• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
  • ホーム
  • ライフ
  • 「スーツ着ない文化」定着で岐路に立つ紳士服、それでも専門店が模索する“カッコいい”の指標となるスーツの在り方

「スーツ着ない文化」定着で岐路に立つ紳士服、それでも専門店が模索する“カッコいい”の指標となるスーツの在り方

リニューアルした「洋服の青山」のフレッシャーズスーツ「PT-9」

リニューアルした「洋服の青山」のフレッシャーズスーツ「PT-9」

 学校の入学式や入社式など、新生活のタイミングでは必ずと言っていいほど一式買い揃えられてきたスーツ。だが、ITバブル以降、「スーツを着ない文化」が徐々に定着。さらに、コロナ禍による在宅勤務の浸透により、その流れに拍車が掛かっているとも言える。それでもなお、“通過儀礼”としての紳士服の価値、“格好いい”を体現するツールとしての強度はまだ健在。岐路に立たされた紳士服メーカーの正しい在り方とは? 先ごろオーダースーツ『麻布テーラー』運営会社を完全子会社化し、業界に新たな風を吹きこむべく模索する最大手・青山商事に話を聞いた。

本当にスーツ=没個性なのか? 大人になる“覚悟”としてのスーツ

 世の多くの人が新生活をスタートする4月、コロナ禍ではあるが、学校の入学式で、また新社会人として、フレッシャーズスーツを購入する人は多いはずだ。スーツは礼装の一部ととらえられるウェアリングであり、式典や正式な場、重要な場やハレの日において欠かせない存在ともいえる。初めてスーツを着て鏡を見た時、「大人になったな」「なんだかシャキっとするな」といった感慨を持った人もいるだろう。

 だが一方で、なんとなく「堅苦しい」「没個性」「野暮ったい」といったネガティブな印象もある。「没個性」に関しては、外国の人々から「皆、同じ格好をしていて少し怖い」といった意見や、SNSで「同調圧力」「量産型」などの声があることも事実。また、着てみたはいいものの、違和感が拭えず、なんだかスーツに“着られてしまっている”と感じる人も少なくないはずだ。

 多様性が認められる時代において、なぜ大切な日の装いとしてスーツを選ぶ人が多いのか?「スーツはタキシードやモーニングといった礼装のなかでも一般的に使いやすい服装として浸透しているからだと思います。またマナーやルールなどを重視する日本人の文化、感覚が働いているとも考えられます」(青山商事 住吉氏/以下同)

 「堅苦しい」「野暮ったい」という意見については「一つはスーツというものを着慣れてないということがあるのでは。学生時代の普段着はゆったりとしたカジュアルな服装で過ごした方から見れば、スーツは生地もしっかり、肩の縫い目もある。その違いからファーストインプレッションとして堅苦しさを覚える方もいる。もう一つは着こなしのルール。スーツに合うのはこういうシャツ、ベルト、靴という法則がある。それを理解して基本を身に着けるとキレイに着こなせるようになるのですが、ルールを“制限”ととらえてしまうことで、スーツの存在が若年層にとって遠いものに感じられてしまった背景があると思っています」と分析。

 「実際、特に新入学用のお客様の場合、親に勧められて来店したはいいものの、ご本人はあまり着たくないとか、なぜ着なきゃいけないんだという反応をされている方もいらっしゃいます。しかし親御様は、やはり大人になるステップアップとして、身だしなみを整える、大人への準備という視点でスーツを着たお子さんの装いを見ていらっしゃる。ご本人さんも、一度スーツに袖を通すと、試着室から出てくる顔立ちがまったくの別人になる。そんな瞬間に日々私たちは立ち合います。大人になる“覚悟”として、フレッシャーズの皆様にもスーツを着る“想い”はあるんだなと感じます」

そもそもスーツはリラックスするための服だった? “3.11”以降、その根幹に立ち帰る動きが加速

スーツをフィッティングしている様子。肩幅がジャストサイズであるか、これがスーツの着こなしでもっとも大切なポイントだという

スーツをフィッティングしている様子。肩幅がジャストサイズであるか、これがスーツの着こなしでもっとも大切なポイントだという

 スーツの起源は19世紀半ばのラウンジジャケットにまで遡る。当時の英国貴族階級は1日に何度も着替えをしていたと言われ、例えば夕食では男性は燕尾服、女性はイブニングドレスが当たり前だった。そしてディナー後は楽な服に着替え、女性はロウイングルームへ、男性はスモーキングルームへ。そのスモーキングルームがラウンジルームと呼ばれており、スーツ=ラウンジジャケットは、そもそもリラックスをして話し合うための装いだった。

 これが明治維新以降日本に輸入され、外国文化への憧れも伴って頻繁に着られるように。そのため、貴族のリラックス服という歴史は輸入されず、重要な場や礼装といったイメージが先行して、現在のスーツへの印象へと至る。

 貴族服の象徴として君臨したスーツが、なぜ「野暮ったく」見えるのか。「一番のポイントは、サイズ感や丈感が合っていないこと。自身の体にフィットしているかどうかが8割を占めると思います」と住吉氏。肩幅、胸・胴まわり、袖の長さ、着丈、背中のシワ、パンツのサイズをチェックすることが大切だという。

「初めて着る方は、着慣れてないことへの抵抗感もあると思います。実際、そういったお客様の声も挙がっていましたし、スーツが堅苦しいという印象を抱かれる方に、“実はすごく楽なんだ”と思ってもらえるよう、 “アクティブスーツ”の開発にも注力して参りました」

 この“アクティブスーツ”の起点となったのが2011年の東日本大震災だと言う。「世界的なトレンドも背景にはありますが、東日本大震災があってから節約志向、エネルギー消費を抑えるエコロジーの観点から、自転車通勤をされる方も増えました。その際に“もっと動きやすくてラクに着られるスーツがあったら…”というニーズが高まり、生地の素材や製法も伸縮性にこだわるように。弊社では2014年頃からこの取り組みが本格化したのです」

 この流れから同社では一般的なスーツ生地が4〜5%の伸縮性のところを15%にまで高めた「PT-9」を開発。発売した2016年から、毎シーズン改良を行っているという。

伸縮素材「アコーディオンテープ」

同社が特許を取得している伸縮素材(アコーディオテープ:特許第5451193号)

スーツそのものがボーダーレスに「“自己表現”するためにスーツを着る」

スマホやイヤホンを入れられる、多機能ポケット (左)上着見返しの胸ポケット(中央)ヒップポケット(右)上着内側のサイドポケット

スマホやイヤホンを入れられる「多機能ポケット」 (左)上着見返しの胸ポケット(中央)ヒップポケット(右)上着内側のサイドポケット

 同商品は、背裏生地にアコーディオン状に伸縮する特殊な素材「アコーディオンテープ」という特殊素材が使用されているのが大きな特徴と言える。デザインには最新のトレンドを取り入れつつも、ユーザーの声に合わせ、イヤホン・スマホなどを収納できる「多機能ポケット」を付属している。体の動きに合わせて伸縮し、型崩れしづらく、着心地・機能性を重視して作られている。

「スーツを着ていても、こんなに楽に動けるんだということを実感して欲しい。堅苦しいというイメージを払拭するために、弊社の店頭ディスプレイでは、『PT-9』を逆立ちしているようなポージングのマネキンに着せて、こういう動きもスーツでできるんだというのを目で見てわかるようにしていたこともあります。いかにスーツを身近なものだと捉えていただけるか。『PT-9』の開発やリニューアルを通して、スーツに課せられた課題とも向き合ってきました」

 またこの多様性の時代、住吉氏はスーツの在り方そのものが変わるかもしれないとも語る。「若年層はスーツをどのように選んでいるか? これまでは『失敗したくない』という理由からか、無難なデザインのものがよく選ばれる傾向でした。ですが、近年は定められたルールのなかで、自己表現ができるものを選ぶ傾向にあります。例えば女性でしたら、スーツに合わせてメイクや髪型、インナーを変えることで自分の魅せ方、雰囲気の違いを打ち出すことができます。男性も今はメイクをする時代です。スーツの選び方は、よりボーダレスに、より多様化していくでしょう」。

 Z世代に着目すると、現在はマスメディアによって広められる社会的ブーム「マス型」だけでなく、SNSでの「かわいい」「映える」といった使用価値から生まれる「消費者先行型」との相乗効果で流行を作っている。青山商事もスーツに合わせるインナーや小物などのコーディネートアイテムを多様化に向けて展開しており、「スーツ」というルールのなかで、自分流にどうアレンジして楽しむか意思決定するのが若年層の傾向と言える。

 スーツは「マス型」の最たる例だ。しかし、今や「堅苦しい」だけでなく「没個性」といったイメージも消失傾向にあるのではないか。逆に「スーツ文化」のルールがあるからこそ、そこから自分をどう出すか、着る人の個性が問われる時代に入っているとも言える。既製であっても、実はそれぞれが違う個を発揮できる未来、ルール=制限のなかでいかに“遊べるか?”で価値観がはかられる時代が今、来ようとしている。

(文/衣輪晋一)

洋服の青山「PT-9」:https://www.y-aoyama.jp/campaign/pt9/(外部サイト)

あなたにおすすめの記事

オリコンニュース公式SNS

Facebook、Twitterからもオリコンニュースの最新情報を受け取ることができます!

 を検索