逃しても、TVerからは“見逃し”厳禁だ。
2018/08/31