石原詢子、デビュー30周年で見せる新たな一面
女性の芯の部分にあるものや情念をテーマに
石原詢子 30周年の記念シングルなので、ステージのエンディングで歌えるような、華やかでダイナミックな歌、今の私だから表現できる、女性の芯の部分にあるものや情念といったものを歌い上げるような曲というテーマで、作家の先生方に詞や曲をお願いしました。
――石原さんがこれまでに歌われたオリジナルにはあまりなかったタイプの、強いて挙げるなら91年に発売された5作目のシングル「残り紅」以来といえる、女性というものが色濃く描かれた作品だと思います。そのぶん印象が強く、そしてかっこいいと感じました。
石原 ありがとうございます。かっこいいと感じていただけたことについては、徳久先生と前田先生が、若い人にも受け入れられるような、かっこいい音を意識して作ってくださった成果だと思います。
石原 もちろん節目を飾る大事な作品ですから、強い気持ち、熱い想いというのはありましたが、作家の先生方も私以上に情熱を持って取り組んでくださって、高い音が私のキーではギリギリのところなので、初めはファルセットを使おうと思っていたんですが、徳久先生が「30年も歌っていると、技術で逃げることも覚えてしまうけど、今回はそういうのはやめよう」とおっしゃって、その言葉に従って地声で歌い切りました。
――それが、主人公の悲痛な想いを、より強く伝える効果を生んでいますね。
石原 良かったです。とても強い愛情を歌っていますので、身振りや手の動き、表情なども加えて表現していこうと思っているんですが、今はそれをどうしたらいいか考えている段階なので、ジムでウォーキング・マシンに乗りながら、手の動きを試したりしているんです。周りの方には、「変な人がいる!」なんて思われているかも知れません(笑)
――ジムにはよく行かれるんですか?
石原 最近はほぼ毎日。年齢と共に体力が落ちますし、体のキレもなくなってきますよね。この先まだ歌わせていただけるとすれば、観てよかった、聴いてよかったというステージをお届けしなければいけないと思いますから、体のことはとても考えるようになってきました。
石原詢子という歌手の存在を、より確かなものに
石原 はい。やはり、より多くの方に歌っていただけるということを第1に作ると、その分、歌の幅が狭くなりますから、今回は徳久先生をはじめスタッフと話し合って、飛躍へのステップになるような作品にしようということで作っていただきました。
石原 もちろん、カラオケで歌っていただくことも大事ですから、これからも歌いやすく親しみやすい作品も歌っていきますが、石原詢子という歌手の存在を、より確かなものにするためには「雪散華〜ゆきさんげ〜」のような歌が必要だと思ったんです。
――何と言っても普通以上にアイドル性の高いルックスなので、情念をテーマに歌うような作品は、イメージ的になかなか選ばれなかったと思いますが、ようやくこういう歌が表現できる年齢になったということですね。
石原 デビューから10年目くらいまでというのは、まだ私自身が若くてわかっていないことも多かったせいで、与えられた楽曲や課題をこなすことに精一杯で、時には私は本当に思う方向に進んでいるんだろうか?なんて考えてしまうこともあったんです。でも、そういう時期を通り過ぎてきたからこそ、スタッフともわかり合えるようになり、信頼し合えているので、今回のような制作もできたと思うんです。この点には、30周年を迎えるまで、ほぼ変わらない環境の中で、この仕事を続けてこられたことのありがたさを感じています。
――以前には「逢いたい、今すぐあなたに…。」というバラードで新たなイメージを打ち出したこともありましたが、今回はまた違った印象の曲で、ファンに意外性を感じさせることができそうですね。
石原 そうなればいいですし、そして、その意外性もまた石原詢子の一面であるということを、わかっていただきたいですね。とにかく、お客さまの前でこの歌を歌うのが楽しみなんです。でも、気になるのが、発売前の段階で業界の関係者の方に「良いね」って言っていただけることが多くて、また事務所の社長(加藤健次氏)がかなり気に入っているんです。いわゆる玄人受けする歌はヒットしないと言われることもありますし、社長が「良い」と言った歌は売れないというジンクスもありますので、あまり「良い」って言わないでくださいってお願いしているんですけど(笑)
自分を磨くことを忘れずに、私らしく、かっこよく歌っていきたい
石原 来年の秋頃にリサイタルを開きたいと思っています。
――では、30周年を迎えるにあたってのお気持ちは?
石原 やっぱり10周年、20周年とは重みが違いますね。よくここまで頑張ってきたなとも思いますし、同時に、これは1つの通過点。まだまだこれから…という気持ちもあります。ただ、以前とは音楽を取り巻く環境が変わって、ヒットを出すのが本当に難しくなっていますよね。そういう中でみんなが模索しているわけですけど、突破口は必ずあると思いますし、それを見つけなければいけないっていう気持ちは強くなっています。音楽ファンの嗜好も変わっていくでしょうから、そこに合わせることも必要でしょうし。でも例えば、演歌に流れる時代が変わっても変わることのない、日本人の血というものもあると思うので、常に前を向いて挑戦や試みを重ねながら、自分だけの場所にたどり着けたらというのが、今の気持ちです。
――デビューから今日まで、ファンをはじめたくさんの人の応援を受けて来られたでしょうが、まず感謝したい人を挙げていただくとしたら?
石原 うーん…、事務所の社長ですね。デビューの時からマネージャーとして支えてもらって、奥さまよりも長い時間を私と一緒にいて、時には大ゲンカをすることもありながら(笑)、また歌の仕事を辞めようと思うこともあった中で、今日まで守ってもらってきましたから。本当にありがたい存在です。もちろん、ファンの皆さんや作家の先生方をはじめ、私を生んでくれた母、詩吟を教えてくれた父と、感謝している人はたくさんいますが、一番身近で、いつも一緒にいてくれるのが当たり前になっているので、今このタイミングで質問していただいたことについては、敢えて社長と言わせていただきました。
――最後に、これからに向かう気持ちを聞かせてください。
石原 先ほども言いましたが、歌手にとっては厳しい時代ですから、できることは何でもやってみて、石原詢子って面白いと思っていただけるような活動をしていきたいですね。その上で、憧れの存在である石川さゆりさんのように、独自の存在感を持てるようになりたいです。
――話を伺っていて、これまでの30年よりも、これからの10年の方が中身の濃いものになりそうな予感がしてきました。
石原 そうしたいですね。背伸びをしなくても恋愛や人生を歌える年齢になってきましたから、自分を磨くことを忘れずに、私らしく、かっこよく歌っていきたいと思います。
(文:寧樂小夜)