米国の名門カリフォルニア大学バークレー校で活躍する若き経済学者・鎌田雄一郎氏が著した『16歳からのはじめてのゲーム理論』。
発売後たちまち重版がかかった本書は、経済学において重要な位置を占め、数多くのノーベル賞経済学者を輩出している「ゲーム理論」のエッセンスを、分かりやすいストーリーと可愛らしいネズミのイラストとともに自然に理解できる画期的な本だ。
今回は鎌田氏と、ゲーム理論の専門家でメディアでも活躍する大阪大学大学院の安田洋祐准教授を迎え、本書の読み解きやゲーム理論の可能性などについて、オンライン対談でふんだんに語ってもらった。
第1回は『16歳からのはじめてのゲーム理論』を執筆した鎌田氏の狙いや、安田氏が感じた本書の魅力についてご紹介する。(全3回)
ゲーム理論の間口を広げる、「読み合い」型のユニークな一冊
――まずは安田さんにお伺いします。『16歳からのはじめてのゲーム理論』を読んでみて、ゲーム理論の専門家として、率直にどんな感想をお持ちになりましたか?
安田洋祐(以下、安田):少し嫉妬するほどうまく書けていると感じました(笑)。前提知識なく読めるゲーム理論の入門書、啓蒙書としてとても素晴らしいと思います。
まず、「状況を分析するときに、相手の考えに思いを馳せよう」というゲーム理論で大切なメッセージがしっかりと込められていますよね。たとえば、1章の全会一致の投票の場面で、実際の投票結果はケースバイケースで分からないけれども、「相手の投票行動を勝手に決めつけずに、自身の1票が投票結果に影響を与えるときに相手がどう振舞うか」をきちんとよく考えよう、という思いが伝わってきます。
小難しい利得表や確率計算を並べるのではなく、投票など馴染み深い例を使って「ゲーム理論的な考え方」の本質を自然につかめるようにお話を作る手腕に驚きました。
鎌田雄一郎(以下、鎌田):ありがとうございます。
安田:なぜこの本が上手かというと、ズバリ「読み合い」型で書かれているからだと思いますね。
ゲーム理論といえば、「ナッシュ均衡」という概念が非常に重要で、これには2通りの解釈があります。1つは、プレーヤーたちがお互いに相手の戦略を読んでそれに対して最適な戦略を取り合っている状態、という「読み合い」型の解釈です。もう一方は、誰もが(他のプレーヤーたちの戦略はそのままで)自分一人だけ戦略を変えても得できないような状態。こちらは、いったん均衡状態に落ち着くと、抜け駆けするインセンティブを誰も持たないという意味で、「釣り合い」型の解釈だと言えるでしょう。
そしてこの本は、完全に「読み合い」型の議論をベースに書かれているんですね。釣り合い型で書くと、出発点である均衡状態がどうなっているのか、という説明が必ず必要になる。つまり、それぞれのストーリーにおいてナッシュ均衡をまずは求めないといけない。しかし、読み合い型の場合には、均衡状態にとらわれずにすむわけです。結果的に、相手の行動を勝手に決めつけずに一歩引いて考える、というゲーム理論的思考法がすんなり理解できるんじゃないでしょうか。
鎌田:おっしゃる通りですね、実際に執筆するときに「自分の伝えたいことは何か」と考えたときに頭に浮かんだのが、「読み合いの面白さ」でした。その面白さや、読み合い時の思考のカギはどうなっているのか、という点を伝えたいと思って、そこに焦点を絞って書き進めました。
ナッシュ均衡については、ストーリーごとにその物語におけるナッシュ均衡が何かを説明すると話が難しくなってしまうことがありました。ですので、あえてそこに触れないようにした物語もあります。こういった、「教科書だったら書いてあるだろうことでも、物語でエッセンスを伝えるに当たって必要なことなのだろうか」ということはかなり意識しましたね。
安田:「ナッシュ均衡に触れない」という割り切りは、研究熱心な学者ほど難しいんです。自分が普段使っている一番大切な分析ツールを意識的に書かない、というのは勇気が必要ですから。で、ついつい大切なツールを上から目線で教えようとしてしまう。
そうではなくて、分かりやすいイラストとストーリー仕立てで、さらっと「他人の立場に立って状況を考える重要性」を伝える本書のような入門書の方が、ゲーム理論の間口を広げる上では有効なのでしょうね。本書のように割り切ったゲーム理論の入門書は世界的にも珍しいので、ぜひ英語や中国語など外国語にも訳した方がよいと思います(笑)。...