ドア2枚分の功罪
いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
ひょっとしたらオーナーだったかも
シビック タイプRに乗るたびに、心底「いいクルマだなぁ」と思う。
走らせた瞬間から感じ取れる、圧倒的なシャシー剛性。ステアリングから伝わってくる、大地をわしづかみしているような接地感。「コンフォート」モードでさえも、その乗り心地はスポーツカー然としたりりしさで、それでいて路面からの入力はきちんと減衰されている。短い周波数の横揺れこそあれ、安っぽいNVH(ノイズ・ハーシュネス・バイブレーション)は入ってこない。これで、もう少しだけダンパーの伸び側減衰力が低かったら、5ドアだし、わが家の一台としても使えたのに……と、試乗するたびに後ろ髪を強く引っ張られる。
というのも筆者、初試乗で鈴鹿サーキットを走った後(参照)、あまりの走りのよさに衝撃を受けて、近所のホンダディーラーに足を運んだ経験があるのだ。もちろんそのときは、発売前からオーダーを入れた“本気組”によって、ディーラーへの割り当てはとっくに埋め尽くされていた。「今から注文したら、いつ来ます?」と訪ねたら、若くてイケメンなセールスのお兄さんには「早くて2年後ですね……」と言われて、「ですよねぇ(汗)」と苦笑いしながら、奥さんと共にディーラーを後にした記憶があるのだ。
ただそこには続きがあって、若くてイケメンなお兄さんは、「エントリーはただですから、ぜひ!」とウェイティングリストへの記入を勧めてくれた。その笑顔があまりにまぶしくて、慰めとはいえ、なんていい人なんだと住所と名前を書いておいたら、きっかり2年後にディーラーから連絡が来たのだ。そこで奥さんと一緒にタイプRを試乗したのだけれど、「生活のクルマとして使うには、ちょっと足まわりがハードすぎるね」という理由で、これを見送ったのだった。
そんな顛末(てんまつ)があったから、シビック タイプRに乗るたびに、やっぱり手に入れておくべきだったかな……と、ちょっと複雑な気持ちになるのである。...