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一段一段と壁を破っていく瞬間をこれからも…BTSに確実に存在した“境界を突破する力”

  • ツイッターでは「#BTSOurGreatestPrize」をはじめ、BTS関連ワードが続々トレンド入り

    ツイッターでは「#BTSOurGreatestPrize」をはじめ、BTS関連ワードが続々トレンド入り

 第63回グラミー賞での受賞なるか、注目が集まっていたBTSの「Dynamite」。今回惜しくも受賞を逃したが、「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」ノミネートは、BTSにとってはもちろん、アジア全体のエンターテインメントにとって大きな意味を持つものとなったのではないか。SNSでは「#BTSOurGreatestPrize」というタグが世界トレンド1位となり、ファンであるARMYたちからは感謝やエールを送るコメントがあふれていた。これまで音楽によって様々な方向から世界を明るく照らしてくれたBTS。そんな彼らの中心にあるのは、“境界を突破する力”ではないか。

ノミネートは“アジア発のアーティストが欧米のシーンの壁を突破”した瞬間だった

 まずは「Dynamite」について改めて紹介しておきたい。2020年8月に配信リリースされたこの曲は、UK出身のクリエイターであるジェシカ・アゴンバーとデヴィッド・スチュワートの作詞・作曲のよる楽曲。BTSのメンバーからも積極的に意見を出しながら制作されたという。ベースにあるのは、80‘sのポップミュージック。ファンク、ソウル、ディスコの要素を組み合わせた軽快なトラック、ポップに振り切ったメロディ、<Shining through the city with a little funk and soul/So I’ma light it up like dynamite, woah(ファンクとソウルでこの街を照らす/だから輝かせるよダイナマイトのように)>という歌詞が一つになったこの曲は、完全に欧米のマーケットを狙ったものだ。

 その成果のほどは、アメリカのビルボードシングルチャート「HOT100」で1位を獲得したことからも明らか。グラミー賞の「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」には「Dynamite」のほか、レディー・ガガ、アリアナ・グランデの「Rain On Me」、J. バルヴィン、デュア・リパ、バッド・バニー、タイニーの「Un Dia(One Day)」、ジャスティン・ビーバー feat. クエヴォの「Intentions」、テイラー・スウィフト feat. ボン・イヴェールの「exile」がノミネートされていたが、これらの楽曲ーーヒットの度合い、音楽的な質の高さを含めてーー並び称されること自体が大きな快挙。BTS初の英語詞の楽曲「Dynamite」はキャリア最大のヒット曲というだけではなく、“アジア発のアーティストが欧米のシーンの壁を突破”した記念碑的な楽曲と言っていいだろう。

“自分たちの音楽で若者たちを守りたい” 韓国の強烈な格差社会が背景に

 グローバルポップの潮流を確実に捉えながら、世界に冠たるファンダムとともに躍進を続けるBTS。彼らの“突破する力”は、じつはデビュー当初から確実に存在していた。

 BTSが結成当初、防弾少年団という名前で活動していたのは良く知られているが、このグループ名には、「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味が込められていた。韓国はご存知の通り、強烈な学歴社会。大学修学能力試験の結果次第で人生が大きく左右されるというプレッシャーは、当事者の若者たちにきわめて強いストレスとプレッシャーを与えている。防弾少年団はその背景を踏まえ、“自分たちの音楽で若者たちを守りたい”というテーマを掲げていたのだ。

 筆者は2014年の日本デビューのタイミングでメンバーに直接インタビューをする機会を得たのだが、“抑圧された10代を守り、解放してあげたい。勇気を与えたい”という彼らの思いは“本物”だった。その根底にあるのは、彼ら自身の生い立ちや体験。つまりメンバー自身も、“エンターテインメントの世界で成功することで、抑圧された社会を突破したい”という切実なモチベーションを抱いていたのだ。1stアルバム『WAKE UP』に関する取材でリーダーのRMは「誰かに『これを歌いなさい』と言われたわけではなくて、僕たちの価値観、僕たちの魂が入った曲を歌っている」と語っていた。その通り、防弾少年団のコンセプトは与えられたものではなく、メンバー自身に“根差していた”のだと思う。

 BTSが所属する事務所ビッグ・ヒット・エンターテインメントが、(韓国の芸能界の主流であるSMエンターテインメントやYGエンターテインメントに比べて)小さかったことも、彼らのタフネスにつながっている。デビュー前に徹底したレッスンを行くことで知られる韓国のエンターテインメントシーンだが、BTSはそれだけではなく、実力だけで認められる必要があったのだ。

自らのルーツを常に提示しながら“世界的なポップスター”として突き進むBTS

 彼らは当初から、アジアだけではなく、欧米のシーンを視野に入れていた。そのために選んだのが、世界標準のヒップホップを目指すこと。当時からLAのスタジオで制作を行い、メンバーのSUGAは「トップレベルの現場で制作したことで、多くのことを学べた」という趣旨のコメントをしていた。同グループの音楽的な支柱となっていたのは、RMとSUGA。小学生のときにEPIK HIGHに衝撃を受けてラッパーを志したRMは、10代の頃から韓国のアンダーグランド・シーンで活躍。BTSはRMをデビューさせるために結成されたというのは有名な話だが、彼の音楽性の高さ、リーダーとしての資質はまちがいなくBTSの資質だ。一方のSUGAは率直なリリックで知られる。彼のソロ曲「The Last」には「僕の創作の源は、この世界の酸いも甘いも味わってきたこと。トイレの床で眠りに誘われたあの頃も、今となっては思い出。」という歌詞があるが、これは下積み時代を描いたもの。リアルな感情を刻み込んだ歌詞は、BTSの音楽的な力強さにつながっていると思う。

 2016年にBTSと名乗り始めた時期からは、ヒップホップだけではなく、EDM、ネオソウル、オルタナR&Bなどを貪欲に取り入れ、アイドル的な佇まいを強めたわけだが、そこにあるのはやはり、“世界的な成功を果たし、アジア発のアーティストの限界を突破したい”という強い願いだったはず。現在に至るまで韓国語の楽曲を出し続けているのは、自らのルーツを常に提示したうえで、ワールドワイドな存在になりたいという意思の表われだろう。

 最後に、改めて「Dynamite」のMVについて触れておきたい。ポップに振り切った映像のなかには、マイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイ、ワム!などのポスターやレコードが置かれているが、おそらくはここにも明確な意図がある。デヴィッド・ボウイとワム!はブラックミュージックの要素を取り入れた白人のアーティストであり、マイケル・ジャクソンは白人の音楽を取り入れながら、世界的なポップスターになった。共通しているのはやはり、既存の概念を突破し、人種やジェンダーを超えた支持を得たこと。それはまさに、BTSが目指す場所でもあるのだと思う。

文:森朋之

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