「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し、10期連続最高益。ついに国内店舗数ではユニクロを抜いたワークマン。12/28「日経MJ」では「2020ヒット商品番付(ファッション編)」で「横綱」にランクインした。急成長の仕掛け人・ワークマンの土屋哲雄専務の経営理論とノウハウがすべて詰め込まれた白熱の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』が発売たちまち4刷。各メディアで話題沸騰の書となっている。
このたび土屋氏とベストセラー『戦略「脳」を鍛える』の著者でボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・アドバイザーの御立尚資氏が初対談(全10回)の7回目。
一体どんな話が繰り広げられたのだろうか。(構成・橋本淳司)
右脳で考えたアイデアは
自分にはよくわかるが
他人は理解しにくい
御立尚資(以下、御立):ワークマンの強みの1つは、言語化されたストーリーに価値基準がつくられていることだと感じています。今回は美術を例にお話ししましょう。
土屋哲雄(以下、土屋):言語化されたストーリーですか。
御立:はい、美術の例だと、昨今の伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう、1716-1800)ブームの背景には、元東大教授である辻惟雄(つじ・のぶお、1932-)さんの仕事があります。
辻さんは『奇想の系譜』とそれに関連する仕事をされ、若冲を歴史的な流れに位置づけられました。『奇想の系譜』は日本美術史において、近世以降の日本美術史観を根底から覆し、新たな日本美術史の流れを決定的につくり上げた1冊と呼ばれています。
辻さんによって若冲を取り巻くストーリーが深みを増さなければ、若冲はここまで世界的な評価を得ることはできなかったでしょう。「奇想」というコンセプトの中で、岩佐又兵衛(いわさ・またべえ、1578-1650)、狩野山雪(かのう・さんせつ、1590-1651)、伊藤若冲、曾我蕭白(そが・しょうはく、1730-1781)、歌川国芳(うたがわ・くによし、1798-1861)などを語ることが価値基準の「ものさし」をつくるのに大いに役立ったと思います。
土屋:そういうストーリー、価値基準が示されて、若冲を見たいと思う人が増えるのでしょうね。
御立:ワークマンの戦略ストーリーをうかがっていると、とてもシンプルです。
高機能で低価格の作業服を求める古くからのワークマンのお客様は、機能やサイズはタグで確認しているが、値札は見ないでレジまで製品を持っていくわけですよね。
土屋:はい、店舗でお客様が製品を購入する様子を見ていて、値札を見ていないことに気づきました。値段をレジで告げられた時点で、高いとも安いとも言わず、そのままさっと支払って店を出ていかれます。
御立:お客様に「ワークマンの作業服は高機能で低価格」と浸透しているわけですね。
土屋:大変な信頼感だと思いました。ワークマンの製品は他社製品に比べて安いことをお客様が確信しています。
御立:そう。その後のWORKMAN Plusにつながっていく客層拡大戦略もとてもわかりやすいです。まず、作業服を高機能服に置き換えます。そのうえで高機能・低価格の製品を、まずはアウトドアユーザーにWORKMAN Plusで販売する、次に女性に#ワークマン女子で販売すると、とてもシンプルです。社内外にわかりやすい。
土屋:やはりわかってもらわないと人は動きませんからね。
御立:土屋さんはパワーポイントで思考されるので、こうした戦略を右脳で考えていると思います。右脳で考えた戦略案は、自分自身にはよくわかるのですが、他人には理解しづらい「イメージ」にとどまってしまうことが多い。でも、土屋さんの場合、自分の構想図を、左脳を使って確認し、人に説明できる論理に落とし込み、社員のみなさんを納得させています。
土屋:ありがとうございます。
御立:人は自分の理解できない戦略に従って行動できないので、行動をともなわない戦略には何の価値もありません。
土屋:ご指摘のとおりです。ストーリーはシンプルであることを意識しています。
今後20年くらい先についても、3つくらいの要素で語ることを目標にしています。
あまりいろいろな要素が入ると、ストーリーが普及しにくくなりますし、社員全員で共有できなくなります。ですから、「しない経営」「エクセル経営」「客層拡大」の3つの言葉ですべて説明できるようになっています。
御立:非常にシンプルですね。...