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「私たちの一番の師匠は故人様」母娘で故人を見送り19年、現役納棺師が死化粧を通して見つめた“人生”

欠損の激しい遺体もできるだけ遺族のために生前の状態に近づけていく エンバーマーの仕事

 通常は男女差にほぼ差異はないという。蒼白になった顔色には、血色の赤味を足すことで自然な顔色に近づけていく。だが人は、常に健康に生をまっとうできるわけではない。
 
「お顔の欠損などにより、とても納棺式でお顔を披露できる状態ではなかったり、ご遺族が怖がってしまい、しっかりお別れできる状態ではない、そんなご遺体を、生前に近い、元気だった状態に修復していくのも私たちのお仕事です」

 お顔が凹んでいたら膨らませ、腫瘍などが大きく飛び出していればそれを削っていく。色が変わっていたらファンデーションで塗り替える。

「私たちは、ワックスや特殊な薬品を使用して復元していきます。生前のお写真などを参考にしながら、お鼻や唇を作っていきます。お写真がなく困ることもありますが、ほぼ生前の頃に近い状態に仕上げられた時はご遺族様に大変喜んで頂けます」

 それは素人目にはまるで特殊メイクの作業のようにも見える。ご遺体がバラバラの場合は、外科医のようにご遺体を縫合することもある。「身内の納棺は行わない納棺師もいらっしゃいますが、私は自分の父の納棺も行いました。どんなご遺体であっても、自分の身内だったら生前のようなお姿でお別れしたいと思いますよね。ですからご遺族の立場に立って私たちができることはやっていく。この仕事は、人によっては生理的な嫌悪感を持つ方もいらっしゃいます。それが原因で辞めていく人も多いですが、幸いにも、私はやりがいを感じてここまでやってきました」

 そんな斉藤さんでも、辛く思うことがある。それは“逆順”。端的に換言すれば、親より子どもが先に亡くなることだ。

「死は忌むべきものではない」終活や自由葬など“最期のお別れ”多様化で死生観も変化

「60過ぎの方が亡くなり、90歳ぐらいのお母様が『私、子どもの死を見るために長生きしたんじゃないのに』とおっしゃったり、幼いお子さんが病気や事故でお亡くなりになったり…。そうした現場はとてもきついです。あとは自死をされた方。この仕事をしていて私が驚いたことの一つに、自死される方は、報道されてないだけで驚くほど多いということ。納棺式ではその悲しみが薄れるよう、自死の痕跡を消す依頼なども入ります」

 そうした“悲しみの痕”だけでなく、点滴痕や青あざ、変色した部分にも処置を施す。ただし、顔にもともとあった傷、あざ、ほくろなど故人を象徴するものは、故人本人が気にして隠していたという例外を除いて“生きた証”としてあえて残すのだという。

「ここ数年、終活という言葉が生まれ、故人様が生前に亡くなった時の準備をされることも多くなりました。エンゼルケアの生前相談される方やご自身で白装束を縫われていた方もいらっしゃいます。死は悲しいものですが、忌むものではなくなってきた感覚もあります。私にとって死は怖いものではない。それは終わりではなく、一つの区切り」

 昨今は無宗教ゆえの自由葬が増えてきた。仏教などでは魔をはねつける、また“死”を象徴する白装束に、三途の川の渡り賃の六文銭(現在、貨幣を納めることはNGのため、紙に印刷されたもの)などを持たせるが、自由葬では故人の好きだった服などであの世へお送りする。終活、自由葬と、日本人の“死”へ対する考え方も大きく変わりつつあるようだ。

「長くこの仕事をしていると私も慢心してしまうことがあります。そんな時に限って、例えば点滴痕から流血したり、口から体液があふれたり…。故人様が戒めてくれるんですね。死因も、生き方も皆違う。遺体の様子から、その人の歩んできた人生が見られ、それがすべて凝縮されたのが故人様。だから、私の一番の師匠さんは故人様たちです。

 また私たちは自分たちを“守りびと”と呼んでいます。本当の“おくりびと”って、ご遺族様やご友人じゃないですか。お送りする方たちが後悔なくお送りできるよう、私たちが故人を守ります」

 そんな斉藤さんは、ご遺体用の化粧品もプロデュースした。この商品がコンシーラーとして優れている(ただしその後の肌ケアは必須)とSNSで広く話題にもなった。

「最後に皆さんにお伝えしたいのは、決して諦めないでくださいということ。ご遺体の損壊が激しくても、私たちができる限り、生前のお姿に近づけます。何もしないでお送りすると、どうしても後悔が残る。ああすれば良かった、こうすれば良かった…ご遺族様が悩まれていては故人様も悲しみますよね。逆にきちんと故人様に向き合うことは、心が落ち着くことにつながります。生きている皆様におかれても、生きている素晴らしさを実感し、決して過度に死を怖がらず、素敵な人生を送れますようお祈り申し上げます」
(取材・文/衣輪晋一)

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