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ディズニープラスが日本のVOD市場を前向きに捉える理由 同社キーマンが明かす会員数頭打ちの打開策とは?
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「ここまでグローバルに成長を遂げたことに関して我々は誇りに思っています。企業にとって1つのビジネスをデジタルスペースに移行するのは容易なことではありません。その点において、ディズニー全体は大きな進歩を遂げました。ウォルト・ディズニー・カンパニーとしては、日本を戦略的に重要な市場の1つとして注力しています。日本はVODの分野においてもプライオリティーが高い。そこにリソースを割くことができたことがこの急成長の一助になったと考えています」
さらに日本ではアカデミー賞をはじめとする世界的な賞を多く受賞している映画『ドライブ・マイ・カー』のプロデューサー、山本晃久が入社するなどテレビ・映画業界で多くの経験を積んだスタッフが加わり、日本発オリジナル作品が次々と誕生。最近では『ガンニバル』のような新しいジャンルの作品を発表するなど話題を呼んでいる。過去1年、そうした努力を続け、よい作品づくりはもちろん、テレビ放送後に配信される国内アニメなどを充実させる体制も規模を増しつつある。こうしたローカル戦略が日本でも加入者が増加した一因であろうとトリニダッド氏は推測する。
VOD競争苛烈極めるも「日本という市場はまだまだ成長の余地がある」“アニメ”だけじゃない日本独自の特徴とは?
「おっしゃる通り非常に競争が厳しくなっています。例えば日本においても多くの動画配信サービスがコンテンツやメディア購入、優秀な人材の雇用、PRなどに投資を続けています。ですが、その競争について、私はむしろうれしく思っています。なぜなら日本のコンテンツ・メディア産業にこれだけの資金が入り、業界全体が成長することは大変喜ばしいことだからです。」
さらに、トリニダッド氏によれば、日本のVOD市場の世帯普及率は実はまだ50%以下であると言う。一方、成熟している国では約80%以上の数字で推移。つまり約30〜40%の“パイ”の余地が日本にはまだあるのだ。さらに日本は世界でGDPにおいて3位。比較論的にそれほど裕福な国で30〜40%ほどのギャップがあるというのは、業界にとって非常に魅力的なのだ。
「競争が進む一方で、日本という市場はまだまだ成長の余地がある。ディズニーは、だから日本を重要視しているのです」
「日本には同じ時間に同じ番組を見て、それを互いに共有・共感しあう文化が残っています。ディズニープラスとしてはこうした日本独特の“視聴習慣”に入り込み、“共有”の瞬間を作り出せる存在になりたいと考えています。」
このようにVODビジネスというのは、各国の文化や習慣によって戦略が異なり、消費者の動向に依存している。「VOD事業は消費者がビジネスを喚起している面が多い」とトリニダッド氏は話す。
「私たちはこれまでさまざまな種類のコンテンツを試し、消費者がどのようなコンテンツを好むのか、各国の市場で学んできました。その中でたどり着いた答えは各地域のローカルコンテンツを充実させることです。特に日本ではアニメ、韓国は自国の俳優を起用したドラマが人気となっており、各地域に親和性の高いコンテンツが求められていることがわかっています。今後は地域密着型の非英語コンテンツへさらなる投資を進め、消費者が望むものを引き続き提供していきたいと考えています。」
消費者の需要にどう追いつけるかが大切。コンテンツを消費者に提供する側のディズニーがこのように考えること自体が興味深いが、ディズニープラスの強みについてトリニダッド氏はこのように語る。
「ディズニーにはこれまで長い間、世界に素晴らしい物語を届けてきた実績があります。その実績と同時に、ローカルの、日本であれば日本の素晴らしいクリエイターと手を組み、そのノウハウや技術を共有していきたい。現在の『ガンニバル』や「東京リベンジャーズ」聖夜決戦編に留まらず、ディズニーが培ってきたものと、ファンベースが広いもの、また日本から創出された優れた才能を融合させてより素晴らしい作品を、これまでのディズニー作品と同じレベルで、世界に送り出していきたい」
そしてトリニダッド氏はこう強調する。「つまり我々はディズニープラスのサービス自体が日本の社会の良い一員になってくれればと願っている」。トリニダッド氏は、日本人の特性として勤勉で常に一生懸命働いているからこそストレスを抱えている人も多いだろうと考えている。そこにディズニープラスのエンタメが、人々をアパートやマンションの一室から別の空間に連れて行けたら…。「そういったストーリーテーリングという“魔法”によって、今後も皆さんを楽しいエンターテイメントの世界へ運んでいきたいと考えています」
(取材・文/衣輪晋一)