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芸能人は労働者? 個人事業主? 専門弁護士が語る“闇営業問題”の解決策「行政が切り込むべき」
「他業界なら公正取引委員会がすぐに動く」、芸能界には腰が重い行政
――社会的に大きな問題になっていますが、弁護士の立場からすると、どこがキーポイントになっていると思われますか?
佐藤大和 整理すると、吉本興業さんに関しては、専属契約に関する「契約書」が存在しないこと。それに付随して、もし契約書があったとしても、専属に関する説明が不十分であったり、報酬の面で不安定さがあったりすると、事務所に頼れないという理由で直営業(事務所を通さない営業)をしてしまう土壌ができてしまっていること。さらに言えば、こうした問題が起こっても、なかなか行政が踏み込まないことが一番注目すべき点だと思います。他の業界、例えばAmazonや楽天、セブンイレブンなどの問題では、公正取引委員会がすぐに動きましたよね。でも芸能界となると、なかなかタッチしないんです。
――それはなぜなのでしょうか?
佐藤大和 大きな問題には、法律の不備があります。まず芸能人と事務所の関係として、芸能人本人が「個人事業主」であるか、「労働者」であるかで大きく変わります。労働者にあたれば、労働法令が適用されます。でも、個人事業主なら独占禁止法等が適用されます。このように「労働者」か「個人事業主」かの判断が難しい場合、法律が異なるため、なかなか切り込んでいかないんです。
事務所と係争になる場合は?「芸能人側は契約書がない方が争いやすい」
佐藤大和 事務所と芸能人が専属契約を結ぶ場合、普通は契約書を作るべきです。ここ10年ぐらいで、どこの事務所も契約書という概念は浸透しつつあると思います。もっとも、地下やご当地アイドルの約3割近くには契約書がないという調査結果もあります。
――基本的な話ですが、契約書がなくても契約は成立するのでしょうか?
佐藤大和 法的には、契約書というのは、契約がある前提で、それを明確に証拠化するためのものであり、口頭でも契約は成立します。ただ、お互いに口頭だと「言った、言わない」の話になるので、ややこしくなります。ですが、芸能人側に立つ弁護士として言わせてもらうなら、正直、係争となった場合は契約書がない方が争いやすいんです。契約書がなければ、契約書の有効性について争わず、法律を前提に争うことができます。それを考えると、本来なら事務所側としても、契約書を作った方が自分たちの権利を守るためにはいいんですよ。まあ、契約書の内容が不公平なものであれば、芸能人側からは大問題なんですが。
――では、専属契約の契約書がない場合は、直営業をしてもペナルティを課されることはない?
佐藤大和 今回の件で、吉本興業さんが処分に対して出したプレスリリース(6月24日発表)は、専属契約違反なのか、お金を受け取ったことに対して嘘をついたことなのか、何についての謹慎なのかがわかりにくかったです。結局は、反社会的勢力の人たちと接点を持ったことへの処分のように感じられました。でも実際は、反社の会合とは知らなかったということなので、あくまで結果責任だと感じています。 “闇営業問題”などと言われていますが、吉本興業さんの場合、専属契約書がなく、所属する各芸人さんもどのような契約内容かわからないと言っているため、「事務所を通さずに営業活動を行った」という契約違反による処分ではないわけで…。
「記者会見は得策ではない」、第三者委員会を作り取り組むべき
佐藤大和 本来なら、修正申告をして、無償でボランティアや詐欺撲滅運動に協力するなど、迅速に事務所が先導して謹慎処分中にやるべきことを提示すべきだと思います(7月13日に、修正申告と消費者団体などに寄付を行ったと発表)。もちろんこうしたことも、これまでの経緯から「形だけだろう」という批判が起こるとは思います。でもそれを恐れ、何もしないで沈静化を待つよりは、やった方が絶対にいい。リスク承知で、事務所主導のもと二人三脚で動くべきだと思います。
――芸人仲間の間でも、記者会見を開くべきという声がありますが?
佐藤大和 僕はあまり得策だと思いません。先にも説明しましたが、今回の謹慎は、事務所が芸人に対し、何について処分を下したのかが見えていないんです。例えば薬物で逮捕など、明確な法律違反をした場合であれば、会見も有効だと思います。ですが本人たちがフワッとしたまま記者会見を行っても、記者に詰められて余計に論点がズレてしまう。それよりは、吉本興業さんが、調査対象を制限せず、しっかりと第三者委員会を作って取り組むことの方がよいと思います。