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フジが“月9ブランド”を捨てた理由 ハリウッド・韓ドラに挑むテレビマンの矜持と覚悟
月9受難の時代は過去へ 勝因は“ブランドを自ら捨てたこと”
その後、現在劇場版でも盛り上がっている『コンフィデンスマンJP』、沢村一樹主演の『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』、織田裕二主演の『SUITS』、窪田正孝主演『ラジエーションハウス』、上野樹里主演『監察医 朝顔』など次々と話題作を輩出。いまや「月9」というブランドの“かせ”は、なくなったも同然の状態に変化している。
逆に、現在放送中の『ミステリと言う勿れ』を「月9」ブランドとして観ている人は少ないのではないだろうか。筆者も「そう言えば、これ月9ドラマだった」と感じてしまった一人だ。この件を同作のプロデューサーである草ヶ谷大輔氏にぶつけると、「確かにそうかもしれません。私たちも“月9”ということはそれほど意識していない」との返答だった。
「以前は、その日その時間にテレビで何を観るかっていうと、その時の気分によって変わっていたはずなんです。例えば、今日は日テレさんで好きなタレントが出るから、とりあえず4chをみようとか。そうやって気分でチャンネルを回していく。さらには食事をしながら、家事をしながらなど、何かをしながら観る。それが今の時代、変わってきた」(草ヶ谷氏/以下同)
コロナ禍で増えた“先撮り”が連ドラに定着か 映画的制作方法は「メリットしかない」
22年1月に放送開始した同作は、19年にクランクイン。連続ドラマの場合、放送と並行して撮影されることが多かったが、このコロナ禍でそのスタイルは大きく変わり、放送スタート前に撮り終わっている作品が増えた。それゆえ、視聴者の反応を見てのテコ入れや、修正はまったくできないが「私は正直、そこにデメリットは何もないと思っている。なんなら、この先のドラマも全て先撮りした方がいいと思ってしまいました」とのこと。
宣伝展開にもメリットがある。同作はミスタードーナツとのコラボで『ミステリと言うなカレーパイ』を展開。サンリオともシナモロールとコラボを行っている。これは普通の連ドラのスケジュール感では間に合わなかったであろうし、クオリティも落ちていただろう。
「もちろん作品によっては、視聴者の方々の反応を見ながら修正して進めるドラマもあります。でも、お客様の反応を見ながら作り変えていくというのはある意味、最初に思い描いたものからは変わっている可能性があるんです。特に、『ミステリと言う勿れ』は菅田将暉さんらの名演、また原作の田村由美先生の哲学が詰まった作品ですので、“ブレない”という点がプラスに働いていると感じています」
垂れ流し、一方通行ではなくなったテレビドラマ 求められる世界に負けない作品の強度
「先述したように、フジテレビの月9ドラマとして、リアルタイムで観ていただきたいという想いは変わりません。ですが、今はVODの発達でハリウッド映画も韓流ドラマも横並びに。これまでは、他局のドラマを意識して作ればよかった。ですが、今は世界が相手に。テレビ局が一方的に流すのみだったドラマコンテンツですが、見逃し配信にしろ、VODにしろ、お客さんは自分で“面白い”と感じるものを採りに行く時代になっています。
さらに言えば、見逃し配信には局も時間帯も関係ない。そうした意味でも「フジテレビ」「月9」といったブランドより「とにかく面白い作品」が最重要となる。
「だから、作ってる側の我々の信念は昔より曲げちゃいけないし、ブレちゃいけない。先撮りすると作り込む時間もあるし、編集にも時間を費やせる。作品の強度が増すんです。『ミステリと言う勿れ』では、“常識に流されず疑問を持とう。自分の意見や考え方をしっかり持って、きちんと相手に伝えよう。そういう社会になっていくと世の中はよりよくなるのではないか”という原作の強いメッセージをブレずに伝えていきたい」
同作主演の菅田将暉も、先月のインタビューで「最近、韓国の映画やエンタメが話題ですけど、(日本との)その差は何だというところを、ちゃんと僕らは悔しがらなきゃいけないんだと思います。指をくわえて見ているだけではダメですね」と語っていた。そうした役者や制作陣の熱意や覚悟がこれまで以上に強くなければ、もはや世界に届く作品は生まれない時代なのかもしれない。VOD、見逃し配信の登場で大きく変わったエンタメ界。今後、世界に負けない高い強度のエンタメ作品が日本から発信される未来を期待する。
(文/衣輪晋一)