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「擬人化」がもたらす新コミュニケーション

 艦隊、家電、飲料、銃器、微生物…。身の回りのあらゆるものや概念を、美少女やイケメン、コミカルなキャラクターにしてしまう 「擬人化」がいま、注目を集めている。古くから日本では、自然に存在するすべてのものに神が宿ると考えられてきたが、それが進化 して、「萌え」や「愛らしい」要素がビジュアルとして追加され、人々の人気を集めているのだ。実はいま、その「擬人化」を、プロ モーションやブランディングのツールに活用する事例が増えている。擬人化で成功するコツとは何か。

日本の艦隊を“艦娘(かんむす)”として美少女化したブラウザゲーム『艦隊これくしょん-艦これ-』

日本の艦隊を“艦娘(かんむす)”として美少女化したブラウザゲーム『艦隊これくしょん-艦これ-』

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■キャラ理解度が成熟した日本は擬人化天国

 「擬人化」とは人間ではないものや概念を人間に見立ててキャラクター化すること。アニメ・コミック業界では長らく定着している手法だが、今年4月にサービス開始された萌えキャラクターに擬人化した艦船=「艦娘(かんむす)」を育成するゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」の爆発的ヒットでムーブメントは加熱。さらにはさまざまな企業もプロモーションやブランディングのツールに擬人化の手法を取り入れ、消費者層の拡大や掘り起こしに成功している。

 こうした擬人化コンテンツが盛り上がる背景には、『データベース消費』の概念が考えられる。これは評論家の東浩紀氏が提唱したもので、物語そのものよりも「キャラクター・設定・世界観」等の組み合わせを消費する態度のことを指す。特に日本のポップカルチャーに親しむ層はこの傾向が強く、それが同人誌に代表される二次創作文化を花開かせたのだろう。

 生活者のコンテンツ消費実態について調査を行っている博報堂DYメディアパートナーズの加藤薫氏によると、「二次創作のポイントは、『キャラクター・設定・世界観』が決まっていれば、公式の創作以外に第三者でも自由に作品を作る余地があること。世界観が綿密に練られた日本のコンテンツが二次創作に向いているのは、ここに由来します。擬人化もまた二次創作から派生した手法なので、日本のコンテンツは構造上、擬人化と相性がいいと言えるでしょう」という。また加藤氏は、「日本人はもともと擬人化キャラクターを読み解く能力が高い」ことも指摘。コアなアニメファンでなくとも、絵を見れば一瞬で「このキャラはクール系、このキャラは妹系」などと理解できるほど、現代の日本社会にはアニメが定着している。こうしたポップカルチャーの共有もまた、「理解のスピードの速い、一枚絵のコミュニケーション」である、擬人化の手法がうまくハマった背景にあるようだ。

 さらに加藤氏は、近年の擬人化コンテンツ増加の背景に、ソーシャルメディアとスマートフォンの普及にともなう「理解のスピードの速い、一枚絵のコミュニケーションの受容性」の高まりをあげている。

 「1日に接触する情報量が加速度的に増えているなか、長々とテキストで説明するより、一目でパッと理解できる絵や写真のほうが現代のライフスタイルに合っていると言えるでしょう。イラストで商品などの特徴を伝える擬人化は、スマホの小さい画面ですぐ視認できることも大きなメリットです」(加藤氏)

■密度の濃い擬人化にユーザーは巻き込まれる

 さて、現代の擬人化ムーブメントの起点とされるのが、03年にコミックで初出された「びんちょうタン」。備長炭を萌えキャラクター化するという意外性から、04年度「日本オタク大賞」に輝いた作品だ。同作はアニメ・ゲーム化もされ、現在も備長炭の名産地である和歌山県みなべ町「南部川村森林組合」のマスコットキャラクターとして親しまれている。

 備長炭の例からも、「もはや擬人化できないものはない」と言っても過言ではない。しかし「びんちょうタン」から10年、これだけ擬人化コンテンツが百花繚乱してユーザーの目も肥えた今、安易な擬人化は一笑に伏されるだけだ。

 キャラクター化によって商品や企業への親しみを喚起させるのも擬人化のメリットだが、忘れてはならないのが、擬人化とはもともと二次創作、つまりユーザー参加から派生したムーブメントでというあるということだ。

 博報堂 研究開発局の佐藤誠一氏は、「ここ数年でコンテンツの楽しみ方が、コンテンツそのものだけでなく、それを介したコミュニケーションまで重視されるようになった」ことを指摘し、成功する擬人化のポイントに次の3要素をあげる。

●擬人化の3つのポイント
1・受け手や描き手に商品のイメージ、キャラが共有されていること
2・商品に、擬人化する際の拠り所となる特徴的なスペックやエピソードが数多くあること
3・描き手が商品に対して非常に強い思い入れを持っていること

 「『艦これ』成功のきっかけは制作者側の細やかな擬人化に対して、同じ対象を愛しているミリタリー好きや歴史好き層が感応して、密度の濃い議論や感想が飛び交ったこと。それがまとめサイトなどで可視化され、コミケ会場に同人誌が溢れたことで、作品を知らない人たちが『何か面白いことが起きている』と参入したのではないかと考えています」(佐藤氏)

 一方、サントリー食品インターナショナルや雪印メグミルクが展開する擬人化プロジェクトは、商品をテーマにしたイラストコンテストを開催。企業が能動的にユーザーを巻き込む形で擬人化を成功させた。

 「歌声合成ソフトやパソコン用ペンタブレット、漫画制作ソフトなどの制作環境が以前と比べて非常に安価になり、かつ流通インフラ(=「ニコニコ動画」やイラスト投稿・閲覧サイト「pixiv(ピクシブ)」など)も整って、何かを創作したい人が非常に増えています。しかし環境が整ったとは言え、オリジナルのコンテンツを一から作る難しさは変わりません。擬人化はそうした『何かを作りたいけれどゼロから作ることがなかなかできない』人にとってのスプリングボードとなります」(佐藤氏)

 サントリー、雪印ともに擬人化イラストを募集することで「商品について何十時間も考えてくれた」と語る。商品への愛着を増幅させたことはもちろん、イラストを通してネット上でのユーザー対ユーザー、企業対ユーザーのコミュニケーションが生まれ、イベントでも大勢が集まるようになった、と手応えを感じている。このようにツボを押さえた擬人化での成功例はあらゆる業界に広がっている。音楽業界ではまだあまり例を聞かないが、アイデア次第では導入の可能性はあるはず。何しろ「擬人化できないものはない」のだから。(ORIGINAL CONFIDENCE 13年11月4日号掲載)

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