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【境亜寿香×堀込泰行 対談】注目のゲーム『to a T』、堀込泰行の歌声は世界にどう響く? ゲームと音楽の絶妙な関係
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ユニークなゲーム『to a T』、「あるがままの自分を愛せよ」とのメッセージも
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『to a T』
本作の音楽を手がけるのは、作曲家・境亜寿香。彼女がナムコの社員だった時期、デビュー前の音楽ユニット・キリンジの堀込高樹の後輩だったそう。そんな縁から、名作ゲーム『塊魂』の楽曲「つよがり魂」を堀込泰行に依頼。さらに今回、約20年ぶりにタッグを組み、『to a T』の重要パートで流れる「Train Song」のボーカルを堀込泰行が担当することとなった。
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境亜寿香 制作時、午前は音楽を作って、午後は私が務めている学校でピアノを弾いていたので、日常に『to a T』がある日々でした。子どもは本当にいろんな個性を持っていて、中には馴染めずホームスクールになる子もいる。そういう子たちにとっては、『to a T』が心の支えになるんじゃないかと思います。こういうゲームが存在してくれることに、ありがとうという気持ちになりました。
堀込泰行 不自由さを感じながらも、ありのままの自分、変わらない・変えられない部分をちゃんと愛して、自分を乗りこなしていく。人とは違っていても、ちゃんと操っていくんだよというメッセージを感じます。ただ、ティーンは蛇口をひねるだけでも大変だし、歯を磨くのもうがいをするのも、普段自分がやっている動きとは違う感覚で操作しなきゃいけなくて。そもそも僕自身が、コントローラーの操作性に慣れていないのもあって、すごくもどかしかった(笑)。でも、「あるがままの自分を愛せよ」みたいなメッセージは、序盤からすでに感じました。
イメージは『ときめきトゥナイト』? 「全部違うエンディングに」音楽へのこだわり
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境亜寿香 監督は昔の『ときめきトゥナイト』のようなおしゃれな感じが良いね、とオープニング曲を見せてくれたりしました。最終的にはだいぶ違うものになりましたけど、お互いに同年代なので子どもの頃に受けた良い意味での衝撃みたいなものを、ゲームでもやりたかったのかも知れません。
堀込泰行 オープニングテーマ「Perfect Shape」は、〈Da Ke Do!〉とか〈Na Ni Ka!〉など合いの手が日本語で、日本のポップスとは逆だからすごく新鮮で面白かったです。サウンドウィッチを作っているキリンさんのエンディングテーマ「Giraffe Song」も、バラードで良かったです。
境亜寿香 「Giraffe Song」は、キャラクターがダンスをする感じの曲でと言われたので、軽く体が揺れるダンス曲をイメージして作りました。キリンさんの声と歌は、『スティーブン・ユニバース』の監督レベッカ・シュガーさんが担当してくれて。『to a T』は全8話あるのですが、監督が「全部違うエンディングにしたい」と言うので、「Giraffe Song」は実は9バージョンあるんです。
堀込泰行 話を聞くだけで、大変そうなのがわかります。
境亜寿香 でも楽しかったですよ。『to a T』にはいろんな場所が出てきて、それぞれ違った音楽があるので、場面ごとに思い出を作るような感覚で体験してくれたらうれしいです。今のゲームは音楽を消して遊べたりするけれど、シーンごとのストーリーや背景の絵と合わせて楽しんでもらえたらうれしい。電車に乗ったときは「Red Train」や「Train Song」を聴いて、自転車に乗るときはこの曲、学校に行きたくないときはこの曲…とか。音楽を通じて、日常でもゲームの世界を追体験してほしいですね。
堀込泰行 ゲームでティーンが学校に行くときが、すごいですよね。「あそこまで学校に行きたくないのか!」っていうくらい、急に動きが重くなるんです(笑)。直前までは、服を選んだりしてウキウキだったのに。
ラフなデモ音源と歌詞…、でも「泰行さんが歌ってくださったら『これだ!』と一発OK」
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境亜寿香 普通はそうですが、リストがまったく来なくて。「ちょっとここ作って」と言われるがままに都度作っていたら、最終的に60曲に(笑)。「Train Song」は、私から提案して、歌ものにしようということになりました。ゲームのストーリー上、素直に心を開いてお互いが話せるような雰囲気を作るのに、泰行さんが必要だと思い、泰行さん以外は考えていませんでした。
堀込泰行 すごくありがたいです。
境亜寿香 泰行さんとは『塊魂』の楽曲「つよがり魂」でご一緒したのが最初でしたが、ちょうど聴き返していたこともあり、フッと泰行さんの顔が浮かんで。今回は心を開く穏やかな曲だし、ギターと歌だけの弾き語りのような感じで、空気みたいに流れればいいと思ってオファーしました。
堀込泰行 ありがとうございます! でもオファーを受けたとき、ゲーム内容の説明はほとんどなくて。どういうゲームかわからないまま歌ったんです(笑)。
境亜寿香 確かに、赤い電車で泰行さんが歌っているなら、それだけでいいなと思っていたので。野暮だと思い、あまり説明しなかったかもしれません(笑)。
堀込泰行 いただいたデモは、メロディと歌詞の雰囲気がすごく優しい感じだったので、それに素直に反応するように歌いました。優しいメロディだけど、ちょっと悲しい、切ない瞬間もあって。そういう部分にグッときながら、後半の鼻歌やスキャットではテンションを明るくしていった感じです。
境亜寿香 弾き語りで歌ってもらうつもりだったので、私のデモはラフな状態でしたし、歌詞も監督が思いつくままに書いたもの。それでも、泰行さんが歌ってくださったら、「これだ!」と一発OKでした。私は女性なので、歌ものの曲を作るとどうしてもキーが高くなってしまい、男性シンガーには「キーを下げていいですか?」と言われることが多いんです。でも泰行さんは逆に、「上げていいですか?」って。一緒に制作したのは十何年ぶりでしたけど、「さすが!」と(笑)。
世界で話題のゲーム、「僕のまったりした感じが、どう受け取られているのか不安(笑)」
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堀込泰行 もちろんこういう作品に参加できてすごくうれしいんですけど、僕のまったりした感じが、どう受け取られているのか不安です(笑)。
境亜寿香 ぜんぜん大丈夫ですよ! それに『塊魂』をプレイしたことがあるゲームファンなら、「この声知ってる!」って、すごく親近感を抱いてくれていると思います。
堀込泰行 だったらうれしいです。
――堀込さんは10月にツアーがあるそうですが、そのときには「Train Song」も歌うのでしょうか?
堀込泰行 楽曲提供したものをセルフカバーすることはあるけど、ゲーム音楽はいくつか歌っているわりに、ライブではやったことがないです。まだ何も決めていませんが、確かにやれたら面白そうですね。アンコールの1曲目に1人で出てきて、ポロッと弾き語りするとか。
境亜寿香 ぜひ聴きたいです! 歌ってください。
――許可がおりましたね(笑)。では最後に、お2人のゲーム音楽へのお考えを教えてください。
境亜寿香 自分のプレイのタイミングで、どこでどう流れるのかわからないのがゲーム音楽です。ゲームプレイとうまく同期できるよう、自分の想定を超えたゲームと音楽との出会いの瞬間を体験して欲しいと思っていつも作っています。
堀込泰行 気がつくとスタンダードになっているのが、ゲーム音楽。『ドラゴンクエスト』のメインテーマとか『ゼビウス』とか。サブスクによって日本語の歌ものも世界中で聴かれるようになったけど、ゲームはもっと敷居が低くて、国境をたやすく越えてしまう可能性の塊です。CDやストリーミングで聴いてもらうのとは異なる、大きな“夢”がそこにはあると思います。
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(写真:片山よしお 文:榑林史章)
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