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臨床心理士・松島雅美インタビュー『“目×ココロ” 話題のメンタルビジョンとは?』
不登校や学習不振の子どもたちを見ていくなかで“メンタルビジョン”に辿り着きました
松島雅美眼のトレーニング自体は、もともとアメリカで80年の歴史がある「ビジョントレーニング」というものがあるんです。元々、パイロット養成のために作られた目のトレーニングなんですけど、様々な人に試したら非常に高い効果があったものなんです。例えばスポーツ選手の身体機能はもちろん、子どもの学習能力の向上や発達障害の子どもたちにも効果が得られたそうです。
――目の働きを向上させることは、アメリカではすでにスタンダードになってたんですね。
松島雅美そうなんです。私はスクールカウンセラーとして子どもたちと接する機会が多かったんですけど、落ち着きのない子どもや、不登校や学習不振でやる気を失ってしまった子どもたちを、どうしたら前向きにさせられるのか? を考えたとき、ただ悩みを聞くという次元ではないと感じたんです。
――もっと根本的な問題が生じている子どもたちが多かった。
松島雅美はい。そこで、このビジョントレーニングというものスクールカウンセリング内に取り入れたことが「メンタルビジョントレーニング」のきっかけでした。
――それは、実際にご自身が臨床心理士としてスクールカウンセリングを行う流れのなかで、ある種の“限界”を感じたからなのでしょうか?
松島雅美そうですね。元々、スクールカウンセラーになる前は病院など予約制でカウンセリングを行っていました。予約制でのカウンセリングの場合は、クライエントさんが希望して心のケアを受けに来るので、あまり気にならなかったのですが、生活の一部である学校という場所で心のケアや発達支援を行うことの難しさを痛感しました。
――「私は別に心のケアなんていらない」という心構えが、まず前提としてありますよね。
松島雅美やはり、カウンセリングを受けるのが恥ずかしいという思いがあったり、よく知らない人に自分のことを話すことへの抵抗が子どもにも保護者の方にもあったんですね。ですから、最初に私がしたのは、学級を回ってより身近になろうと。そこから子どもたちの生の声を聞いていくうちに、意外と困っている子どもたちが多くて。
――今の子どもって、大人以上に忙しいでしょうしね(笑)。
松島雅美そういう子もいますよね(笑)。経験がまだ少ない分色んな場面で不安を感じているけれど、なかなか大人からは見えづらい面がある。でも、小さい悩みを積み重ね、解決できないままでいると、どんどん自信を無くしていくんです。例えば、いじめなど大きな悲しい出来事があって、ストレスが溜まるということだけでなく、子どもって日常の些細な出来事の中で自信を消失していくことの方が圧倒的に多いんです。
目の良さ(視力)と、目の働きは必ずしもイコールではない
松島雅美すごく効果がありました。思考や動作の機能がすごく向上して、何よりも子どもたちが「もっとやりたい!」と楽しみながらトレーニングをやってくれるのが大きかったんです。そうすると、周りの子どもたちもどんどん興味を持って参加してくれて。そのような経験から、もっとメンタル機能と結びつけて説明できるようにしようと思ってプログラムにしたのが「メンタルビジョン」だったんです。
――松島先生は、今回の自著のなかで「目の良さ(視力)と、目の働きは必ずしもイコールではない」と書かれていますが、新たな能力というより、もともとあった能力を引き出す作業なんですね。
松島雅美目から様々な情報を得る時に、そもそも情報を正しく認識できていない場合でも、理解力だったり読解力が足りない(いわゆる知的能力の問題)と思い込んでいる傾向が強いように感じます。でも、そうではなくて、目の働き(インプット⇒判断⇒アウトプット)のどこかがうまく機能していないということが原因の場合も少なくないんです。
――原因を探る際にも選択肢が多いほうがより改善に向けて効果的ですよね。
松島雅美目って脳の一部なんです。様々な情報を得るために目の機能があり、その情報を処理するのが脳。そして人間は情報の8割を目から取り入れています。目の動きと脳の働きは連動しているので、目の動きをチェックすることで問題解決の方法が1つでも多く見つかれば良いですよね。心理学でもEMDRという眼球運動を用いる心理療法があります。
――そう考えると、心理学と目のトレーニングって決して相反するものではなく、地続きなんだなって実感できますよね。パソコンやスマホなどが手放せなくなっている現代社会においては、目の働きが悪くなっている可能性が高いですから。
松島雅美スマホなどの画面を見る時に実感できると思うんですが、目を小刻みに動かす動作はあっても、眼球全体を大きく動かすという動作は明らかに昔よりも少なくなってますよね。それが今は子どものときからなので。子どもって五感を使って“体験”で脳を発達させるんですけど、今の子供たちは目を動かさないので見ている範囲が少なくなって、情報量が少ない。情報量や刺激が少ないと知能だったり情緒だったり発達に影響を及ぼしてしまうんです。
――落ち着きがない子にゲームやスマホを持たせると、おとなしくなったりすることもありますよね。「あ、集中しているから良いことなのかな?」って安直な考え方もしてしまいがちですけど……。
松島雅美好きなものを見ていたり、自分の思い通りに操作できるので、夢中になれますよね。でも、本当の“集中”というのは、社会生活を送る上で様々な場面で必要です。「好きなことに没頭しているときだけ集中するから集中力はあると思うんですけど……」って嘆く保護者の方も多いですよ。私は、集中力とは、「何かの目的に対し自分の意思で意識を向け行動し続けられること」と考えています。
――どんな状況下でも好きなものが近くにあるワケではないですからね(笑)。
松島雅美だから、様々な状況下でどう集中できるかが大事。様々なものに興味を持つには「想像力」も必要です。
――スマホがあれば情報が安易に入手できますけど、想像力は低下しているのは、私自身も実感としてありますね。考える時間というものが少なくなるというか……。
松島雅美そうですよね。生後間もない赤ちゃんって、色々な情報を得るためにさまざまな観察するために目をたくさん動かしているんですけど、徐々に動けるようになるにつれ、早い段階でおとなしくさせるためにスマホを与えたりしてしまうんですね。
――ある種、大きな可能性を遮断してしまっているのは、育てる親側にあるんですね
松島雅美そうですね、目をしっかり動かすことで感情のコントロールや状況に合わせて判断するなど人間らしさを司る「前頭前野」を活性させます。それを妨げているとも言えますね。30年前、40年前の子どもたちは与えられるツールが少ないからこそ、自発的に様々なものを観察して工夫して目の働きを鍛えていたんですけど、今はわざわざそのための場を設けないといけない時代になったのかなとは実感しますね。