柔よく剛を制す
最高出力365PSのAMG製2リッター直4ターボエンジンを積むミドシップスポーツ「ロータス・エミーラ ファーストエディション」に試乗。車両重量1.4tの軽量なボディーと、AMGユニットが織りなす「ロータス最後のエンジン車」の走りを報告する。
ロータス最後のエンジン車
小学生の頃、漫画『サーキットの狼』を読んで、ロータスという自動車メーカーの存在を知った。こういう50代の方は多いだろうと推察する。主人公の風吹裕矢が駆る「ロータス・ヨーロッパ」は、とにかく格好よかった。どこが格好よかったのかといえば、パワーで上回るポルシェやフェラーリにストレートでブチ抜かれるけれど、コーナーで抜き返すところだ。柔道の団体戦で2階級上の選手を投げ飛ばすような、“柔よく剛を制す”を体現しているところが、日本人の心に響いた。力ではかなわないけれど、技と気合で勝つ!
そして『サーキットの狼』から十数年後の1980年代後半、今度はF1のロータス・ホンダのステアリングホイールを中嶋 悟が握ることになる。しかも相棒は日本でも人気だったアイルトン・セナで、かつてのスーパーカー小僧たちは「やっぱりロータスだ」と、ますますこのブランドを応援するようになる。
といった具合に、ロータスを神格化する日本は、世界中のどことも異なる、特別な市場となる。一時期はロータスの年間生産台数の約4分の1が日本へ向けたものだったというから、日本とロータスは相思相愛と言っても過言ではないだろう。
かわいさ余って憎さ百倍というか、ロータスが打ち出した「VISION80」という経営戦略に、日本のスポーツカー愛好家の多くが「ん?」となった。「VISION80」とは、ロータス創立80周年を迎える2028年に向けて、BEVのラグジュアリーかつ高性能なモデルで、これまで縁が薄かった中国や中東といった市場を開拓するというもの。将来を考えれば納得できる経営判断ではあるけれど、「俺たちのロータスは……」と、遠くを見る目になってしまうのもまた事実。
だからロータスが「最後のエンジン車」だとするエミーラを前にすると、これが最後の試乗機会かもしれないという感傷的な気持ちと、まだ買えるんだという安堵(あんど)する気持ち、それにロータスのスポーツカーに乗れるという純粋な喜びが入り交じって、複雑な心境になる。...