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大人がハマる「Eテレ」 “教育”を隠れ蓑にした前衛的な番組が魅力

 幼いころ、お母さんと一緒に誰もが見たことがある「NHK Eテレ」の番組。チビッコが楽しく歌って踊っていたり、歯磨きしたりパジャマを着たり、子供向けのアニメが放送されたり――高校野球の放送などもあるが、やはり“教育テレビ”という名の通り、子ども向けというイメージが強い人も多いのではないだろうか。しかし、そんなEテレに最近、大人の隠れファンが増えている。何気なく流れる曲は坂本龍一、コーネリアスといった大人の音楽ファン垂涎の音楽アーティストが手がけ、昔話をモチーフにした法廷ドラマなど、何ともシュールな企画も目立つ。“教育”という言葉を隠れ蓑に、大人の遊び心を感じる比較的自由度の高いコンテンツ制作が行われているのだ。

『みいつけた!』で「オフロスキー」として人気を集める俳優・小林顕作 (C)ORICON NewS inc.

『みいつけた!』で「オフロスキー」として人気を集める俳優・小林顕作 (C)ORICON NewS inc.

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■子ども向け番組とは思えない豪華なキャスティング

 民放のように放送番組を派手に宣伝するわけでもなく、子ども向けのイメージが強いEテレは目立たない存在だ。けれども、子どもと一緒に観ていたら、思わず見どころ満載のキャスティングやシュールすぎる企画に驚かされた、という人も多いのではないだろうか。例えば、未就学児を対象にした朝の番組『みいつけた!』。小さな女の子「スイちゃん」とイスのキャラクター「コッシー」など子どもが親しみやすいキャラクターはもちろん、大人が思わず唸ってしまうようなクオリティの高い音楽、ユニークなキャスティングや個性の強いキャラクターが数多く登場するのだ。

 最近では歌手でタレントのDAIGOがサボテン界のロックスター「サボダイゴ」に扮してゲスト出演する回が話題を呼んだが、「よんだ?」と毎回バスタブから現れる俳優・小林顕作による「オフロスキー」は大人の間でも“癒される”として人気で、Twitterなどでも盛り上がりを見せる。また、宮藤官九郎が作詞を手掛け、作曲に星野源、編曲は益田トッシュ、歌う応援団長役に三宅弘城を起用したクドカンワールド満載の「おっす!イスのおうえんだん」というものまで。子ども番組でさえ、教育番組にありがちな“教科書調”のイメージに囚われない。ウルフルズのトータス松本がパワフルに歌い上げる曲や、「コッシー」の声を務めるお笑い芸人サバンナの高橋茂雄がボーカルを担当し、山崎まさよしやスキマスイッチらが書き下ろす歌が番組のフックになっている。

 また、「教育」と「エンタテインメント」を組み合わせた「エデュテイメント」と呼ぶものをNHKらしくマジメに追求して作った結果、ハイエンドな番組も次々と作られるようになった。歴史の長い『みんなのうた』は最近の人気アーティストはもちろん、ボカロまで取り入れているし、デザインを題材とした『デザインあ』は、音楽はコーネリアス、総合指導は佐藤卓、映像監修に中村勇吾を揃え、第一線のクリエイター陣が制作する実に時代の先端を行く番組となっている。また『にほんごであそぼ』では俳人・小林一茶と坂本龍一のコラボレーションや、野村萬斎や中村勘九郎が伝統芸能をポップにリズムよく披露するコーナーもある。昔話をモチーフにした法廷ドラマ『昔話法廷』も見逃せない。「三匹のこぶた」や「かちかち山」などの登場人物が法廷にかけるという何ともシュールな設定は中高生向けに作られたそうだが、大人が見ても面白いと話題を集めた。


■「教養番組」の枠に入ってさえいれば比較的自由に番組制作が可能

 この独自路線っぷりは何ゆえか? まずは、子ども番組がEテレ寡占状態にあることが挙げられることだろう。かつて、フジテレビの『ひらけ!ポンキッキ』や『ピンポンパン』、日本テレビの『おはようこどもショー』など、朝夕の民放地上波には子ども向け番組が並んでいた時代があり、そこから人気のお姉さんやお兄さん、また様々なキャラクターが生まれ、子どもたちの支持を集めていた。しかし、1980年代になるとそうした番組は次々と姿を消していき、1990年代以降は少子化の影響などから地上波で枠を確保することが難しくなってきた。今では民放地上波の子ども番組と言えば、アニメや実写ヒーローものがメイン。つまり、ライバル不在だから、のびのびと実験的な企画も作ることができるとも言える。

 また、2000年代に入ってから、子ども番組に人気タレントを起用する事例が増え、民法のバラエティ番組のような番組制作の手法も取り入れていたが、「NHK Eテレ」という一般名称を使用し始めた2011年ごろから視聴者層の拡大を目指してその動きが顕著になったことも大きいだろう。「教養番組」という枠にさえ入っていれば、子どもが見ても大丈夫だし、少し冒険をしても大人からは“面白い”と捉えられる。さらにタレントはNHK価格で起用することができるため、民放局のように限られた制作費のなかで工面し、悩まされることもない。キャスティングに凝ることができ、遊びもできるのだ。

 見方によっては、境遇は真逆なはずなのに、もしかしたらテレビ東京のセオリーと似ていのかもしれない。低予算ゆえにアイディアを絞り出すテレビ東京と、「教養番組」という限定された枠を軸に潤沢な予算から自由な発想を生み出すEテレには、視聴率至上主義ではないという共通点があるからなのかもしれない。

(文/長谷川朋子)

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