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なぜこの瞬間?『もうじき溶けきるバブ』を粘土アートで、”日常の脇役”を題材にする理由

 『もうじき溶けきるバブ』『乾いた冷えピタ』『こたつの上で堂々とたたずむ中身のないみかん』など、日常の何気ない瞬間を切り取った粘土アートを制作し、Twitterで発信しているしばたたかひろ(@iine_piroshiki)さん。その着眼点のシュールさと細部まで表現されたリアルさが人気で、作品集『毎日こむぎねんど』も出版されている。作者、しばたたかひろさんにユニークな作品に込められた思いを聞いた。

日常生活の脇役を主役にしてあげたい、“メッセージ性がない”作品のメッセージ性

――こむぎねんどを始めたきっかけは何ですか。
しばたたかひろさん「作品をより多くの人に見て欲しかった。」というのが第一の理由です。それまでは、作品を1点完成させることにハードルの高さを感じていました。準備や構想に時間をかけ、年に数点の作品しか発表できず、それだけ人に見てもらう機会も少なくなります。それなら一層のこと「コンセプトやメッセージ性なんてなくていいから、とにかく毎日何か作ろう。」という考えに至りました。

――いまではコンセプトやメッセージ性がない作品がしばたさんらしさになっているようですね。
しばたたかひろさん「コンセプトやメッセージ性がない」という点は作品のシュールさに繋がり結果的に良かったと同時に、「コンセプトやメッセージ性がない」ということがすでにコンセプトとして成立しており、そういった作品をただひたすら作り続けるという行為は、大いにメッセージ性を孕んでいると最近になって気づきました。

――日常の何気ない瞬間かつ素朴な題材を選ばれているのも、ある種のメッセージ性を感じます。
しばたたかひろさん日常生活では脇役にしかなれなかったモチーフを主役にしてあげたいという思いがあります。私たちの生活を彩るものは、決して綺麗な花だけではありません。使いかけの食器や床に落ちたゴミも十分私たちの生活を彩っています。地味だというだけで無視されてしまうモチーフをよく観察し、そこで発見した長所を色々な人と共有したいです。

――こむぎねんどならではの魅力を教えてください。
しばたたかひろさん第一に手軽です。非常に安価で、100円ショップでも手に入れることができます。さらに、もともと粘土に色がついており、絵の具などで着色する時間が省けます。

保存が効かないというのも魅力です。こむぎねんどは、放置すると表面がひび割れしてしまう粘土です。一般的に、粘土は完成後に乾燥させ保存することが前提としてあります。しかし保存が効かないということは、劣化するまでの短時間で作品を完成させなければならず、作家としてのスキルアップに繋がります。

綺麗すぎずリアルすぎない、ねんどの良さを最大限に活かす“妄想”から始まる作品作り

――どんな時に題材を思いつくのでしょうか。
しばたたかひろさん日常生活のふとした瞬間に見つけることもありますが、大抵は想像の中で見つけていきます。変な話ですが、妄想の世界で銀行へ行って口座開設し、その時利用した窓口でモチーフを見つける、といった具合です。このようなことをお風呂やベッドでひたすらしています。ちなみに前述した銀行窓口では『直後の朱肉』というモチーフと出会いました。

――「リアル」というコメントも多いですが、リアルに再現するために工夫されていることはありますでしょうか。
しばたたかひろさん綺麗に作りすぎないよう気をつけています。手を抜くということではなく、できる限り実物に近い造形に寄せるということです。これは根本的なことにも思えますが、意外と難しかったりします。

例えば苺のショートケーキを作るとして、イメージでいえば綺麗な三角形ですが、実際は角が欠けていて少しいびつな形をしており、断面はボソボソしています。苺は先端が変色していたり、思っている程完璧ではありません。この想像と現実のズレを的確に、時には大げさに表現することで作品はリアルさを増していきます。

――モチーフは妄想生まれでも、作品作りは現実とのズレを詰めていくのですね。
しばたたかひろさんただ、“リアルすぎない”ようにあえて所々に粘土だとわかる部分を残すこともあります。表面に指紋が残っていても消さずにそのままにしますし、実物大ではなく手のひらに収まるほど小さく作るなどの工夫です。

私の作品は、基本的にSNSで公開することを前提としています。あまりにも正確に作品を作ると、携帯やパソコンなどの画面越しではもはや本物と変わりなく、面白さを損なうことに繋がるかもしれません。そうならないためにも「粘土っぽさ」はあえて残すようにしています。私の作品を見て頂く時には、是非写真を拡大して粗探しをしてみて下さい。

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