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(更新: ORICON NEWS

温泉にサウナ、海鮮丼も…ビジネスホテルなのに女性ユーザーを魅了した『ドーミーイン』 ルーツは寮の運営

 天然温泉の大浴場にサウナ、施設によっては海鮮丼やもつ鍋などのご当地料理を取り入れた朝食ブッフェ、夜食のラーメンなど充実したサービスで知られる『ドーミーイン』。「安く泊まれればいい」という従来のビジネスホテルの常識を覆し、その付加価値でビジネスマン以外の客層を広げている。4つ星シティホテルと比較して遜色ない施設とサービスに倣う後発も増えている。ビジネスホテルの枠を超える『ドーミーイン』を手掛ける共立メンテナンスに聞いた。

大浴場・サウナ付きビジネスホテルの先駆者 大浴場を自家源泉の天然温泉へ

 『ドーミーイン』を展開する共立メンテナンスは、もともと学生寮や社員寮を運営しており、現在も全国に500棟を越える。そうしたなか、寮に入居する会社員の「出張先でも寮が利用できたらうれしい」という声を受けて事業化に乗り出した。1993年に『ドーミーイン』1号店を埼玉・谷塚に出店し、ビジネスホテル事業に参入。現在では、91のホテル(2023年3月時点)を運営する。

 当時のビジネスホテルは、駅から近いが部屋はベッドとデスク、バス・トイレは3点式ユニットという手狭な作り。リーズナブルな価格で最低限の機能性があって泊まれればいいというのが一般的だった。一方の『ドーミーイン』は、我が家で過ごすようなリラックスできる時間の提供をコンセプトに、大浴場と味と栄養にこだわった朝食が付くビジネスホテルを立ち上げた。

 寮運営の企業文化が根底にある同社は、ビジネスホテルの常識を覆すホスピタリティとサービスでじわじわと支持を得ていく。ドーミーイン事業本部東日本事業部長の水野貴史さんは「大浴場を常設するビジネスホテルは、当時業界のパイオニアでした。ゆったり脚を伸ばせるお風呂のほうが出張の疲れを癒やしていただけます。寮をご利用のお客さまの声を形にしたのが『ドーミーイン』のルーツです」と振り返る。

 大浴場とサウナ併設の施設は、1995年に開業された2棟目のドーミーイン蘇我(現ドーミーイン千葉City Soga)。2005年からは大浴場を天然温泉にすることを掲げ、富山(17棟目)のオープン以降は基本的にすべてのホテル建築時に自家源泉のためのボーリングを実施する方針を打ち立てた。

 ドーミーイン事業本部副本部長の藤井俊輔さんは「『ドーミーイン』と言えば大浴場というイメージが認知されていました。お客様の満足度をより上げるために何ができるかを検討し、天然温泉の掘削を始めました。当社は『共立リゾート』というブランドでリゾートホテル事業も運営しており、そのノウハウを取り込んでいます」と背景と狙いを語る。

新規顧客増加の一方で、サウナブームで後発組も続々

 一方、『ドーミーイン』の各ホテルの大浴場には、当初からサウナ施設がデフォルトで付属していた。それにより、昨今の空前のサウナブームの前からいち早くニーズに応えるとともに、セルフロウリュやオートロウリュ設備も施設によって導入。温泉や水風呂、サウナの温度、シャワー水圧の調整と細かなこだわりも評価され、ブーム以降はサウナーを囲い込むことにも成功している。

 もともと天然温泉の大浴場とサウナを備え、サウナブームを追い風にした。市場は当然、後発組が現れ、その後を追われる立場になる。藤井さんは「2000年代半ば頃からは大浴場があるビジネスホテルが増えてきたと認識しておりますが、当社の大浴場はデザイン性を含めて独自のコンセプトがあるので、あまり意識していません」と語る。

 また、サウナブームが定着しつつあるいま、「新規顧客は確実に増えています。『ドーミーイン』の大浴場とサウナへのこだわりは説明しきれないほど。他社との差別化となる必要不可欠な施設です」(藤井さん)と言う。かつてカプセルホテルでのサウナ併設が一般的だった。ブームが追い風となってシティホテルやビジネスホテルでも、大浴場やサウナ併設の施設が増えており、いまや必要不可欠となっている。

食を大事にする企業文化から生まれた豪華ビュッフェと夜食ラーメン

 もうひとつの名物が食事だ。寮事業で培ってきた食を大事にする企業文化は、ご当地料理を取り入れた朝食ブッフェスタイル、夜食の「夜鳴きそば」となって表れ、人気を得ている。オープン当初から朝食付きの宿泊サービスだったが、比較的簡易なメニューであった。もっと美味しく食べてもらうためにはどうしたらよいのかと考えを巡らせ、メイン料理は作りたての温かい料理を提供したいという想いから、出来たてを個人盛りで提供し、その他の料理はブッフェスタイルという、同社独自のセミブッフェスタイルを構築していった。

 しだいに、ブッフェでも温かい料理提供できないかと試行錯誤を重ね、現在の対面調理を取り入れたスタイルに進化していった。近年は、全国各地のご当地料理を提供する贅沢なビュッフェスタイルへとブラッシュアップされている。

 一方、夜半に小腹が空いたときの気の利いたサービスになる「夜鳴きそば」の提供がスタートしたのは、2009年から。お客様に喜んでもらうためのサービスであるのと同時に、スタッフの接点を増やすための施策でもあった。「ビジネスホテルはスピーディーにチェックインが終わり、チェックアウトまでお客様とお会いする機会がほとんどありません。そこでお客様とスタッフの交流の場として、夜は空いているレストランを夜食会場にしました」(藤井さん)。

 そんな食と顧客サービスへのこだわりが『ドーミーイン』の特徴になり、ビジネスマン向けであったビジネスホテルの客層が広がる。

「当初はビジネスマン向けにいろいろなサービスを考えて、ビジネスマンを中心に集客していました。それが変わり始めたのが、2000年代終盤。週末の観光需要が伸び、シングルだけでなくツインやファミリー層も利用できる客室タイプを増やしました。2013年以降は、インバウンド需要を取り込んでいます」(水野さん)

 最初のビジネス利用がきっかけとなり、その充実したサービスと居心地の良さから観光でも利用するリピーターが増えるのと同時に、家族やグループなど客層の幅を拡大していった。

若い世代の女性客の囲い込みが課題 実は知られていない…シャワーヘッドやベッドは高級ホテル並み

 食事と大浴場が話題になり、ビジネスホテル市場でブランドを確立するとともにホテル数も人気も拡大の一途を辿ってきた『ドーミーイン』だが、課題もある。

 水野さんは「週末を中心にカップルやご夫婦、ファミリーの利用は増えていますが、同じエリアのほかのホテルと比較すると女性のお一人様やグループなど若い女性客が少ない。狙っているほど取れていないのが実情であり、大きな課題です」と明かす。

 女性客へのアプローチとしては、レディースルームを設けるだけでない。「シモンズ」のベッド、ライト付きメイクアップミラー、大浴場ではシャワーヘッドとドライヤーは「リファ」、シャンプーバーを備えるなど、日常のワンランク上の贅沢を付加価値として提供している。

 YouTubeなどでは、“お一人様女子”の「ビジホ飲み」動画を目にすることも増えたが、食事と天然温泉だけでなく、充実したアメニティが広く知られることで、若い世代の“お一人様女子”が増える可能性も十分に秘めている。

4つ星シティホテルと遜色ない『ドーミーイン』 “ビジネスホテル”ではない新たなカテゴリーを模索

 「ミドル世代のハートにささるサービスがてんこ盛り」(水野さん)が売りの『ドーミーイン』だが、全国各地でそれぞれの街に合わせたデザインと建築設計にこだわるホテル仕様は、スタイリッシュで高級感と清潔感がありながら建物ごとの特徴があり、どこでも同じ見た目で統一する一般的なビジネスホテルチェーンとは対極の道を歩む。

 それは4つ星のシティホテルと比較して遜色がなく、施設やサービスの充実ぶりはビジネスホテルの枠を越えている。この先の目標として「ビジネスホテルのワンランク上の新しいカテゴリーを生み出し、その第一人者になっていきたい」と見据える。

 足元ではSNSによるアプローチなど若い世代の認知拡大のための施策を打つのと同時に、ホテルブランドの新たなカテゴリー化を進める大きな動きが、イメージの刷新と新たな客層の開拓につながっていくことだろう。その企業文化がにじむ施設やサービスは、昨今の女性の価値観との親和性も高い。若い世代を取り込むポテンシャルを秘めているのは間違いない。

 『ドーミーイン』には、徹底して顧客の声を具現化してきた歴史がある。それは時代の流れに抗わず進化を続けることであり、業界における時代を映す鏡になっていくのかもしれない。かつてのように、ビジネスマンだけが利用するホテルではなくなっているいま、付加価値がビジネスホテルの選択基準になっている。そのニーズを先取りしてきた『ドーミーイン』のこの先のあり方が注目される。

(文/武井保之)
◆『ドーミーイン』施設一覧はこちら(外部サイト)

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