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触覚や音で楽しさ伝える“共遊玩具”、「障害者向け」を払拭する動きが業界全体に浸透
目の不自由な子に配慮したおもちゃには「盲導犬マーク」がついている
心のバリアフリーの育みを期待しコンセプトが決定
耳の不自由な子に配慮されたおもちゃには「うさぎマーク」を表示
ポイントは障害の有無に関わらず共に楽しく遊べること、そして一般市場向けに販売されていること。いわばおもちゃのユニバーサルデザインともいうべき、これらのおもちゃを総称して「共遊玩具」と呼ぶ。
1990年よりおもちゃ業界共通の取り組みとなっている共遊玩具のコンセプトを提唱したのが、来年で創業100周年を迎える老舗メーカー・タカラトミーだ。その活動の原点は同社の前身であるトミーの創業者・富山栄市郎の「誰もが楽しめるおもちゃづくり」という意思だった。
「1980年に設立されたHT研究室では、どんなおもちゃが障害のある子どもに喜ばれているのかを調査して、まずは目の見えない子どもたちのためのおもちゃ作りに取り組みました。そして誕生したのが振動センサー付きのメロディーボール。『鈴が入ったボールは楽しいけれど、ボールが止まってしまうと音がしなくなるから取りに行けないんだ』という声から開発されたものでした」(タカラトミー サスティナビリティ推進室 社会活動推進課 高橋玲子さん)
このメロディボールは目の見えない子どもたちに大いに喜ばれた。とは言え、“障害者向け”という小さな市場で大ヒットしても採算は合わなかった。
「民間企業としては利益を出さなければ、活動が継続できない…そんなジレンマを抱えながら苦戦していたとき、研究室のメンバーではなかった一社員から思わぬ提案がありました。『専用にしようとするからコストが掛かるんじゃない? ふつうに作るおもちゃにちょっと工夫してみたら?』 ――これが、「共遊玩具」誕生のきっかけです。障害のある子もない子も一緒に遊べるおもちゃなら、心のバリアフリーも育まれてみんなが仲良くなれるのではないか。そんな願いも込めて、“共遊”のコンセプトは形になっていきました」(高橋さん)
人気シリーズも年々アップデート 大切なのは「規格を継承していくこと」
(写真左より)リカちゃん事業部 西山桐さん、サスティナビリティ推進室 社会活動推進課 高橋玲子さん
リカちゃんの双子の妹、ミキちゃんとマキちゃん。前髪の分け方や口元でどちらか判別できる
「こうした昔からあるおもちゃも、実は年々アップデートされています。たとえばリカちゃんのふたごの妹のミキちゃん・マキちゃん。もともと触って遊べるお人形として盲導犬マークは付いていましたが、最近の商品では2人の前髪の分け方や口元の形状を変えています。目の見えない子は指先が敏感。ほんの少しの手掛かりからでもさまざまな違いをとらえて、おもちゃを楽しもうという思いがとても強いんです」(高橋さん)
「リカちゃんシリーズの特徴の1つは小さいパーツが多いこと。『クリニック』にもお薬やカルテなどたくさんの小物が付いてきますが、かつての商品はお薬の色やカルテの文字といった視覚情報でバリエーションを付けることがほとんどでした。今回は形状で識別しやすくするため『喉のお薬』『痛み止め』など症状によってお薬の形状を変え、またカルテには小さな切れ込みを入れることで『これはパパのもの』などわかるようにしています」(リカちゃん事業部 西山桐さん)
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カルテや薬など紙小物はカットの違いで認識できる
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お薬も色分けではなく異なる形状で症状に合ったものを処方できる
ボトルが倒れないよう工夫された『キャンプチェア&テーブルセット』
「この工夫は昨年発売したリカちゃんのアウトドアグッズ『キャンプチェア&テーブルセット』にも盛り込まれています。テーブルに凹みをつけてジュースが倒れないようにするという工夫ですね。リカちゃんシリーズはハウスやショップなど商品がとても多彩なのですが、このように共通で盛り込める工夫も多いんです」(西山さん)
リカちゃん事業部ではこうした共遊玩具ならではの仕掛けの工夫を蓄積し、『リカちゃん』シリーズの規格とする動きも始まっている。これにより担当者が変わっても、工夫が引き継がれるというわけだ。
「このリカちゃん事業部の取り組みはとてもうれしかったですね。弊社に限らず、民間企業は社会の風潮や市況に開発が左右されることが多いんです。たとえば2000年代初頭に『誰もが利用しやすい商品作り』という発想が盛り上がったものの、コストなどの面から民間では活動が収束してしまったケースが多くありました。今はまた『誰も取り残さない』ことが会社の評価にも繋がるようになりましたが、たとえ社会が変化しても『共遊玩具の活動を民間企業が無理なく継続させる』ための方法は常に模索していきたいと思っています」(高橋さん)
映像の世界を立体で表現できるのは「おもちゃ」ならでは
一方で時代とともに子どもたちの好むおもちゃのトレンドも変わっている。
「ベビー向け玩具を除いては、立体を手に取って遊ぶものがかつてと比べて減っている傾向にありますね。たとえば液晶玩具やカードをゲーム筐体に読み込ませるおもちゃなど、視覚効果や映像を楽しむものが増え、目の見えない子どもたちにとっては“共遊”しにくくなっているのを感じます」(高橋さん)
こうした社会状況を踏まえながらも、タカラトミーでは現代の子どもたちにとって魅力的な共遊玩具の開発に取り組んでいる。たとえば「日本おもちゃ大賞2019」の共遊玩具部門の優秀賞を受賞した液晶パッド付きのしゃべる地球儀『小学館の図鑑NEOGlobe』は、見て聞いて触れて学べるギミックが盛り込まれている。また『ポケットモンスター モンコレ キミもポケモントレーナー! ポケモン研究所DX』は手で触って遊べる仕掛けが満載で、目の見える子も見えない子も一緒にバトルやゲットを楽しむことができる。
「アニメを音声だけで楽しんでいる目の見えない子はけっこう多いんです。おもちゃに触れることで『あのポケモンってこんな姿をしてるんだ』とわかったのがうれしかったと言ってくれた子もいました。映像の世界を立体で表現できるのはおもちゃならではなんです」(高橋さん)
なお、日本玩具協会が認定する共遊玩具は目あるいは耳の不自由な子どもたちに配慮されたもので、ほかの障害の子どもたちは今のところその範囲には入っていない。
「弊社ではこれとは別に子どもから大人、高齢者までより多くの人が楽しめるおもちゃ作りを目指し、昨年度からはリーダー制度を組織しました。より多様な人の不便さやニーズに気づき、できる限りそこに寄り添えるメーカーでありたいと思います。新しい商品の開発はもちろん、今はまだ“共遊”の発想が盛り込まれていない商品にも何らかの工夫をしていきたいですね。障害の有無に関わらずみんなが一緒に遊べたら、こんなにステキな世界はないんじゃないかって思います」
(取材・文/児玉澄子)