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“動きのない”ガンプラに「物語」を付随するウェザリングの魅力 「『戦場』『風景』『物語』『作り手の思い』など全てが凝縮」
“平和の象徴”になったガンダムで伝えたい想い
「ただ作っているだけじゃ物足りないと思い、全塗装をはじめ、さまざまなカスタムの技法について調べたり、YouTubeを観たりしたんです。そのなかで、ウェザリングを施したジオラマが1番『やってみたい』『知りたい』と思えたんですよね」
そんな同氏は、他モデラーの作るウェザリング作品を見て、魅せられていった。
「一つの台座のなかに「戦場」「風景」「物語」「作り手の思い」など全てが凝縮されて、一つの作品になっている。感動しました」
『ウイングガンダム〜』は、古風な建物が今も残る場所を訪れた際にイメージが湧いた。長い歴史のなかで昔の文化が、現代にも受け継がれ、残っている。そんな美しさ、尊さを見た経験が今作の発想の原点になったという。
「お互いの目的を達するため、戦争をやめない国々が戦いを続けるなか、本当の平和を取り戻すべく、ある一機のガンダムが立ち上がりました。そのガンダムは、どこの国にも味方せず、ただただ戦争を止めるために現れ、圧倒的な力で戦場を制圧。次々と戦争を止めていきます。人々はその一機のモビルスーツを『白き希望の翼』と呼びました。やがて戦争は終わりを迎え、平和が訪れました。戦争を止め続けたこの『白き希望の翼』は、戦争が終わったことにより役割を終え、永い眠りについた…というような物語をイメージしました」
ガンダム史には描かれていない“その後”をイメージして、具現化していくのもガンプラモデラーの楽しみ方の1つ。本作も、まさにそれを地でいく作品だ。
「そうですね。永い眠りについてから50年、今も平和な争いのない世界が続いています。戦争を止めるべくとはいっても、戦いの道具となっていたウイングガンダムゼロEWがそこにあることで、戦争の悲惨さや、激しい戦いの痕跡を残し、時代が変わって、平和に慣れた時代になっても、争いの恐ろしさを忘れさせない。だから今もそこにい続けています」
そして作品には、現代の日本にも伝えたいメッセージが込められていた。
「戦争については、さまざまな考え方があり、正直答えが分からないです。今戦争がないこの国はすごく平和だと思います。でも、だからこそ70年以上前の戦争の爪痕はもちろん、その経験からの伝承などは大切にしていかなければならないと思います。これからも争いのない平和な日常が続けばと思います」
単なる戦闘ではない、名もなき兵士たちの最期の意地
「プロモデラーの越智信善さんのドムトローペンの作品に出会ったことですね。観た瞬間、『すげっ!』と衝撃を受け、そこから自分でもウェザリングのガンプラ作品を作るようになりました」
「ウェザリングの魅力は、自分流でいろいろ表現できることですね」と話す同氏の近作『ジム撃破』が、SNSで大きな注目を集めた。その制作のきっかけは意外なものだった。
「ガンプラでジオラマを本格的に制作するようになり、少しマンネリを感じていました。イメージを広げるために、さまざまな爆破シーンを観ていたのですが、その際『西部警察』に巡り合って。爆破シーンを観たときに『これだ!』と思ったことが、発想の原点ですね」
西部警察をモチーフにしながら、爆破(撃破)されたのはジム。同氏の「ジオン派なので(笑)」という個人的な思いが大きな影響を及ぼした。ジオン軍の視点で描かれた物語の背景には、『機動戦士ガンダム』で描かれた「一年戦争」のなかでも大きなポイントとなった地球上での戦いに関係があるという。
「本作は、『オデッサ作戦』の後、ジムがやられているところの物語をイメージしました。この戦いで確かに、ジオン軍はやられました。でも一部地上に取り残されたジオンの残党兵が、最後に一矢報いたい、連邦軍に一泡吹かせたい、とジムを襲撃。その瞬間の様子なんです」
敗北を知ってなお、連邦軍に抵抗する名もなき兵士たちの最期の意地と覚悟、ジオンへの忠誠心が、本作の裏にある物語。その深みのある物語は、見る人にも伝わり、制作発表後、大きな反響があった。
「びっくりするくらいの反響がありました。『本当に燃えている?』『哀愁を感じる』『見入ってしまった』などたくさんの感想をいただきました」
このリアリティや哀愁こそ、同氏がこだわっている点だという。
「本作に限らずなのですが、ガンプラを制作するうえで、気を付けているのは“リアル感”です。特にウェザリング仕上げは、いかに実際の兵器として成り立つか、汚れ、錆などを常に気をつけて制作しています」