大手企業が続々参入、VTuberビジネスの可能性を探る
多様なチャンスを秘めたVTuber的フォーマット
ゲーム開発スタジオWright FlyerStudios事業を統括する荒木英士氏が新会社の代表取締役を兼務。新規事業への取り組みの理由の1つには、ソーシャルVRサービス「VRChat」の世界的な盛り上がりがある、と荒木氏は語る。
「1年ほど前からVTuberに注目していました。ですが、ビジネスとしての可能性を真剣にイメージし始めたのは実は昨年末くらい。VTuberの増殖とおそらくどこかリンクもしているはずですが、ちょうどその頃からVRChat内で起きていることや、その外部での取り上げられ方などがトータルで急激に盛り上がってきた。これは一時的な狭い範囲での流行などではなく、1つの新しいカルチャーが生まれつつあるのではないかと感じました。それぞれがアバター化して仮想空間に入り、当たり前にコミュニケーションする世界。我々の日常はその時々の目的などによって、リアルな会話、メール、Twitter、LINE、Instagramなどの全部を使い分けていますが、VRChatがそうしたコミュニケーションツールの1つになっていくのではないかと。そうした局面では、実際の容姿や身体的な属人性などに左右されないVTuber的なフォーマットが、大きな価値を持ってくるはず。そこにまずビジネスの可能性を感じたわけです」
時間・距離の制約がないファン交流が可能
「決してそれだけではありません。技術面だけでなく、既存フォーマットとの大きな違いがある。たとえばゲームなら数年に1本、人気アニメでも年に3ヶ月の放映期間といったファンとの接触機会が、VTuberであればほぼ毎日になるわけです。あるコンテンツを好きになって楽しんでもらうという点では同じであっても、その頻度やかかるコスト、継続した接点の創出などの面では、圧倒的に優秀。声優さんを例にすると、最近は声が魅力的なだけではなく、ビジュアルも良くて歌って踊れてトークもこなせて当然、といった風潮がありますが、なかなかそこまで才能が揃った人材は少ない。ですが、VTuberならば、声だけ、トークのスキルだけ、といった突出した部分が1つでもあれば、その他のことはチーム力などで補い、魅力的なキャラクターとして展開することができます。また、日本の俳優さんや芸人さん、音楽アーティストさんなどは、リアルで生身のまま海外で人気者になるのはなかなか難しいとされていますが、もし最初からアニメキャラ風なビジュアルであれば、また別のファン層にリーチできる可能性も生まれてきます。VTuberというのは、そうした多様なチャンスをも秘めている形式だと思います」
グリーのVTuber本格参入の第2弾として投資プロジェクト「VTuberファンド」もすでに始動している。こちらはイラストレーターや声優などのクリエイター支援や、関連スタートアップ企業への投資、ジョイントベンチャー設立などを行う40億円規模のプロジェクトだという(投資組合の組成などは行わない)。さらに、収録・配信スタジオの開設も6月に予定。今後、具体的にはどのような展開を目指しているのだろうか。
「まずはキャラクターを生み出して動画を作り、デビューさせ、育てていく。同時に、活躍できる出口や機会、場を作り出すことも重視しています。ネット上はもちろん、リアルなライブやイベントでの稼動や、VTuberが出演するドラマやアニメなども実現させていきたい。ゲームなどでは自社、共同原作、他社と3つのIPをバランス良く手がけることを心がけていますので、オリジナルだけでなく、パートナー企業様との共同原作のような方法でキャラを作ることもあるでしょう。なかには、リアルな芸能人のVTuber化もあるかもしれません。いったんキャラクター化されることは、ある種の分身ですから、1人の人間の時間・距離などの制約に縛られず、これまでとは違う頻度や切り口でのファンとの交流も可能になる。でも、そもそもVTuberというのは、生身の人間ができることをなぞる必要はまったくないわけです。こうやって今の時点であれこれ考えている次元とはまったく異なる、斬新な発想での活用事例も今後どんどん出てくると思います。我々もそこで存在感をきちんと発揮していけるよう取り組んでいます」
(文/及川望)