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“子どもに読ませたくない”絵本が異例のヒット 大人の心を癒やす人生の指南書
生きるのが楽になる一問一答を列挙していった絵本
ヨシタケシンスケ 子どもからしたら、たぶん全体の3分の1くらいはきょとんとしてしまうかもしれないですね。なので、途中に「いみのわからないページが あったら/バンバンとばして わかるとこだけ よめばいい」というお詫びというか、言い訳のようなページも入れています(笑)。
──タイトルにもなっている「あつかったら/ぬげばいい」、このページに込めた思いは?
ヨシタケシンスケ 僕には子どもが2人いるんですが、夏や秋の微妙な気温の時、寒くなると困るから親としては子どもに1枚多く着せて外出させたい。でも、子どもはなるべく身軽でいたいから嫌がる。その時に「まあまあ、暑かったら脱げばいいんだから」と言うと、しぶしぶ納得してくれたりして。
──子どもも納得できる明快な理屈ですね。
ヨシタケシンスケ 妙な説得力があるし、誰も異論がない理屈。これって別の問題にもすり替えることができるんじゃないか? と考えたんですよね。僕自身、とても不安になりやすい性格なんですが、いろんな物事に対して「暑かったら脱げばいい」くらいシンプルに世の中を捉えることができたら、もっと生きるのが楽になるんじゃないかと、そんな一問一答を列挙していったのがこの本なんです。
──「へやが ちらかってたら/とりあえず むきだけそろえればいい」といった、脱力な一問一答に救われたという人も多いようです。
ヨシタケシンスケ これはまさに僕の部屋のことで(笑)。僕は面倒くさがりのくせに、怒られるのを人一倍恐れていて。どうにかこの状態のまま許してもらえないだろうかと、一生懸命ひねり出した詭弁もけっこう入っています。それが僕と同じような性質の人たちに響いたのかな。一緒に傷を舐め合える人たち(=多くの読者)がいたことがうれしいですね(笑)。
「教育上これは…」見せるか躊躇するページは親に委ねる
ヨシタケシンスケ 「ひとのふこうを ねがっちゃったら/なみうちぎわに かけばいい」のページの絵はギリギリまで迷いましたが、やっぱり大切なことだと判断して入れました。
──サラリーマン風の若い男性が、浜辺に「しね」と書いている絵ですね。
ヨシタケシンスケ はい。絵本作家が「“しね”なんてけしからん!」と言う人もいるかもしれません。ただ、このページで何を言いたかったかというと、頭の中で思うのは自由なんですよ。どんなにひどい言葉でも、残虐なことでも。だけどそれを口に出したり、人が見るところに書き込んだりするのはいけない。
──言葉は時にナイフにもなる。SNSの誹謗中傷やネット炎上にも通じますね。
ヨシタケシンスケ ただ、なかには「こんなことを考えてしまう自分は最悪だ」と自分を責めてしまう人もいると思うんですよね。僕自身、幼少期からずっと「どうも自分は正しくないことばかり考えてしまう人間のようだ」という根拠のない不安があって──。
──自己嫌悪に陥ってしまうことも?
ヨシタケシンスケ 子育てで眠れない毎日が続いて「子どもを作って本当に良かったんだろうか?」という考えがよぎった瞬間、「自分はなんてことを!」と落ち込んだこともありました。そんな自分を許したい一心で行き着いたのが、「まあまあ、思うだけなら自由だしな」という考え方だったんです。
──だけどそれを子どもに対して言うのはいけない、と。
ヨシタケシンスケ そう。それはSNSで誰かを名指しで攻撃するのも同じこと。言っていいことと悪いことを判断するのが、人間という群れで生活する生き物のルールなんじゃないかな、ということがこのページでやんわり伝わればいいなと思っています。