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いまだ巨大市場を形成 『妖怪ウォッチ』をも圧倒する『ガンダム』のコンテンツパワー

 先日、バンダイナムコホールディングスの2015年通期決算が発表された。売上高は過去最高となる5654.9億円(昨年同期比11.4%増)で、その好調ぶりが話題となったが、注目したいのが、IP(キャラクターなどの知的財産)別売上高だ。昨年から大ブームを巻き起こしている『妖怪ウォッチ』の552億円に対し、『機動戦士ガンダム』が767億円と、いまだに「ガンダム」の強さが示されたのだ。この両者の巨大コンテンツを比較しつつ、あらためて「ガンダム」コンテンツを検証してみたい。

2万1600円と高額ながら1万セット以上を売り上げている『劇場版 機動戦士ガンダム Blu-ray トリロジーボックス プレミアムエディション』(14年5月発売)

2万1600円と高額ながら1万セット以上を売り上げている『劇場版 機動戦士ガンダム Blu-ray トリロジーボックス プレミアムエディション』(14年5月発売)

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■『妖怪ウォッチ』より『ガンダム』の売上が高い理由

 そもそも『妖怪ウォッチ』のブームは、ゲーム会社「レベルファイブ」から発売されたニンテンドー3DSのゲームソフトが大ブレイクしたことに始まり、コミック、アニメへと派生していった。妖怪メダルなどのオモチャに関してはバンダイだが、映像に関してはテレビ東京などとともにバンダイは制作グループの一員でしかなく、DVDは角川グループから販売。バンダイナムコの売上を事業別でみると、大きく「トイホビー事業」と「コンテンツ事業」のふたつに分けられるが、コンテンツ事業での『妖怪ウォッチ』はせいぜいバンダイチャンネルで再放送するぐらいだ。つまり552億円は、ほぼトイホビーの売上となる。トイホビー事業のキャラ別をみると、『妖怪ウォッチ』の552億円に対し、ガンダムは229億円。オモチャだけなら、『妖怪ウォッチ』が『ガンダム』を圧倒しているわけだ。

 トイホビー事業では『妖怪ウォッチ』に差をつけられた『ガンダム』だが、前年が184億円だったことを考えると、順調に伸びているともいえる。プレミアムバンダイの高額ガンダムフィギュアは好調のようだし、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)をはじめとする既存のオモチャも順調。しかし、『ガンダム』の売上を単純計算すると、コンテンツ事業では538億円となり、ガンダムの売上全体をけん引しているのは、コンテンツ事業であることはまちがいないだろう。また、ガンダムの制作で知られるアニメ制作会社「サンライズ」も、1994年にはバンダイ傘下に入っている。ガンダムに関しては、アニメの制作からオモチャの販売にいたるまで、すべてバンダイナムコが手中に収めている。

■各世代、各作品ごとに新規ファンを獲得

 周知のとおり、1979年に放送が開始された『機動戦士ガンダム』(いわゆる“ファーストガンダム”)は、ガンプラの爆発的ヒットの相乗効果もあり、社会現象化までした。その後、『Z』『ZZ』、映画『逆襲のシャア』と続き、「宇宙世紀シリーズ」(宇宙世紀=物語中の年代設定)を中心に、90年代の『Gガンダム』『ガンダムW』『ガンダムX』『∀ガンダム』、2000年代以降の『ガンダムSEED』『ガンダムUC』『ガンダム00』『ガンダムAGE』と、テレビアニメや映画、OVAなどで続いていくことになる。“少年がモビルスーツに乗って戦っていくうちに人間として成長していく”という物語設定は基本的に同じだが、『ガンダムSEED』では、美少年・美少女キャラが多数登場。ファーストガンダムのように、少年少女が苦悩や葛藤など、人間関係を通して成長していく姿を描き、それまでのガンダム作品にはなかった“女子中高生”という新たなファン層までも獲得し、大ヒットした。

 さらに今、こうした新しいガンダム作品を子どもと一緒に観て、熱が甦って再度ガンダムの世界に戻ってくる、という“カムバック系”の大人も増えているという。2月28日から2週間限定で上映された、ファーストガンダム直前の世界を描いた映画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』が、わずか全国13館の上映ながら、週末興行収入ランキングで7位に入ったのも、そのあらわれだろう。

■もはや『ガンダム』は通過儀礼のようなもの

 また、バンダイナムコの決算報告書には、『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン) episode7 「虹の彼方に」』が、映像コンテンツと音楽コンテンツを連動させて、昨年は好調だったと書かれているが、この作品は実は2007年に小説ではじまり、DVD化されたのは2010年。このDVDの第7弾が、2014年にヒットすることからもわかるように、それぞれの作品の息が非常に長いのもガンダムの特徴だ。こうして各世代、各作品のファンを巻き込みながら拡大し続け、ホビーの分野とも連動して商品開発をおこなっていく。そこにガンダムの最大の強みがありそうだ。

 かつて筆者が、ガンダムの生みの親・富野由悠季監督にインタビューした際、「少年が男に成長するために必要なことを、ガンダムを通じて教えたかった」という趣旨のことを発言していた。極端にいえば、ガンダムは多くの少年が成長していくうえで、通り過ぎなければならない通過儀礼のようなものであり、もはや父から子へと伝承されていく、文化のひとつとさえいえるのではないだろうか。『妖怪ウォッチ』が、果たして『ポケモン』のように息の長い人気作品になるかどうかは、まだ誰にもわからない。しかし富野監督の名言「子どもを舐めちゃいけません」ではないが、ビジネス的にも「ガンダムを舐めちゃいけません」という状況は、今後もずっと続いていくように思われる。
(文/五目舎)

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