『課長2.0』の著者・前田鎌利氏と、注目の最新刊『若手育成の教科書』の著者・曽山哲人氏が「若手を育てるための管理職の思考法」をテーマに語り合う対談が実現した。抜擢する文化が根付いているサイバーエージェントだが日本全体を見てみれば、若手をどんどん抜擢する会社は決して多いとはいえない。「抜擢できない組織」の問題点はどこにあるのか。そして「抜擢」によるハレーションを収めるために重要なことは何なのか。おふたりに「期待をかけ合う風土」をつくるために必要なことを語り合っていただいた。【構成・前田浩弥、写真・榊智朗】
「抜擢」が進まない原因は、たった1つ
前田鎌利さん(以下、前田) 曽山さんが書かれた『若手育成の教科書』には、「抜擢」することで若手を成長させるノウハウが詳細にまとめられています。仕事を与え、責任を渡し、期待をかけることこそが、人材育成の最大のエンジンだというご主張は、まさにそのとおりだと思います。とはいえ、「抜擢」に踏み切れない会社はまだまだ多いように思えます。抜擢しない組織の問題点は、どこにあるとお考えですか?
曽山哲人さん(以下、曽山) 私は、「上司が、自分自身のチャレンジをしていない」ことが問題だと思っています。
前田 どういうことでしょうか?
曽山 上司が「自分はこれにチャレンジする」と決めると、そのチャレンジに時間を割くために、部下を抜擢して、それまで自分がやってきた仕事を任せざるを得なくなります。
逆に言えば、上司が「新たなチャレンジ」をしない組織では、自然と「抜擢しない組織」が生み出されるということになるんじゃないかと思うわけです。
前田 なるほど。
曽山 上司のチャレンジは、必ずしも自発的である必要はなくて、経営陣や上司から「これをやってほしい」と依頼される形でも構わない。たとえば、「曽山くん、明日から5部門の兼務をよろしく」と言われて「よし、やるぞ」と覚悟を決めたら、ここで一気に自分はチャレンジが始まるわけですよね。するとほかの仕事を若手に渡さなければいけないという状況が生まれるんですよ。
前田 たしかにそうですね。ソフトバンクで管理職をやっていた頃、まさにそのような状況におかれました。でも、そのために、メンバーの力を借りるようになって、自分自信がマネージャーとして成長することができたように思いますね。
曽山 そうそう。ソフトバンクさんのように、兼務をガンガン振る社風の会社では、抜擢が生まれやすいといえるでしょうね。サイバーエージェントの場合には、トップの藤田や役員が自らどんどん新しいことにチャレンジをしています。たとえば藤田の場合、「ABEMAをやるぞ」となったら、ABEMAに95%の時間を割くと決めて、他の仕事は全部役員に任せる。そうすることで、他の人材も育つという流れです。
前田 なるほど。トップがそういう姿勢であれば、みんなそれを見習うでしょうね。その結果、「抜擢する文化」が自然と醸成されていくんですね。
曽山 そうなんです。藤田は、ABEMAをやるとなったら、広告もゲームも、すべて部下に任せてしまった。非常に明快で、シンプルです。任せなければ、チャレンジに時間と力を注げない。だから任せる。それだけなんですよね。
だから、抜擢が進んでいない会社や部署の幹部・管理職と面談をして、「抜擢が結構難しいんですよー」という声が出てきたら、私は必ず「今、何にチャレンジしているの?」と聞きます。すると返ってくる答えは現状の延長線にあることが多いのです。でもこの問いかけをすることで、延長線上であってもそうでなくても、より大きな意味のある目標を考えるきっかけになるのです。
前田 たしかに、上司が「自分のポジションを守ろう」としている限り、「部下を抜擢する」などということは起こらない。
曽山 ええ。前田さんの『課長2.0』には、「自分の『ポジション』を守らない」という項目がありますが、まさにそれですね。
「自分はもっとデカいことをやる」って決めないと、ちょっと危なくなったらすぐ、元のポジションに戻ってしまう。抜擢しないのは、自分が戻れるポジションをキープしているだけなんです。こう話すと、だいたいの人は目覚めてくれて、「たしかにそうですね、新しいチャレンジを決めます」と話してくれる。こういうコミュニケーションを、社内ではよくやっていますね。
前田 ぼくは、自分のポジションを守るために必死になっている上司を見て、「こうはなりたくない」とよく思ったものです。だからこそ、自分はどんどん「守り」に入らず、「やりたいこと」にチャレンジしていくことができたようにも思います。...