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『がんばるな、ニッポン。』CM話題、担当者が明かす意識の変化「半沢、転職すればいいのに」マインド

 「経営者のみなさまへ、通勤をがんばらせることは、必要ですか?」――日本中が先の見えない新型コロナウイルスの不安に包まれる中、そんな問いかけで始まるサイボウズのテレビCMが大きな話題を呼んでいる。「がんばるな、ニッポン。」という印象的なフレーズで締めくくられるこのCMには、「通勤でつらい思いをしている人に寄り添っている」という賞賛の声があがる一方で、「『がんばるな』というフレーズにはモヤモヤする」「ACのCMかと思った」など、賛否両論の意見が寄せられているのだ。「がんばるな、ニッポン。」の真意は? 同CMに込められた彼らの想いとは? 社内で企画を担当した、サイボウズ株式会社ビジネスマーケティング本部プロダクトブランディングチームの吉原さん、熱田さんおふたりに話を聞いた。

じわじわ醸成され始めた「がんばらなくてもいい」空気感

――ユニークで印象的なCMですが、どのような経緯で制作されたのでしょうか。
熱田さん 社会的な背景としては、「がんばらないブーム」みたいものが起きつつある実感が以前からありました。去年は台風や大雨などの災害が特に多かったと思うのですが、JRが初めて計画運休を行ったとき、利用者からの批判的な意見が意外に少なかったというニュースも印象的でした。「どんなときでも通勤するのがサラリーマンの美徳」というこれまでの価値観が、「大変なときは無理して行かない方がいいんじゃないか?」という方向に変わってきたなと実感しました。
吉原さん そこから「がんばるな、ニッポン。」という打ち出しが固まってきたのは、2019年半ばのことでした。延期になりましたが、2020年はオリンピックの年だったので、「がんばれ!ニッポン!」と対比的なフレーズを使ったら、私たちが伝えたかった「不必要なところまでがんばらなくてもいいはず」というメッセージをキャッチーに伝えられて、面白いんじゃないかと思っていたんです。

――「がんばらないブーム」が起きた背景には、何があったのでしょう?
熱田さん 2016年くらいから社会全体で「働き方改革」が始まって、「残業時間を減らそう」「生産性を上げよう」という動きが徐々に出てきましたが、最近になって、これまでの嫌なことに耐えながら働くやり方が、いよいよ通用しなくなってきたんだと思います。職場で何か理不尽なことがあると、若い人はすぐ転職しちゃうので。「楽しんで仕事をする」「自主性に任せる」。そういった働き方のスタイルが、流行ってきているんじゃないかと思います。
吉原さん そうした社会の変化は、最近だとドラマ『半沢直樹」(TBS系)シリーズの受け止められ方にも表れているなと感じます。2013年の第1シーズンのときは共感的な感想が多かったと思うんですけど、今シーズンは「時代劇だよね」という声もありますよね。
熱田さん 以前は、「嫌な上司に立ち向かって戦っている半沢、かっこいい!」という感じだったと思うのですが、今は「こんな会社、日本にある?」「そんなに嫌だったら転職すれば良いのに」という反応もあり、時代の変化を感じます。

――そうすると、今回のCMの方向性は、コロナとは関係なく決まっていたんですか?
吉原さん そうですね。結果的にはコロナの影響もあって、通勤にフォーカスした内容に決まりましたが、「がんばらないのも大事なことだよね」という当初のメッセージは変わっていません。
熱田さん 「がんばるな、ニッポン。」の広告は、3月に日経に出した新聞広告が最初で、大変多くの反響を頂きました。その後、5月に緊急事態宣言が解除され、必須ではない出社を再開する企業も増えてきた中で、もう1度テレワーク の呼びかけをする必要があると思い、今回のテレビCMが決まりました。感染者数も再び増えてきている中で、今、元の状態に戻ってはダメだと思ったんです。

テレワークできない人にとっては“不快”? 「がんばるな、ニッポン。」に込められた真意

――実際にテレビCMが放送されると、ネット上でも大きな話題となりました。中には批判的な感想もあり、賛否両論が巻き起こっている印象ですが、それらの意見に対して率直にどう受け止めていますか?
吉原さん 今回のCMに反論や批判的な意見が出ることは、ある程度想定していました。というのも、何か社会に変化が起きるときには、必ず賛成と反対の両方の意見が出て、議論が巻き起こるものだと思っていて。たとえば、今までの「がんばるのはあたりまえ」という価値観の社会だったら、今回のCMはもっと強く批判されていたと思いますし、逆に「がんばらなくてもいいよね」という価値観が浸透しきった後なら、反対意見もほとんど出ないですよね。社会の変化を読み取りつつ、その変化をリードしていくために積極的なメッセージを出す以上、ある程度のご意見をいただくことは当然と考えています。今はポジティブな意見が8割、ネガティブな意見が2割という感じですが、これは社会が前向きに変化していることを表す、良いバランスだと捉えています。
熱田さん 実際に、弊社にも批判的なご意見がいくつか寄せられました。「テレワークができない人からすると、御社のCMは不快に感じる」といった内容です。しかし私たちは、エッセンシャルワーカーをはじめとする出社が必要な方々のおかげで社会が成り立っていると思っています。だからこそ、テレワークできる人がテレワークを行い、満員電車などの社会の「密」を減らすことで、結果的に医療従事者や工場勤務の方など、現場へ出勤しなくてはならない方々が安心して働けるような社会にしたいと考えています。15秒間のCMでこの想いまでは伝えるのはなかなか難しいのですが、背景を説明するとわかってくださる方も多いです。

――企画段階で、社内での反対意見はなかったのでしょうか?
吉原さん 実は今回の企画は、社内でも多くの反対意見があがり、激論になりました。いろいろな立場の方がいる中で、「がんばるな」という非常に強いメッセージを打ち出してしまって、本当に良いのか?と。
熱田さん 普通の会社だと、CMはマーケ部門のみで制作され、他の社員は「気づいたら放送されていた」ということもあるかもしれません。しかしサイボウズでは、社員約800人全員が企画段階から内容を見て、活発に議論を交わしながら広告を作っています。「酷い」「不快だ」「人も亡くなっている病気に乗じて宣伝するなんて、あり得ない」といった厳しい意見も頂きながら、私たちがより良い社会を変えたいと真剣に考えていることが伝わりそうな今の形にブラッシュアップされていきました。

――それだけ社内でも反対意見が出た中で、どうやって実現まで持っていったのでしょうか?
吉原さん 仕組みとしては、最終的な意思決定は私たちマーケ部門に任されているというのがありました。いろんな意見を頂きつつも、それをふまえてどうするかは私たちに委ねられている組織の体制が最終的な決定の要因としては大きかったように思います。
熱田さん 最終的には、私たちの「やりたい」という想いで制作まで至りました。私たちには「がんばるな」がある程度の共感を得られるだろうという確信がありましたし、クレームが来た時にも説明できる自信もあった。社長の青野も私たちの考えに共感してくれて、企画を後押ししてくれました。私たちにとって最も避けるべき失敗は、誰の印象にも残らずに無視されてしまうこと。賛否両論が起きるのは、社会に対して良い問題提起ができているというスタンスです。様々な観点からの批判的なご意見は、社会問題を皆で考える機会が生まれる意味で、むしろ歓迎していくべきなのかもしれないな、とすら思っています。

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