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寄稿・江上剛氏 自らの経験そのままに、銀行の頭取役としてドラマ出演

 テレビ東京系で16日にスタートするドラマBiz『ラストチャンス 再生請負人』(毎週月曜 後10:00)に、原作者の江上剛氏が、主演の仲村トオル演じる主人公・樫村が務める銀行の頭取役として出演することが発表された。過去に日本振興銀行の社長として、ドラマと同じような記者会見をした経験があるという江上氏は、「演じたのではなく、本気の記者会見を行った」とコメント。命懸けで銀行の再建に奔走した過去の自身の経験を思い出しながら撮影に臨み、これ以上ないリアリティーあふれる熱演をみせたという。そんな、江上氏がドラマ化にあたり、手記を寄せた。

* * *
 今回、テレビ東京様で私の原作『ラストチャンス』(講談社文庫)がドラマ化されることになり、非常にうれしく思っています。先日、ドラマの打ち上げに参加させていただきました。挨拶をしろと言われ、壇上から仲村トオルさん、椎名桔平さんをはじめとする俳優の方々、撮影スタッフ、それに監督の本橋圭太さん、脚本の前川洋一さん、プロデューサーのテレビ東京・川村庄子さんなどの顔を見た時、思わず胸が詰まりました。こんなに多くの人たちが、長い時間をかけてドラマを作ってくださったのだ…。そう思うと感激と感謝の思いが込み上げてきたのです。

 この小説は、私にとって非常に思い入れの深い作品です。日本振興銀行の再建に奔走している時の経験で書いたものだからです。銀行は、結果として力及ばず日本初のペイオフで破綻させてしまいましたが、私は、作家という仕事を離れて、本当に命懸けでなんとか生き残らせようと頑張りました。

 元々の経営者がいなくなった後、社外役員だった私が経営を担わねば、取引先や預金者、そして社員に大きな迷惑をかけてしまう。それだけは絶対に回避しなければ、人間失格だという強い思いでした。多くの人からいただいた「火中の栗を拾うことはない」「損な役目を引き受けるな」という温かいアドバイスには「逃げるわけにはいきません」と答えたものでした。

 その再建の過程で仲間を失いました。同じ社外役員だったAさんは自殺、Mさんは病死です。前途に希望はなく、私もこのまま消えてしまえば、どれだけ楽になることだろうかと思いました。そんな中で私を支えてくれたのが、『ラストチャンス』の樫村徹夫(ドラマでは仲村トオルさん)のモデルとなったKさんです。
 
 Kさんは大手都市銀行出身で、経営コンサルタントをしていた方でした。私の悩みを聞いてくださり、一緒に不良債権の調査をし、銀行の債権案を練り、深夜まで一緒に働きました。金融庁との交渉にも随行してくださり、強力にサポートしてくださったのです。本当に右腕というべき存在でした。

 ある日、二人で夕食を兼ねて居酒屋に行きました。その時、Kさんの人生をいろいろ伺ったのです。Kさんは当時働いていた銀行がそれより大手の銀行と合併することが決まって、外に飛び出しました。そこからは苦労の連続だったのです。その苦労の中に飲食店チェーンの会社を再建する話がありました。Kさんが財務に強かったために再建を頼まれたのです。ところが会社は想像以上に経営が悪く、Kさんは苦労に苦労を重ねます。しかしなんとか再建の道筋がつき、希望が見えたので会社を去ることになります。

 Kさんが会社を去る日になりました。チェーン店のある店に来て欲しいと社員に言われます。何事かと思って出かけると、そこには苦労を共にした会社の若い人たちが大勢集まっていたのです。そして女性社員が、それはそれは大きな、そして色とりどりの花を束ねた花束を持って「Kさん、ありがとうございました」と言ってくれたのです。その場は拍手に包まれました。

 その話を聞いた時、私とKさんは涙を流しました。銀行の再建の目途をつけて、社員の皆さんから「ありがとうございました」と言ってもらえるシーンを想像したからです。私は、Kさんの話を小説にしようと思いました。そして書き上げたのが『ラストチャンス』です。

 主人公の樫村はKさんがモデルですが、私自身を強く仮託してもいます。樫村は普通のサラリーマンです。スーパーマンでもなんでもありません。しかし彼は「逃げません」。デリシャス・フードの経営が悪いと分かっても、お客様、社員、取引先のために残って頑張ります。さっさと逃げてもいいのに残るのです。歯を食いしばって、その場で最後まで戦います。今の時代は、官僚も経営者も誰もかれもが無責任で、なんの責任を取ろうとしません。樫村という男は、そんな時代のアンチヒーローだと言えます。普通のサラリーマンだからこそ、やる時はやるんです。責任を取るんです。

 それは見ていただける視聴者の方々の生き方そのものだと思っています。不器用だけど、自分の責任は果たす。これが樫村という男です。それは繰り返しますが、視聴者の皆さん、そのものです。私は、監督に頼まれて、合併を発表するシーンに頭取役で登場しました。多くのエキストラのみなさんを前にして緊張しました。上手い演技をして監督にほめられようと、ゲスなことを考えていました。

 しかし何度かカットを撮るうちに、銀行再建の過程で記者会見をしたことを思い出しました。演じているのではなく、本気の記者会見を行っていました。短い場面ですが、私の迷演技を見ていただければ幸いです。

 7月16日の夜10時に第一話が始まります。実は、事前に拝見しました。丁寧に描かれていると思いました。特に樫村の家庭のシーンで宮内(椎名桔平さん)の誘いを受けないと妻の明子(長谷川京子さん) に語るシーンはグッときました。プライドがあるんだってところが見事に演じられていたからです。サラリーマンは宮仕えと言いますが、仕える者にも矜持があります。これを無くしたら只のでくの坊になってしまうのです。

 それから謎の占い師(ミッキー・カーチスさん)ですが、あの占い師は本当に存在しているのです。出会ったのは私が18歳で大学の1年生の時です。あの時も人生に大いに悩み、岐路に立っていました。深夜、阿佐ヶ谷の商店街を歩いていた時、占い師がいたのです。私は、後にも先にもその時、初めて未来を占ってもらいました。人生、七味唐辛子…。どんな苦労も逃げずにぶつかれば、無駄なことはない。占い師は私に教えてくれました。占い師とは、その後、一度も会ったことはありません。

 皆さまのご支援で「ラストチャンス」がドラマ化になり、本当にありがとうございます。大ヒットしますかどうか、密かに占ってもらおうかなと思っています。

平成30年6月吉日
江上剛
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 同ドラマのテーマは、「会社の再生(再建)と人の再生」。第一線で活躍していた銀行マンが、長年勤めた銀行の合併を機に人生を見つめ直し、転職を決意。異業界で会社再建に奮闘する波乱万丈な日々をドラマチックに描く。主人公の挫折や仲間の裏切り、妬み…そんな人生の辛さを乗り越えながら、崖っぷちに立たされた、とある飲食フランチャイズ企業の再生と共に「働くとは何か?」「企業にとって大切なこととは何か?」 に気づいていく…。

 仲村トオル、椎名桔平、和田正人大谷亮平勝村政信本田博太郎町田啓太石井正則嶋田久作、ミッキー・カーチス、竜雷太水野美紀、長谷川京子などが出演する。



関連写真

  • テレビ東京系ドラマBiz『ラストチャンス 再生請負人』(7月16日スタート)原作者の江上剛氏が主人公・樫村(仲村トオル)が勤める銀行の取締役として出演(C)テレビ東京
  • 過去に日本振興銀行の社長として、ドラマと同じような記者会見をした経験があるという江上氏(C)テレビ東京
  • 「本気の記者会見を行った」とコメントしている(C)テレビ東京

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