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(更新: ORICON NEWS

戦争経験したやなせ氏が伝えたかった“アンパンチ”に込めた正義とは

  • 戦争で感じた「本当の正義」をアンパンマンに込めた作者・やなせたかしさん(C)ORICON NewS inc.

    戦争で感じた「本当の正義」をアンパンマンに込めた作者・やなせたかしさん(C)ORICON NewS inc.

 絵本シリーズ累計発行部数8000万部、アニメ放映31年、映画31作、関連グッズ売上1兆超と、長年愛されてきた国民的作品『アンパンマン』。11日、そのヒーロー・アンパンマンが繰り出す“アンパンチ”について、乳幼児が暴力的になる心配があるのでは…という親の声を取り上げたニュースが話題となった。それに対し、「アンパンチは暴力ではない」という声がSNS上に殺到、“アンパンチ”がTwitterトレンド入りまでした。果たして、生みの親・やなせたかしさんが“アンパンチ”に込めた正義とは?

“アンパンチ論争”勃発、やなせ氏も生前に反論

 “アンパンチ論争”がヒートアップすると、テレビ各局もこの件を報道。芸人・土田晃之は16日放送の『バイキング』(フジテレビ系)で、「僕らの世代なんて、晩ご飯の時間に“北斗の拳”っていうのやってましたからね。100発相手を殴って、殴られた人が爆発するのを見ながら」と、やや呆れ気味に教育の重要さを主張。2児の母であるタレント・福田萌も、自身のTwitterで2歳半の息子がアンパンチを止めずに困っていたが、根気よく注意したところ控えたことを打ち明け、「暴力に限らず、どんな力もそれを持ったときにどう使うのか、それを教えることも親ができること」と発言した。

 作者のやなせたかしさんも、生前「アンパンチが暴力的」という声を受け、「けんかもせず、摩擦をおそれ、何もしないで成長する子どもはいますか?自分が子どものころは、よくチャンバラごっこをやったけど、だからって私は殺人はしませんよ」とコメントしている。

69歳にして待望のヒット作、やなせ氏の「正義」最初に理解したのは子どもたち

 やなせさんは、1919年(大正8年)生まれ。同世代には手塚治虫さんや水木しげるさんといった“天才”がおり、彼らが世に名を知らしめていくのを横目になかなか日の目を見なかった。自身も、自分は才能がなく凡庸な人間で、「人が10日でできることが、俺は1年ぐらいかかる」と語っている。
 漫画家を夢見つつも、製薬会社、新聞社、三越のグラフィックデザイナー、サンリオの絵本作家などを経験し、ようやく漫画家デビューを果たしたのは34歳のとき。しかし、そこからも代表作には恵まれず、後輩の漫画家が次々と有名になっていった。それでも徹夜で漫画を描き続け、ふと懐中電灯を手に当てた時、びっくりするほどきれいに透ける赤色に見とれて、“これほど絶望していて心に元気がなくても、血は元気なんだなぁ”と自分自身に励まされたように感じたという。そのとき生まれた名曲が「手のひらを太陽に」である。

 その後、『アンパンマン』が誕生したのは50歳の年だが、これもすぐには認められなかった。今でこそ国民的な作品だが、当初は「顔を食べさせるなんて残酷」、「こんなみっともない主人公では売れない」など、編集部、批評家、幼稚園から酷評された。
 しかし、やなせさんは「正義とはかっこいいものじゃない」と譲らなかった。アンパンマンに込めた“本当の正義”とは、「お腹をすかせた人を救うこと」。彼は第二次世界大戦時、24歳で中国に出征。飢えに苦しみながらも日本の正義を信じて戦ったはずが、戦後「悪魔の軍隊」と呼ばれ、信じていた“正義”が一変した。自著『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)では、「正義のための戦いなんてどこにもないのだ 正義はある日 突然反転する 逆転しない正義は献身と愛だ 目の前で餓死しそうな人がいるとすれば その人に 一片のパンを与えること」と綴っている。

 その思いを形にした前代未聞のヒーロー・アンパンマンは、大人たちの予想に反して子どもたちからの絶大な人気を博し、半世紀以上に渡って愛される大ヒット作品となる。やなせさんは、亡くなる前年に受けたNHKのインタビューで、次のように語っている。「(大人は)幼児の作品は、幼児用にグレードをうんと落とそうと考える。文章も非常に短くする。僕もそれを要求されたんですけどね、違うんですよ。全く違うんですよ。非常に不思議なことにね、幼児というのは、お話の本当の部分がね、なぜか分かってしまうの」
 彼の“正義”をいち早く理解したのは、紛れもなく子どもたちであった。

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