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世界から遅れをとる日本の盲導犬事情、いまだ立ちはだかる公共の場NGのハードル 鍵は“ペット犬”マナーの向上

 視覚障害者の“目”として重要な存在である盲導犬。目の見えない人が行きたい場所に安全に行けるようサポートするのはもちろん、生きていく上でのパートナーとして、存在自体が大きな支えにもなっている。その一方で、最近では、AIが大いなる進化を遂げ、視覚障害者を助ける一助となるような取り組みが広がりつつあるが、そうした中での盲導犬の存在意義とは? 盲導犬の現在地と今後について、公益財団法人関西盲導犬協会の浅野美樹さんに話を聞いた。

“盲導犬”になれる確率は3割程度 とにかく根気よく「褒めて育てること」が大事

 浅野さんによると、訓練をして最終的に盲導犬になれる犬は3割程度だという。

「年間40頭ほどの子犬を産ませるための繁殖計画を立て、そこから生まれた犬たちが、訓練を経て盲導犬になります。当協会では年間10頭の盲導犬の育成を目指しています」

 盲導犬になるために必要な素質として、もっとも大切なのは「健康であること」。将来盲導犬となる候補犬は、生後60日を過ぎた頃にパピーウォーカー(パピーを預かるボランティア)に預けられ、1歳まで育ててもらう。犬の1歳は人間でいうと成人に相当する。そこから、協会に戻り、約1年の訓練を重ねて2歳頃に盲導犬としてデビューをするのだ。

「健康であると同じくらいに落ち着いた性格であることも盲導犬として大切な素質です。神経質な性格よりは、どっしりと構えて物事や環境の変化などに対してあまり動じない性格。基本的にポジティブな性格の犬が盲導犬としての適性があります。

 盲導犬の訓練はすごく厳しいというイメージを持たれがちですが、実際は褒めて育てるものなんです。できないことを叱るのはなく、できたことを褒める、という訓練が基本です。できたら褒められ覚えていく…のくり返しなんです。訓練士が根気強く教えてできたら褒めるを繰り返すことで犬たちも『次は何?』と尻尾を振って喜んでいろいろなことを覚えていきます。叱る訓練だと、犬も逃げたくなっちゃうのでね」
 叱る訓練で盲導犬となった犬は訓練士師の言うことは聞けても、タイミングよく叱ることができない目の不自由な盲導犬ユーザーさんの言うことを聞かなくなることがあるという。

「例えば、年配の優しい女性がユーザーさんになった場合、その盲導犬は『この人は怒らないからお仕事しなくてもいいかな』と考えることもあります。誰といても同じようにできる、犬が自分から進んでするということが大事なので、持って生まれた性格と訓練が合わさって盲導犬として成長してという感じです」

 関西盲導犬協会といえば、ベストセラーとなり、映画やドラマにもなった『盲導犬クイールの一生』。盲導犬・クイールの生涯を記録した本作品は、盲導犬の認知にも大きく貢献した。

「クイールはほかの盲導犬と特に変わりはない犬だったのですが、写真集から本になり映画になりテレビドラマになりと人気となりました。クイールは盲導犬の仕事を引退してからは啓発活動のためのPR犬になり、いろいろなところに講演などに行っていました」

 そんな現在のPR犬は、マギーちゃん。彼女は今、浅野さんと共に暮らし、毎日一緒に協会に出勤をしている。

「マギーは穏やかな性格で人懐っこいんです。訓練中は、人のところにすぐに行っちゃうし、猫や鳥なども追いかけちゃう(笑)。それだとユーザーさんが困ってしまうので、盲導犬にはしなかったんです。でも性格的にPR犬には向いているだろうということでPR犬になりました。

 4歳になった今は、もう落ち着いて、猫を追いかけることもなくなりました。4歳から盲導犬デビューできるのなら、(盲導犬になれる)割合がもっと増えると思うのですが、当協会では盲導犬は10歳で引退させるためユーザーさんのところで盲導犬としてのお仕事する期間ができるだけ長いほうがいいので、2歳の時点で盲導犬デビューしないといけないんです。そのため大器晩成型の犬は当協会では盲導犬になるのが難しいのが現状です」

AI発達も盲導犬があり続ける理由

 近年はAI技術が発達し、視覚障害を持つ方のための自立型誘導ロボットなどの開発も進んでいる。そういった状況下での盲導犬の価値は、「愛情」だと浅野さんは断言する。

「命がある盲導犬は、ツールではない。人と犬、お互いの命ある者同士、かけがえのないパートナーになり、信頼関係だって築ける。そういったところが一番大きいですね」

 ただ、AIの技術を活用しながら、盲導犬を兼用していくこともできるのではないかとも考えている。

「当協会が自らAIで何かを作るということはないと思います。でも、盲導犬と一緒にAIを使うことで、より安全に安心して歩くこと、生活できるようになるようなツールの開発などに協力はしていきたいと思っています」

 浅野さんは盲導犬と関わり合っていくなかで、視覚障害を持つ方は生まれつき全盲の方ばかりではなく、中途失明の方も多いことを知ったという。

「事故で突然すべての視力を失った女性がいたのですが、目が見えなくなると、真っ暗なところに放り出されて自分だけが取り残された気分になり、もう絶望でしかない、と。でも、盲導犬を持ったことでどこにでも行けるようになって、社会復帰もできた。何よりも『そばにいてくれることで温かくて心の支えになった』と言っていたんです。やはり盲導犬にはそういった力があるんです」
 現在、盲導犬を持つユーザーの年齢層は60歳以上が多い。2023年3月31日時点では全国で836頭の盲導犬が実動しているが、潜在的な希望者の需要に比べて実働数が伸び悩んでいる背景には、ユーザーとなる方の高齢化が進んでいる点も挙げられる。

「また、最近では視覚障害単独の障害の方は少なく、目の障害に加え、ほかの障害をあわせもつ方が増えています。目が不自由だけではなく、耳が聞こえなかったり、精神疾患があったり、脳障害があったり。重複障害の方は盲導犬と共に歩くことが難しくなる。それも実働数が伸び悩む一因なのかなと思います。でも、やはり課題としては、もっと若い方にも盲導犬と共に歩いてもらえたらとは思います」

 盲導犬を初めて迎えるにはユーザーも訓練を1ヵ月しないといけない。現役で働く視覚障害者の訓練する時間の確保や仕事と盲導犬の世話の両立が現実的に難しいのかもしれない。

 そういった中で、「そもそも犬を人間のために働かせるのはかわいそう」という意見もある。

「嫌がっているのに無理やり人間のために道具として扱うのは私も反対です。でも、もともと犬は人間とともに生きてきました。猟師が鳥を撃ったのを拾ってきて持ってくるとか、羊を追う犬とか、昔から人間と共に支え合って生きてきた歴史があります。本当に喜んで次々と覚えていく能力のある犬が、感謝されて信頼感を得ながら、お互いに助け合いつつ視覚障害の方と歩き、暮らしていくことは、決して虐待などとは思わないです」

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