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『脱力タイムズ』、ひな壇バラエティー全盛の中で際立つ“コント回帰志向”
確固たる“報道番組”フォーマットの中から、いかに逸脱するかに心血注ぐ
例えば、6月2日の放送には映画『昼顔』の番宣で俳優・斎藤工が出演。彼のイケメンエピソードを紹介していく中で、序盤は斎藤が行っている1日1食の生活の話などをするが、途中から同番組ならではの“脱力”ならぬ“脱線”していく展開に。「18歳の時。英会話の受付嬢とお台場で砂浜に寝そべってラブソングを歌った」と紹介されるが、斎藤は「僕じゃないですね」と一蹴。それはもう1人のゲストであるトレンディエンジェル・斎藤司の話で、斎藤工は「虫唾が走りましたね…」と強烈なツッコミを入れる。虚実ないまぜとなり独特な世界観を醸し出し、それがこの番組ならではの笑いとなっている。
“ちゃんとした”有識者すらも番組に染まりきる徹底した演出
著書『声に出して読みたい日本語』で知られる教育学者・齋藤孝がトレンディエンジェル・斎藤司をマネして「サイトウさんだぞ!」のポーズを披露。また、5月12日の放送では日常の怒りを語るウーマンラッシュアワー・村本大輔に対して、出口氏が「さっきから、お前よぉ! ペラペラいない人の悪口言って卑怯だろお前! 刑務所の中では作業中はペラペラしゃべっちゃいけないんだよ!」と激昂するなど、ほかでは見られないこの番組ならではの一面を披露している。もちろんこれには台本があるはずで、視聴者は彼らが普段見せない“名演技”を楽しんでいるのだ。
ゲスト芸人のみが“台本ナシ”で対応、滝沢カレンの目茶苦茶なナレも話題
さらに忘れてはならないのが、滝沢カレンの存在。彼女は絶品グルメや美しい風景を紹介する「THE美食遺産」「THE絶景遺産」のナレーターを担当。彼女の“たどたどしすぎる”ナレーションも番組の見どころで、「拘り」を「いつわり」、さらには「創作料理」を「とっちんたん」と読むなど、ツッコミどころがありすぎるのが特徴だ。料理を作っていく様子の実況も行うのだが、「白い粉」という言葉を連発するなど、彼女の独特な感性が光っている。ここまで漢字が読めない彼女の天然のボケに芸人がひたすらツッコむことで笑いとして成立している。
均一化するバラエティーの中で“いま可能なコント番組”に奮闘する制作陣
BPO(放送倫理・番組向上機構)のチェックが厳しくなり、さまざまなチャレンジをする番組が“自主規制”されることが多くなった近年のバラエティー番組。制作費の問題もあり、クイズ番組や生活情報番組、ひな壇系バラエティーが主流となっているのは周知の通り。その中でも、芸人や制作スタッフが「やりたい」と希求しながら、予算や視聴率面で難しいのが“コント”である。特にフジテレビでは、『オレたちひょうきん族』、『とんねるずのみなさんのおかげです』、『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬』シリーズなど良質なコント番組が世に送り出してきた経緯があるだけに、その想いはより強いはず。
コント番組が減少する中でも“シチュエーションコメディ”という形をとれば最小限の制作費で“コント番組”を作ることが可能だと立証した『脱力タイムズ』。さらに、ゲスト芸人のみがその収録内容を事前に知らないという“ドッキリ”の要素と、プライベート暴露という話題性も付加することで、決められたフォーマットから逸脱していくかという、長年に渡り培われてきた“日本産コント”の流れもしっかりと継承している。
健全な番組コンテンツを提供するにあたり、さまざまな規制が生じてしまうことは仕方ないが、過渡に萎縮したバラエティー番組は誰も望んでいないはず。その中で、『全力! 脱力タイムズ』は、あくまでシチュエーションコントというパッケージで包むことで、仮に専門家が激昂しても、視聴者には「お笑いを演じている」という一種の安心感を与えている。自主規制や制作費の削減などで番組コンテンツが均一化していく中でも、“法の網目”をかい潜ることで、幾らでも笑いのアプローチは生まれるのだということを、『脱力タイムズ』は教えてくれる。