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フジが“月9ブランド”を捨てた理由 ハリウッド・韓ドラに挑むテレビマンの矜持と覚悟

  • 現在放送中のフジ月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』第7話より

    現在放送中のフジ月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』第7話より

 『ひとつ屋根の下』『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『ロングバケーション』『やまとなでしこ』…。90年代から00年代にかけ、一斉を風靡したフジテレビの「月9」枠。一時期は“テレビドラマの顔”で、そこに出演することが俳優のステータスになっていたが、徐々に経年劣化。10年代中頃には「月9はつまらない」「月9だから観ない」という視聴者からの厳しい声にさらされたことも。だが昨今、そうした“月9叩き”はほぼ消失。現在放送中の『ミステリと言う勿れ』も好調だ。この背景には、テレビ黄金期を牽引してきた同局の矜持と世界への挑戦心が隠されていた。

月9受難の時代は過去へ 勝因は“ブランドを自ら捨てたこと”

  • 2018年『海月姫』(フジテレビジョン)

    2018年『海月姫』

  • 2018年『コンフィデンスマンJP』(フジテレビジョン)

    2018年『コンフィデンスマンJP』

  • 2019年『ラジエーションハウス』(フジテレビジョン)

    2019年『ラジエーションハウス』

 視聴率低迷時代…10年代中頃は、見てもいないのに「月9だから」という理由で叩かれていた理不尽な時代だった。だが、ある作品をきっかけに変化が見られ始める。18年に放送された芳根京子主演の『海月姫』だ。同作は視聴率だけを見ると振るわぬ結果だったが、特にF1層からは多大な支持を受けており、満足度も高かった。一話完結ドラマが多い中、連続ドラマというスタイルへの挑戦。当時少なかったピュアなラブストーリーというジャンルなど、“売れ筋”ではなかったが、結果的に若い女性のハートを掴んだのである。

 その後、現在劇場版でも盛り上がっている『コンフィデンスマンJP』、沢村一樹主演の『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』、織田裕二主演の『SUITS』、窪田正孝主演『ラジエーションハウス』、上野樹里主演『監察医 朝顔』など次々と話題作を輩出。いまや「月9」というブランドの“かせ”は、なくなったも同然の状態に変化している。

 逆に、現在放送中の『ミステリと言う勿れ』を「月9」ブランドとして観ている人は少ないのではないだろうか。筆者も「そう言えば、これ月9ドラマだった」と感じてしまった一人だ。この件を同作のプロデューサーである草ヶ谷大輔氏にぶつけると、「確かにそうかもしれません。私たちも“月9”ということはそれほど意識していない」との返答だった。

「以前は、その日その時間にテレビで何を観るかっていうと、その時の気分によって変わっていたはずなんです。例えば、今日は日テレさんで好きなタレントが出るから、とりあえず4chをみようとか。そうやって気分でチャンネルを回していく。さらには食事をしながら、家事をしながらなど、何かをしながら観る。それが今の時代、変わってきた」(草ヶ谷氏/以下同)

コロナ禍で増えた“先撮り”が連ドラに定着か 映画的制作方法は「メリットしかない」

現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

「テレビマンとしては、やはりテレビでリアルタイムで毎週待ち遠しく観てもらいたい」と草ヶ谷氏は前提を置く。「ですが現実問題として、昨今の視聴者の皆さんは一過性の見方をされていない。オンエアに追われず、録画や見逃し配信で観られる方も多い。また、NetflixなどのVODの発達によって、必ずしもドラマはTVモニターの前で観るものではなくなった。そんな多様な楽しまれ方の中、『ミステリと言う勿れ』の制作法は、非常に今の時代に合ったものだったかもしれないと感じました」

 22年1月に放送開始した同作は、19年にクランクイン。連続ドラマの場合、放送と並行して撮影されることが多かったが、このコロナ禍でそのスタイルは大きく変わり、放送スタート前に撮り終わっている作品が増えた。それゆえ、視聴者の反応を見てのテコ入れや、修正はまったくできないが「私は正直、そこにデメリットは何もないと思っている。なんなら、この先のドラマも全て先撮りした方がいいと思ってしまいました」とのこと。
  • 現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

    現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

  • 現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

    現在放送中の『ミステリと言う勿れ』第7話より

「まず、脚本が最後まで見えているということが非常に良い。8話に物語がこう展開するなら、3話にこういう台詞を言わせたいとか、7話にこういう心情が出るなら、伏線としてこういう心情を積んでおこう、みたいなことが出来るんです。通常の連ドラとはまた違う伏線の張り方、いわばドラマの深みを、『ミステリと言う勿れ』という素晴らしい原作の作品では出せたという経験が、私にとってはとても大きかった」

 宣伝展開にもメリットがある。同作はミスタードーナツとのコラボで『ミステリと言うなカレーパイ』を展開。サンリオともシナモロールとコラボを行っている。これは普通の連ドラのスケジュール感では間に合わなかったであろうし、クオリティも落ちていただろう。

「もちろん作品によっては、視聴者の方々の反応を見ながら修正して進めるドラマもあります。でも、お客様の反応を見ながら作り変えていくというのはある意味、最初に思い描いたものからは変わっている可能性があるんです。特に、『ミステリと言う勿れ』は菅田将暉さんらの名演、また原作の田村由美先生の哲学が詰まった作品ですので、“ブレない”という点がプラスに働いていると感じています」

垂れ流し、一方通行ではなくなったテレビドラマ 求められる世界に負けない作品の強度

 もちろん、そういった映画的な制作方法では修正ができないために、イチかバチかではある。草ヶ谷氏はそのリスクも承知の上で、「今の時代の視聴者の見方で考えると、先撮りの方が合っている、正しいのかなとも感じるんです」と理由を語った。

「先述したように、フジテレビの月9ドラマとして、リアルタイムで観ていただきたいという想いは変わりません。ですが、今はVODの発達でハリウッド映画も韓流ドラマも横並びに。これまでは、他局のドラマを意識して作ればよかった。ですが、今は世界が相手に。テレビ局が一方的に流すのみだったドラマコンテンツですが、見逃し配信にしろ、VODにしろ、お客さんは自分で“面白い”と感じるものを採りに行く時代になっています。
  • 主人公のセリフ「そこに愛はあるのかい?」は流行語にもなった『ひとつ屋根の下』(1993年)

    主人公のセリフ「そこに愛はあるのかい?」は流行語にもなった『ひとつ屋根の下』(1993年)

  • 最終回の瞬間最高視聴率は43.8%を記録した『ロングバケーション』(1996年)

    最終回の瞬間最高視聴率は43.8%を記録した『ロングバケーション』(1996年)

 そのためにも、しっかりしたエンタメ作品を我々は作らなければならない。世界中の素晴らしいコンテンツの中から我々の作品を選んでもらえるような、お客さんがグッと入り込んでいける作品を作っていかないといけない。流すだけではない、選ばれないといけない時代なんです」。

 さらに言えば、見逃し配信には局も時間帯も関係ない。そうした意味でも「フジテレビ」「月9」といったブランドより「とにかく面白い作品」が最重要となる。

「だから、作ってる側の我々の信念は昔より曲げちゃいけないし、ブレちゃいけない。先撮りすると作り込む時間もあるし、編集にも時間を費やせる。作品の強度が増すんです。『ミステリと言う勿れ』では、“常識に流されず疑問を持とう。自分の意見や考え方をしっかり持って、きちんと相手に伝えよう。そういう社会になっていくと世の中はよりよくなるのではないか”という原作の強いメッセージをブレずに伝えていきたい」

 同作主演の菅田将暉も、先月のインタビューで「最近、韓国の映画やエンタメが話題ですけど、(日本との)その差は何だというところを、ちゃんと僕らは悔しがらなきゃいけないんだと思います。指をくわえて見ているだけではダメですね」と語っていた。そうした役者や制作陣の熱意や覚悟がこれまで以上に強くなければ、もはや世界に届く作品は生まれない時代なのかもしれない。VOD、見逃し配信の登場で大きく変わったエンタメ界。今後、世界に負けない高い強度のエンタメ作品が日本から発信される未来を期待する。


(文/衣輪晋一)

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