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韓ドラ人気を専門家が分析 『冬ソナ』から継承される“不屈の精神”と“けれん味演出”の妙、転機となった『シグナル』の功績

  • 『韓ドラ語辞典』(誠文堂新光社)

    『韓ドラ語辞典』(誠文堂新光社)

 第4次韓流ブームを生み出した昨年の『愛の不時着』や『梨泰院クラス』に続き、今年も『イカゲーム』や『地獄が呼んでいる』が世界的にヒットし、韓国ドラマの勢いが止まらない。かつての韓流は一定層のブームだったが、いまや若い世代も巻き込みブームを超え、ひとつのジャンルとして定着している。なぜ韓国ドラマが日本人の心をとらえたのか? 『韓ドラ語辞典』(誠文堂新光社)の著者で韓国ドラマを18年間視聴してきた高山和佳氏に、『冬のソナタ』の第1次韓流ブームから振り返り、現在の人気について聞いた。

日本でもリメイクされた『シグナル』が転機に、韓国ドラマの主流から外れた“ジャンルもの”の台頭

――『韓ドラ語辞典』は、一見ドラマに関係なさそうな用語も広く網羅しています。

高山和佳さん 600語を執筆するのは大変でした。韓ドラファンの夫と一緒にアイデアを出し合いながら制作したので、男性にも楽しんでもらえると思います。胸キュンから政治、歴史まで幅広く取り上げています。また、すべて短文で完結していて、独自のあるある用語とその解説も入れています。「これあるよね」だけではない、なぜそういうシーンがあるのかという背景からの考察も楽しんでほしいです。

――第1次では『冬のソナタ』や『宮廷女官チャングムの誓い』、第2次では『美男〈イケメン〉ですね』や『トンイ』、第4次では『愛の不時着』や『梨泰院クラス』と、第3次(チーズタッカルビや韓国コスメ)以外は、ドラマがブームの大きな波となっています。『冬ソナ』以降のブームとなった韓国ドラマの作風の変化をどう見ていますか?

高山和佳さん 第1次では“純愛”ものが多く、第2次からはラブコメがすごく増えました。それまではロマンチックコメディなどと呼ばれていましたが、ラブコメディと呼ばれるようになってからより少女漫画的になったというか。主人公が同じ俺様キャラでも、男っぽいイメージからキラキラした王子様イメージに変わった気がします。そして第3次からは、それまでの韓国ドラマにはなかった、サスペンスなどの“ジャンルもの(日常の話や男女の恋愛、家族、成長ストーリーではない、韓国ドラマの主流から外れた作品)”が台頭しました。きっかけは、日本でもリメイクされた『シグナル』で、それが転機となり“ジャンルもの”の時代が来ました。

――韓国ではケーブル局から人気ドラマが生まれ、地上波でも“ジャンルもの”の傑作を作っていく時代になります。

高山和佳さん 第4次では、Netflixの台頭で映画監督がドラマに参加することが多くなりました。映画俳優がドラマにたびたび出演したり、舞台俳優がいきなりドラマの重要な登場人物に抜擢されることも増えています。また、いまもサスペンスや法廷劇、時代劇などに純愛がプラスされることはありますが、第1次の頃のように純愛だけを扱うドラマは、ほぼなくなりました。

良いと思ったら同じテーマを何度も使用、どの作品にも共通する“不屈の精神”

――ブームごとに作風も変わりますが、共通している部分もありますか?

高山和佳さん 韓国ドラマの良作は、主人公やヒロインが絶対に揺るがない信念や純粋性、一途さといったものを強く持っています。人気作のそういう設定は、第1次からずっと変わりません。それを個人的に“韓国ドラマ的メンタリティ”と呼んでいますが、初恋を忘れずその思いを持ち続けているとか、どんなことがあってもやり遂げようとする復讐心とか、権力や大きな勢力に対しての反骨精神、そういう不屈の精神を持つのが特徴です。

――韓国の文化がにじむところでしょうか。

高山和佳さん 『韓ドラ語辞典』のなかで「マウム」という韓国語を紹介しています。“心”や“気持ち”という意味なのですが、韓国ドラマではとても大切にされていて、「心だけは渡さない」「心に値段はつけられない」などと、日本語の“心”や“気持ち”よりも奥深いところにある強い思いを表現している気がします。その感覚が韓国ドラマの人気作にはあり、そこに感激や感動、共感できるかどうかが、韓国ドラマを好きになれるかどうかの試金石になると思います。

――韓国ドラマ特有の“けれん味”ある演出は、日本とは異なる韓国文化が影響しているのでしょうか?

高山和佳さん 私は現地に住んだことはないので実際のところはわかりませんが、韓国ドラマの激しい感情表現や独特の展開は、観どころではありますよね。例えば、韓国ドラマの特徴的な三大悲劇といえば「病」「交通事故」「貧困」。白血病になったり、家族が入院して入院費が払えないといったエピソードはさまざまなドラマで使われています。また最近は「トラウマ」も人気で、主人公やヒロインには必ずといっていいほどトラウマがあります。とにかく同じネタやテーマを何度も使うことに躊躇がない。韓国の人は、これが良い、おもしろいと思ったら、その気持ちに素直だと思います。その姿勢が、良い作品を作ることにつながっているのかもしれません。

――昨年の『愛の不時着』や『梨泰院クラス』は、これまでの韓流ファン層とは異なる若い世代まで取り込み、男女問わず広く浸透しました。なぜこれほどまでに人気を得たのでしょうか?

高山和佳さん 『愛の不時着』は、“ザ・韓国ドラマ”といった内容なので、私は韓ドラファンしか好きにならないと思っていました。ところが、動画配信サービスを観る環境が整い、コロナ禍ということが重なり、それまで韓国ドラマに触れてこなかった人も観るようになった。以前に比べてクオリティが圧倒的に上がったということもありますが、もともと韓国ドラマはおもしろいのに、あまり気づかれていなかったということが、要因ではないでしょうか。

――確かに若い世代は、K-POPやコスメなどで韓国コンテンツに普段からなじんでいて、おもしろいと聞けば先入観なく観るかもしれません。

高山和佳さん 第3次では、エンタテインメント以外のコスメやファッション、カフェ、K文学などが注目され、韓国がカッコいいというイメージあります。その第3次から韓国ドラマが、とてもおしゃれになりました。ドラマを通して最先端のファッションやメイクの流行を見ているだけで楽しい。最近人気が顕著なWEBドラマでは、特に若者文化がたくさん登場しています。第3次〜第4次では、いくつかあるKカルチャーのカテゴリのひとつとして飛びつきやすかったのではないでしょうか。

エンタメ民度が高い韓国、社会派ドラマもエンタメに上手く昇華

――「たいしたことないと思っていた主人公が、ドラマを観ていくうちにイケメンや美女に見えてくる」現象があり、韓ドラ沼にハマっている証拠とも言われます。なぜそうした現象が、韓国ドラマに限って多く起こるのでしょうか?

高山和佳さん それを『韓ドラ語辞典』では“韓ドラマジック”と名づけましたが、不思議な現象ですよね(笑)。前述のような主人公やヒロインのまっすぐな思いがあるので、だんだんカッコよく見えたり、美しく見えたりしていくのでしょうか。ストーリーに感情移入させるのが上手いとも言えますよね。

――最近の韓ドラ“あるある”を教えてください。

高山和佳さん 最近だけではないですが、例えば交通事故。車を運転しているときに、交差点に差し掛かったら要注意です。ダンプカーに突っ込まれます。ラブストーリーでは、初対面が最悪というパターンが多い。あと、イケメンの上半身露出シーンも多いですね。シャワー前のロッカールームで服がはだけたり、時代劇ではお風呂のシーンと、いらないシーンなんですけどね(笑)。韓国ドラマでしかありえないイケメン仕草のひとつでは、“日差し遮り”。これは、『韓ドラ語辞典』で勝手に命名したあるある用語のひとつですが、うたた寝しているときに日差しが当たると、イケメンが手や本で日差しを遮ってあげるんです。寝ていたら気づかれないので、ただただ相手への想いが強いからしてしまう行為なんだと思います(笑)。

――韓国では大衆性のある良質な作品が多く制作されています。その要因は?

高山和佳さん とにかく数多くのドラマが制作されていますが、韓国では有名な俳優が出演していなくとも、脚本がおもしろければヒットするといわれています。視聴者の観る目が厳しく、エンタメ民度が高いのだと思います。それと社会派エンタメが上手い。日本では、重厚な社会派作品かエンタテインメント作品かにわかれる傾向があります。一方で韓国は、シビアな題材にもエンタテインメント要素を入れて、楽しめる作品に仕立てるのが得意です。おもしろいものを作ろうという意識がとても強くあり、躊躇がない。それが韓国の強みではないでしょうか。

――ちなみに、高山さんが今年ハマったドラマは?

高山和佳さん 『ペントハウス』ですね。久しぶりにマクチャンドラマ(※)にハマりました。「なんなのそれっ!」て突っ込みながら観ていました(笑)。マクチャンドラマのなかではクオリティが高く、韓国ドラマならではのおもしろさがあります。ほかにも『D.P. −脱走兵追跡官−』『海街チャチャチャ』『地獄が呼んでいる』『模範タクシー』がとてもよかったです。

※不倫、復讐、殺人、近親相姦など日常とはかけ離れた出来事が次々と起こる壮絶な愛憎ドラマ。観始めたら止まらなくなる韓国ドラマの人気ジャンル(『韓ドラ語辞典』より)

(文/武井保之)

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