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ガンプラにおける究極の“シズル感”「切られたて塗装」の極意「必要なのは、真っ二つにする勇気」

 主に食べ物の写真において、焼きたて、作りたての臨場感や、新鮮さ、みずみずしさが伝わってくる様子を、“シズル感”があると表現する。では、ガンプラにおける“シズル感”とはいったい何だろうか? モデラーによって答えは異なると思うが、その答えのひとつは、戦いの際に生じた切断面(溶断面)の表現。今回紹介する2人は、CGや電飾を使わず塗装だけでこの“切られたて”塗装にこだわった、戦友であり師弟でもあるモデラー。「たった今、切られました」を表現する際のこだわりを聞いた。

1.8万いいねを獲得した“真っ二つ”な連邦軍シールド「激闘を表現するのに必須の小道具」

 モデラーのtaka-taka-52さん(@takataka5212)は、“シズル感”のある切断面を表現したさまざまな作品を発表しているが、やり始めたきっかけは、「展示会でいかに人目を引くか」だったという。

「展示会にはもの凄い作品がたくさん並んでいます。その中で、見学者の方々があっと驚く仕掛けができないか、と思って、実際にブラックライトを当てながら見てもらうことを考え、制作しました」
 Xで発表した連邦軍のシールドは、1.8万いいねを獲得するなど、「人目を引く」レベルではないほどの大バズりした。

「ファースト(ガンダム=機動戦士ガンダム)のシールドってちょいちょい破壊されてるんですよね。本体はザクマシンガンが直撃しても無傷なくらい丈夫なのに、守備の要のシールドは結構壊される(笑)。ランバ・ラル戦、黒い三連星戦など、激戦の場面を再現するには真っ二つのシールドは必須の小道具だなと思っています(笑)」

 本作制作の苦労について、「シールドを真っ二つにする勇気だけですね(笑)。二度と元には戻せませんから(笑)」と笑うが、実際、どうやってこの切断面を作り出しているのだろうか?

「切断面の塗装は蛍光塗料を塗っています。溶断された感じを出すために木工用ボンドで切断面がトロッとした感じにして、一度ホワイトで塗装した上から蛍光オレンジと蛍光イエローを塗っています。この2色はブラックライトでの光り方も違うので、温度の違いを表現しています。より高温の所が蛍光イエローです。蛍光塗料が乾ききる前にさらにクリアを塗ってオレンジとイエローが微妙に滲むようにするとよりリアルになると思います。最後に断面の周りを艶消しブラックで塗り、焦げた感じも出しています」

 実はこの手法、モデラー仲間であり師匠でもある、再生工場さん(@GunplaRefine)がオリジナル。taka-taka-52さんも、同氏から直接教わったという。

「再生工場さんは作品を見る人に驚きを与え、飽きさせない演出がとても上手な方です。再生工場さん主催の『汚しの部屋』という模型教室みたいなイベントに参加し、この手法を教えていただきました。再生工場さんは戦友であり先生です。いろいろなことを学びました。再生工場さんのテクニックは、種を明かせば誰でもできる簡単なものが多いのも魅力です。また「汚しの部屋」に集まったモデラ―仲間がそれぞれ「技」を持っていて、わいわい楽しく情報交換することでスキルアップが加速しました。そういう人が集まる場を作れるのが再生工場さんのすごさです。そこでの出会いでプラモデルの楽しみが格段に広がりました」

「今あるもので何ができる?」から「ジムをブった切って」始まった

 taka-taka-52さんの師匠である再生工場さん(@GunplaRefine)は、その名の通り、ジャンク品のガンプラを補修して作品にするモデラーだ。

「『物を大切にする』という気持ちを込めて再生工場という名前を使ってます。キットは組立て済みの不要となった中古(ジャンクキット)をネットで購入してます。届いた時は、パーツの欠品や破損は当たり前。それらの修理を済ませて改造、塗装を施し、再度ガンプラに命を吹き込むことを楽しんでます。『うまく作れなかった、あるいは壊れてしまった』という理由で手放してしまいがちなプラモデルでも、『リタッチすればまだまだ作品として生まれ変わるよ』ということが、作品を通じて伝わったらと思っています」
 そんな同氏の作品の中でも衝撃的なのが、ジムがドムに真っ二つにされる作品『10年の差』。劇中に出てきた「連邦とジオンの技術の差、10年」【※】という言葉をきっかけに誕生したという。

「実は、作りたい物が先ではなく『今ある物で何が出来る?』ということが先でした。この頃、模型用のノコギリを購入してたんですが、使いとうて、使いとうて。試しにジムをブった切ったのが出発地点です(笑)。切り終えて、『んじゃ切ったのは誰や?』ってなった時に、在庫の中で『圧倒的な体格差のあるドムで行こう』と。そして『ドムの見た目からは想像出来ない程の躍動感をつけたい』と発展していきました。ちなみに、2体の脚部に貼ってある補修パーツのデザインの違いで、10年の差を表現しています」

 こだわりの溶断面は、何度も塗り重ねた。

「ジムの溶断面の塗装は苦労しました。20回以上塗り重ねてますよ。実は8回目でメッチャええ感じに塗れたんですが『もっとええのん出来るはずや』って9回目にチャレンジしたら、それ以降8回目を超えることなく…。今でこそ笑い話ですが(笑)。技術的な部分では、面積の広い箇所ほど一回の塗装で厚ぼったく塗ります。完全に乾く前に次の色を乗せれば勝手にグラデーションになりました」

 苦労の結果、反響も大きかった。

「過去一番反響の多かった作品ですね。特に溶断面の塗装に関するツイートがすごかったです。『やっぱり見てる側も必死な作業は解るんやなあ』って思いました」

 最後に同氏のガンプラモデラーとしての信念を聞いたのだが、さすがtaka-taka-52さんの戦友であり師匠。その魂は見事に受け継がれ、共有されている。

「私は、展示会に出展するために模型を作ってるようなモデラーなので、展示会場でひとりでも多くの方の足を止めたいと思うし、観ていただきたい。そして作品をきっかけにたくさんの方々と交流させていただきたいと思ってます」

【※】ジオン軍の技術が、連邦軍に比べ10年進んでいるということを表した言葉。ガンプラのCMで使われた「ジオン脅威(驚異)のメカニズム」とともに、ジオン軍の技術力の高さを伝える言葉として有名なフレーズ。

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