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紀里谷和明が“デジタルありき”の風潮に疑問〜JTB新CMで魅せた新たな映像美

 映画監督であり写真家の紀里谷和明が手掛けた女優・武井咲出演のJTB新CM『JTBの夏旅』。アナログ的な質感で旅先での思い出を、ゆっくりとした時間で表現。スタイリッシュな映像美に定評がある紀里谷らしからぬ、ある種“異質”な同作で、デジタル最優先という風潮へのアンチテーゼを投げかけたかったという。

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■“ナチュラル”ってよく言うけど全然ナチュラルじゃないんですよ

――紀里谷さんというと、スタイリッシュな映像美をまず思い浮かべてしまいがちですが、今作は非常にアナログ的な質感の作風で少々驚きました。
【紀里谷和明】そうでしょうね(笑)。今回は家族旅行がテーマとしてあったので、家族同士でビデオを撮り合ったような作風にしたかったんです。ホームムービーのような。最初はiPhoneで撮ろうと思ってたくらいですから。まぁ、さすがにそれはマズイかなと思って止めましたけど(笑)。

――言い方は難しいですけど、“アバウトさ”をテイストとして表現したかったんですね?
【紀里谷】うん。機材も良いものを使ったわけではないし、カメラも全部僕自身で回してね。やっぱり今のCMってハイクオリティが求められるじゃないですか? どんどん機械もよくなっていって、どんどん画もシャープになっている。それも良いことだとは思いますけど、今回は真逆のことがしたかった。いかにアナログな質感を出せるかに苦心しましたね。

――デジタルの申し子のような紀里谷さんがなぜそのような衝動に駆られたのか凄く興味がありますね。
【紀里谷】最近“ナチュラル”って言葉はよく使われるじゃないですか? でも、実は全然ナチャラルじゃない画の方が多くてね(笑)。こういう時代だからこそ、やっぱり異質なモノが欲しかったんでしょうね。このCMってほかの作品と横一列に並べてみると分かりやすいですけど、全く毛色の違う作品になっているんです。ピントも合ってない場面もあるし、色合いも全く異なるし。

――意図的にズラしたんですね。
【紀里谷】そうです。「シャープ」であることや「クリア」なことがスタンダードであるCM業界の中で、真逆のことをやることによって際立つというね。

――それはやっぱり、現状の映像業界に対する紀里谷さんなりのアンチテーゼがあったんでしょうか?
【紀里谷】ありましたね。もちろん僕も映画などで最新の技術や機材を使って新たな表現を試みていますけど、そこだけに固執していくような風潮に「どうなのかな?」っていう気持ちがありまして。写真なんかもそうなんですけど、デジタル技術で簡単にレタッチが可能で、現在はそれが当たり前になっているんです。つまり、クリエイティブの前にテクニカルな話になっていってしまうんです。

■不完全なことに対して恐怖する風潮がある

――本来あるべき流れとは真逆になってしまったんですね。
【紀里谷】今って、とにかく完璧さを求められるんですね。まるで不完全なことに恐怖しているような気さえしてくるというか…。つまり“遊び”や“ゆるさ”みたいなものが介入できないような風潮になってしまっているんです。だからこそ、今回のCMにはあえてそのような要素を入れたんです。僕は逆に“ゆるさ”みないなものが、今の時代求められているんじゃないかなって。たとえば家族の会話や友達との会話って、凄くゆるかったりするじゃないですか? でも、それが心地よかったり、安心感を得られたりするんです。

――CMなので当然、尺が短いですけど、凄くゆったりした空気感を表現されているのが印象的でした。あとは武井さんを筆頭に出演者の笑顔も。
【紀里谷】思い出や過去の体験というものはスローモーションで見える感覚がありますから。そこから今の状況から違う状況に身をおきたいという願望に変わることで旅への欲求が生まれるというかね。

――今CMを見て凄く寂しい気持ちになりましたね。心地よい寂しさというか。
【紀里谷】あぁ、女性がこの90バージョンのCMを見て泣いたっていう話は聞こえてきましたね。それはおそらく、そうありたいという自分とそうではない自分のギャップがあるからなんでしょうね。今回の作品では、具体的な描写の中に心理描写も絡めているんです。それは武井咲ちゃんの目線や表情でね。

――視聴者が武井さんに感情移入できる要因なんですね。
【紀里谷】そう。武井咲という感情移入できるフィルターを通っているからこそ。そこはやっぱり彼女の力が大きいと思いますね。

――そこで、視聴者が“何時か見たあの日の情景”を思い浮かべることが出来たと。
【紀里谷】うん。でも、ただのノスタルジアだけでは嫌だったんですよ(笑)。凄く難しい表現だけど、プロが作る“アマチュアっぽさ”を持ってきたかったというか…。それが視聴者にとって「あれ!? なんか違うぞ?」という異質感につながればいいなって思ってたんです。

■僕がデジタルを使い始めたのは可能性を広げるためだった…でも今は

――凄く意地悪な質問ですが、日本にデジタル技術を浸透させた担い手として、間違いなく紀里谷さんはその1人として挙げられます。その功罪という部分は…。
【紀里谷】仰りたいことはわかりますよ(笑)。僕がデジタルカメラを使いはじめたのは、可能性を広めるつもりだったんです。それはお金がなかったり、時間がないなどの限定された領域の中で、どうしたら超越できるのか? どのようにクリエイト出来るのか? を実現するためにデジタルを持ち込んだつもりだった…。でも、気がついたら逆にクリエイティブを殺す道具になってしまったんです。

――もはや“ツール”の域を超えてしまったと。
【紀里谷】そうです。クリエイティブにアグレッシブに最新のデジタルを使うのではなく、不安だから使わざるを得ないという現在の風潮に、このCMを通してアンチテーゼを投げかけたかったんです。



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