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手塚治虫、横山光輝、大友克洋が築いた“SF”の世界観…現代のヒット漫画に引き継がれる聖火
以前・以後で語られる作家たちは漫画の何を変えた?
諸刃の剣「漫画記号」を逆手に、現代風に昇華させた『サンダー3』
「手塚治虫氏が提唱した漫画記号論というものがあり、その記号を使いすぎると陳腐に映ってしまう現代において、諸刃の剣。だがこれを逆手にとって、いかにも現代風に昇華したのが同作品」と語るのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「漫画記号論というのは、漫画を記号の集合体であるとした論です。これは例えば人物の造形にしても、この作品の顔、この作品の髪型、この作品の肉体、のように絵というより記号として捉えて組み合わせていくもの。ちょうど漢字の部首とつくりのような関係で絵が表現されているということであり、さらには焦った時の汗や、何か思いついた時の電球など、典型的な表現もこれに当たります」(同氏)
ではいかにして、それを現代風にしたのか。「記号と写実が同居する落差が持つ違和感もそうですが、それだけでは弱い。写実の世界観では表現できない、荒唐無稽なスーパーパワー。これをデフォルメされたキャラが持つからこそ許されるといった落差を大真面目に取り入れた点です。人が死ぬこともあるストーリー漫画に、ダイナマイトでも髪の毛がチリチリになるぐらいで済むある種不死身のギャグ漫画のキャラが入り込んだような作風で、これらは『DRAGON BALL』に登場した『Dr.スランプ』のアラレちゃん、また『こち亀』の両津勘吉が『DRAGON BALL』のフリーザ様を“死なない”と辟易とさせたパロディは以前よりありましたが、これを本格的にテーマに取り入れたその実験性が評価されている。“ポスト”漫画記号論にあたる」(衣輪氏)
日本の再統一という「緻密なストーリー」で知略の世界を展開した『日本三國』
「『三国志』、そして知略とくれば、多くの方が諸葛孔明を思い浮かべるでしょう。こうした国盗り物語は、現在の『キングダム』の大ヒットを見ればわかる通り、今も人の心を惹きつけ続ける。その理由として考えられるのは、横山『三国志』が膨大な登場人物たちをデフォルメして役割を与えながら描き、その中に多くの違うパターンの傑物が現れ、“このキャラとこのキャラがぶつかったらどっちが強い? どっちの作戦が勝つ?”とワクワクさせるバトルロワイヤル感にもあります。国盗りの限界状態だからこそクセのある人物が台頭できる世界は和を以て貴しとなす日本文化からすると魅力的なフィクション。さらに昨今はX(Twitter)でも政治のワードが多くトレンドに挙がり、ある種エンタメ化している。そんな時勢に『三国志』、知将・諸葛孔明にスポットを当てたのは、時代に適合している」(衣輪氏)
大友克洋の“ネームありきで画力がついてきている”を引き継ぐ『カグラバチ』
非常にテンポ感がよく、まるでハリウッドのような日本を描いているほか、主人公の目的がダーク。夢に向かって…といった王道ではなく、復讐という一見すると暗くなりそうなテーマで描かれている。
「圧倒的な画力で現実を映し出し、そこに妖刀や妖術師といったSFやオカルトを埋め込んである。これは直接、大友克洋ではないが、大友以後の漫画の潮流のひとつの到達点であると言えます。もう一つ、共通点があるとすれば、大友氏も外薗氏も、強烈な画力に目が行きがち。ですが吉本隆明も指摘した通り、大友氏の(SFを描き出してからの大友氏)描く漫画は、まずストーリーが面白い。そこに絵がついてきているという形です。『カグラバチ』も同様であり、ストーリーありきの上、そのストーリーの組み立ては横軸よりも縦軸が優先。どんどん物語が進む上、設定などの情報はあれどそこに重きを置かず、寧ろ感情に訴えかける父の言葉などが何度も繰り返される。こういった物語進行は大友氏がやっていなかったことであり、『カグラバチ』は大友氏の遺伝子を受け継ぎながら、そこからさらに飛び出そうとしている意欲作に見えます」(衣輪氏)
このように漫画=「MANGA」は先代の天才たちが作り出したものを受け継ぎつつも新しく、さらには現代らしい進化を遂げながら今も多くの作品が生まれている。なかでも上記のように評価される作品には、それらの遺伝子が非常に強く現れており、こうした突然変異がさらにあらたな流れを生む普遍の卵として位置づけられるのも特徴だ。ストーリー、設定、画風や技法…これらは年々、新たなものを生んで行っているが、火は聖火のごとく絶えずに燃え続けている。「漫画やアニメで日本が好きになり、日本人にも友好的に接する外国人はとても多い。漫画は平和外交にも大きく貢献しているともっと公式に認めるべきだ」と衣輪氏。これからも聖火のもと、漫画=「MANGA」は日本らしく、ガラパゴスに、独自に、発展していくのだろう。
(西島亨)