職場でのすれ違いはなぜ起きるのか。2万人をみてきた組織開発コンサルタントで『組織の違和感』の著者である勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
食い違う受け答え
「そんな指示は受けていません」
部下は、はっきりそう言う。しかし上司は、「いや、確かに伝えた」と譲らない。
同じ会議に参加していた同僚に聞いてみても、「任せるとは言っていたけれど、期限までは決めていなかったと思う」と、また違う答えが返ってくる。
そんな、噛み合わない場面は職場にしばしば現れます。
職場で話が食い違うと、私たちは「どちらが正しいのか」を確かめたくなります。
誰かが記憶をすり替えている。自分に都合よく話している。責任から逃れようとしている。そう考えれば、つじつまは合います。
けれども、実際には誰も嘘をついていないことがあります。
自分の見え方がすべてではない
同じ出来事を経験しても、人は同じようには受け取りません。
上司にとっては「任せる」という言葉が指示だった。部下にとっては、まだ相談段階の話だった。同僚には、結論が出ないまま会話が終わったように見えた。それぞれが、自分の見えたものを事実として話しているのです。
組織で生じる違和感の多くは、こうした「見え方の違い」から生まれています。
たとえば、上司は「自由に進めていい」と言ったつもりでも、部下は「丸投げされた」と感じるかもしれません。上司は「成長のために厳しく伝えた」と思っていても、部下は「人格を否定された」と受け取ってしまうかもしれない。
どちらかが間違っているとは限りません。問題は、自分の見え方だけを唯一の事実だと思ってしまうことです。
全員が「自分は正しい」と信じている職場では、話し合いが事実確認ではなく、正しさの奪い合いになります。
「私は言った」「私は聞いていない」「普通ならわかるはずだ」と、それぞれが自分の立場を証明しようとする。すると、誰が悪いかは議論されても、なぜすれ違ったのかは見えないままです。
相手に合う伝え方を調整する
ここでリーダーがすべきなのは、裁判官のように勝ち負けを決めることではありません。
まず、「それぞれには、どう見えていたのか」を確かめることです。
何を言ったかだけでなく、相手がどう受け取ったのか。どんな前提でその場にいたのか。役割や期待について、どこまで共通認識があったのかを観察します。
そして、人と人、人と仕事の組み合わせにも目を向けます。
曖昧な指示でも動ける人がいる一方、目的や期限が明確でなければ動きにくい人もいます。口頭で理解しやすい人もいれば、文章で確認できたほうが力を発揮できる人もいます。
同じ伝え方を続けて「わからない相手が悪い」と考えるのではなく、この人にはどのような伝え方が合うのかを調整する。その視点が必要です。
職場で「誰かが嘘をついているのではないか」と感じたら、その違和感を無視する必要はありません。ただし、すぐに犯人を捜そうとしないでください。
疑うべきなのは、人の誠実さではなく、全員が同じものを見ているという思い込みです。
それぞれの正しさをぶつけ合うのではなく、見えている景色の違いを持ち寄る。
そのとき初めて、誰かを責めずに、組織のすれ違いは防ぐことができるのです。