ORICON NEWS
「私たちの一番の師匠は故人様」母娘で故人を見送り19年、現役納棺師が死化粧を通して見つめた“人生”
納棺師としてのやりがい「ご遺族の悲しみの涙が安心の涙に変わっていく」
「当時まだ次女は小さく、長女と2人で働いていました。やがて次女が思春期に入り、私たちが食卓で交わす仕事の話を非常に嫌がるようになっていったのですが、その次女がコロナ禍でトラックドライバーを失職したことをきっかけに、今では同じ納棺師として、母娘3人で任にあたらせていただいています」
この19年で1万件以上の“旅立ち”を見送ってきた。最初は母の仕事に否定的だった次女も母が故人に言葉をかけながらケアを施す姿に「天職だ」と尊敬の言葉を口にする。案件はひと月に約50〜70件。先ほど語られた“やりがい”について問うと、「いかにも亡くなっていますといった外見の故人様が、私たちがお世話をすることで、すごくいいお顔になってきてくれる。すごく輝いてきてくれるのがうれしい」と語る。
「あとはやっぱり、ご遺族の悲しい涙が、安心した涙に変わる、その瞬間に立ち会えるのもうれしい。そこまで感動し、喜んでいただけるのか、と、こちらが申し訳なくなるほど。それと亡くなった方の人生を見聞きできる。それは実にドラマチックで、その方なりの唯一無二の人生があったんだと、彼らの最期のお世話をさせて頂くことにありがたさも感じています」
「故人様は雄弁にお語りになる」故人と真剣に向き合うことで、その人が精一杯生きた証が見えてくる
「ご遺体の肉付きを見て、肉体労働に従事されていたのかな、農家をされていたのかな、とか想像します。ご遺族様のご自宅に行くこともあります。するとお好きなものが飾ってあったり、ご趣味のものも分かってくる。甘いものが好物だったとか、優しそうな人だったとか、すごく寡黙な感じだったとか、そういうお話をご遺族から聞いて個人様の生前の顔を引き出していきます。するとそこから故人様の人生が徐々に浮かび上がっていくのです。想像ではありますが」
ほとんどの人は亡くなると顔がこわばる。斉藤さんたちは、まずマッサージをしてほぐしてゆき、微笑んでいるような安らかな表情に整えていくという。「なかにはご遺族様が、『父はこんなに笑ったことがなかった。いつも怖い顔だった。これは父ではない』などとおっしゃったケースもありました。そういった場合は口角を下げたりと、遺族様がイメージする故人様に近づけたりもします」
つまり、斉藤さんの仕事は、単にご遺体をきれいにするだけではなく、遺族がイメージする“故人”、つまり生きていた時の雰囲気をほぼ完全に再現し、ご遺族にお別れして頂くことだ。
「エンゼルケアは大体、納棺前の1時間で終わりますが、それでも終わらない場合、もしくは非常に困難な時もございます。例えば、お顔が欠損してしまっている場合です」つまり孤独死で発見が遅れた遺体、電車に飛び込みバラバラになった遺体、焼死体、頭蓋骨に皮が張り付いているだけの元の顔が分からない状態のほぼミイラ化した遺体、交通事故などで陥没したり、一部がなくなってしまった遺体などだ。