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物語の力を信じている、週刊少年マガジン副編集長・川窪慎太郎氏

2018年7月取材・掲載記事の再掲載

(C)MusicVoice

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<エンタメ界の30代 Vol.05>
変革期を迎えているエンターテインメント業界。テレビ最盛期やミリオンヒットが続出した時代に青春を過ごした30代は今まさに、その最前線で活躍している。彼らは今何を考えているのか、どう時代の変化に立ち向かっているのか。リレー形式でインタビューする本企画は、エンタメ業界で働く大手事務所マネージャーが同世代で活躍するキーマンに話を聞き、それぞれの背景や想いに迫っている。今回は、『進撃の巨人』の編集者で『週刊少年マガジン』(講談社)副編集長の川窪慎太郎氏。入社1年目で『進撃の巨人』の作者・諫山創氏と出会い、作品に可能性を感じ連載へと動いた。当事者の一人としてこの大ヒットをどう見ていたのか。そして、編集者としての矜持とは。
【取材・企画=山本圭介(SunMusic)/文・撮影=木村陽仁(MusicVoice)】

「物語の力」運命を変えた電話

 「小説や漫画の物語は、人間や世界そのものの存在を変化させうる『力』を持っていると思います。それはミュージシャンであれば音楽であり、映画監督であれば映画だと思います。僕は物語の力を信じていますし、僕自身は物語が作れませんから、それを『人』に届けたいと思っています」

 時の移ろいのなかで変わらないエンタメの本質は「物語の力」であると、その人は語った。漫画『進撃の巨人』を連載当初から担当している『週刊少年マガジン』副編集長の川窪慎太郎氏、35歳。作品によって人生観が変わった読者がいるように、川窪氏もまた作品、そして作者の諫山創氏との出会いによって運命を変えられた一人だ。

 単行本の累計売上は7400万部以上を記録する『進撃の巨人』。小説やテレビアニメ、映画にもなり、様々なコラボ企画が展開されるなど、空前の大ヒットだ。その物語は、突如現れた巨人によって絶滅の危機に立たされた人類が、巨大な城壁内の都市で生活圏を確保するとともに、巨人との戦いによって活路を見出していくもの。なぜ巨人が現れたのかという謎にも迫っている。

 外的要因によって人類が絶滅の危機に立つ、というテーマの作品はこれまでもあったが、その外的要因が「人を捕食する巨人」という斬新な切り口が興味を誘った。もちろん、それだけではない。現代情勢に重なる点や登場人物個々のキャラクター性。伏線につぐ伏線、核心の先にある核心というような飽きさせないストーリー展開は、読者の心をグッと引き込んでいる。それはまさに「物語の力」と言える。

 社会的現象をも引き起こした名作だが、意外にも世に出る前まではその“原石”を見抜く人はいなかった。作者の諫山氏は当初、原稿をいくつかの出版社に送ったようだがどこも良い反応はなく、そのなかで手を挙げたのが川窪氏だった。その巡り合わせも“ドラマチック”だった。同誌編集部に配属して間もなかった川窪氏がたまたま取った電話が諫山氏からの着電。これをきっかけに原稿を読んだ川窪氏は作品の魅力、可能性を感じて連載へと動いた。川窪氏は当時23歳、駆け出しの新人社員。一本の電話が諫山氏、そして川窪氏の人生を大きく変えることになった。

 入社1年目で原石を見抜いた川窪氏はどのような人物なのか。その志望動機が面白い。東京大学経済学部出身の同氏は在学中、就活の時期に差し掛かり、周りが銀行など金融関係を志望先に挙げていくなかで、「僕はあまり働きたくなくて…」という理由から、「私服で通勤したい」「満員電車に乗らない(出勤時間が遅い)」「転勤がない」という条件が見合う企業を探した。証券会社でも転勤のない職種を選んだが、「その会社の人事部の方から電話がかかって来て『99%が女性だけど大丈夫?』と言われたり(笑)」。最終的に、3つの条件が揃っていた講談社を選んだ。

 そんな彼の子供時代は、ゲームやテレビ、漫画が好き。当時、家になかったテレビゲームを友人の家で遊ぶことにドキドキ感を覚え、家に帰ればテレビ番組を食い入るように見ていた少年だった。そして漫画。学校帰りはよく立ち読みをしていたそうだ。

 「私立小学校に通っていて通学は電車でした。学校からの帰りは、駅近くのコンビニで漫画を立ち読みしていることが多くて。親も見当がついていて、僕の帰りが遅い時はそのコンビニに探し来ることが大抵でした。出版社の人間としては買って読まなきゃいけないんですがね(笑)」

 講談社への志望動機は先の3条件だったが、漫画への愛情が潜在的に作用したことはこのエピソードを聞いても想像はつく。「僕はあまり働きたくなくて…」という理由は素直と言えば素直だが、こう聞けば、照れ隠しにもみえる。川窪少年も、未来の自分が『週刊少年マガジン』編集部に配属したと知れば、“心”をほころばせたことだろう。

 少年が“密か”に憧れた出版社。入社後の研修を経てその年の6月に『週刊少年マガジン』編集部に配属。そして、その1カ月後に運命の電話が鳴る。“原石”を読んだ最初の印象は、原稿から伝わってくる諫山氏の情念だったという。

 「絵も魅力的だったのですが、僕が感じたのは『この作品を書かないと前には進めない』という彼の情念が原稿からほとばしっているという印象でした。それが一番大きかったです」

 作品に可能性を感じた川窪氏は連載への働きかけを始め、編集部内で2つの賞を獲得、いよいよ連載に向けての案を考えていたところに、『別冊少年マガジン』が新創刊されることになり、2009年9月に連載がスタート、2010年3月に単行本の1巻が発売された。

 こうして日の目を見ることになった同作はあれよあれよと広まり、コミックス13巻の初版発行部数は275万部。講談社の記録を26年ぶりに更新するなど大反響となった。なぜそこまで支持されたのか。川窪氏はこう語っている。

 「連載開始当初から多くの人が応援してくれました。それはいまだに感じているのですが、『進撃の巨人』は本当にいろんな方々が一緒に育ててくれた作品だと、僕も諫山さんも思っています」

 愛される作品。応援したくなる作品。それは何だろうか。きっと川窪氏が語った「物語の力」なのであろう。

 そしてもう一つ、変わらないものがあるという。

 「出会った時からずっと、諫山さんは本当に謙虚で、低姿勢な男ですね」

 「僕は、頭でっかちの人間で、東大生にありがちなんですが、20歳の頃には『自分は完成された人間だ』と思っていたんです。人間的にも精神的にも成熟していると。でも『自分はまだこんなに成長できるんだ』と、大人になっても大きく変化させてくれたのがこの作品でした。それは諫山さん自身の存在もそうです。彼の人間性にはとても感銘を受けました。それに全然違うジャンルの方々と知り合うキッカケになったのも、この作品です。感謝しかない、感謝すべき存在という感じです」

 川窪氏の少年時代から、運命を変えた諫山氏、『進撃の巨人』との出会い、そして編集者としての考え方など。ここからは一問一答で届ける。

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