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坂口健太郎、躍進中の若手俳優が胸中を語る「正解のないグレーゾーンにいたい」

日本映画界を代表するオールスターキャストが集結した、前後編2部作のエンタテインメント大作『64-ロクヨン-前編/後編』。俳優の坂口健太郎は、これまでとはガラリと違う雰囲気で、県警広報室の対応に憤る、若き地方記者・手嶋を熱演した。映画、ドラマと大活躍中の若手俳優が同役を通して考えさせられた自身の“正義”、いま感じる俳優業のおもしろさについて聞いた。

芝居がすごく変わった佐藤浩市からのひと言

――今回、坂口さんが演じた手嶋について、原作の本作主人公・三上のメモによれば「東洋新聞サブキャップ。H大卒。26歳。思想背景なし。生真面目。敏腕記者症候群」と書かれています。
坂口健太郎横山秀夫さんの原作でも、台本にも、手嶋って多くを語られているキャラクターではないから、三上のメモは参考にしました。でも今回の役について考えるとき、いちばん最初の段階では、あまり新聞記者ということを考えていなかったかもしれないですね。記者という部分を外したところで、手嶋には秋川みたいなちょっと怖い上司がいて、広報官という役職を考えずに、三上という何かを引き出さなくてはいけない相手がいる。若手だし、上からの重圧もあるし、ジレンマもあるキャラクターなんだろうなというところから、役を作っていった感じです。その作業の後に、県警の記者クラブに所属する記者であることを、少しずつ肉づけしていって。

――佐藤浩市さんふんする三上へのすげない物言いなど、若者らしい、とんがった雰囲気が、とても新鮮でした! 広報室と激しく対立する、記者クラブの撮影現場は、どんな雰囲気でしたか?
坂口健太郎記者クラブでお芝居をするときって、どうしても記者クラブ対広報の図になりがちだったので、常にいい緊張感がありました。撮影が始まる前日に、みんなで乾杯をしたんですけど、そのときに浩市さんが「明日からどんどん俺に向かってきてくれ」と言ってくださって。そのひと言のおかげで、お芝居がすごく変わったと思います。坂口健太郎からすれば、佐藤浩市さんはすばらしい役者さんで、しかし映画の世界では、そんなことを言っていられないじゃないですか! 浩市さんのひと言で、手嶋が発言するときの力の入れ方も、少し変わったんだろうなと思います。

役者の熱がどんどんヒートアップしていった

――撮影で、印象に残っているシーンはありますか?
坂口健太郎僕がちょっと驚いたのは、前編のクライマックスで(匿名問題にケリをつけるため、記者クラブにひとりで乗り込んできた)三上が銘川老人の話をした瞬間でした。浩市さんのお芝居で、現場全体が冷静になったような気がして。記者クラブと広報室って、何かあるたびにいがみ合う関係性。広報には広報なりの正義があって、クラブにもクラブなりの正義がある。それぞれの正義をぶつけ合うから、答えの出ない問題をずっと小競り合いしているような状態。お芝居をやっていると、皆さんの熱がどんどんヒートアップしていって、楽しかったんです。そんななか、クラブのみんなが忘れていた老人のことを、三上に気づかせてもらったとき、一瞬で熱が落ち着いたというのか。あのときは本当にびっくりしました。
――瑛太さんふんする手嶋の直属の上司・秋川との関係については、どう捉えましたか?
坂口健太郎手嶋からすると、やりにくい人だろうなというのはありました。地方記者クラブって、必ずしも団結しているわけではない。広報に抗議するときは、ギュッと一致団結するんですけど、クラブ内には、記事を抜いた、抜かれた、というライバル的な部分もある。烏合の衆とまでは言わないけど、形の上だけでまとまっているクラブのボス格である秋川は、ちょっと危うい存在なんだろうと。そんな秋川のことを、手嶋は怖い存在として見ているんだろうなと想像して演じていました。

――後編の会見シーンでは、地方記者と東京の本社との温度差もビビッドに映し出されていましたね。瀬々監督はどのような演出で、あのシーンを作っていかれたのですか?
坂口健太郎会見場でのシーンは、個人個人にというより、地方記者クラブ全体に瀬々さんが演出をつけていく感じでした。手嶋たちのボスである秋川が(東京の記者に)ひどい言われ方をした悔しさみたいなものや、東京の記者に感じている引け目とか、意識のなかでは認めたくない気持ちについて、いろいろと説明してくれました。

人の影響は受けていたい、正解のないグレーゾーンにいたい

――さまざまな立場の正義がぶつかり合い、重厚な人間ドラマが生まれてゆく本作に参加されて、坂口さんご自身は“正義”というものをどう考えますか?
坂口健太郎正義はたぶん、人の数だけあるんだろうと思います。自分の考える正義が、ほかの人からしたら、正義だとは言い切れない。その人の正義というのは、ちょっとずつズレていたりするんだろうなという印象です。100%の正義というのは、ないような気がして。だけど100%ではないんだけど、100%だと信じて行動しないと、正義には結びつかないとも思うんですよね。

――そんな人間の曖昧さを表現する、役者業のおもしろさは実感されているんでしょうか?
坂口健太郎それはけっこう思います。ちょっと話がずれてしまうかもしれませんけど、僕自身、こういう人になりたい、こんな役者になりたい、こんなお芝居がしたいというのが全くないんです。すばらしい役者さんも、大好きな役者さんもたくさんいますけど、それは僕ではないから。誰かをなぞるのではなくて、いまの自分だからできることが絶対にあると思う。それはすごく難しいことだと思うのですが……。だからあえて“こんな人になりたい”という、憧れの人は作らないようにしているところもあります。でもいろいろな人の影響は受けていたいんですよね。ちょっと矛盾してるんですけど(苦笑)、僕はそういう正解のないグレーゾーンにいたいと思います。

――本作で、いちばん影響を受けた人は誰ですか?
坂口健太郎浩市さんですね。浩市さんであり三上です。三上って、記者クラブとも、警察内部でも、刑事部や上層部とも闘っている。人とも闘っているし、組織とも闘っている。失踪した娘を持つ親の想いとも闘っている。(本作の舞台となった)昭和から平成という時間の流れのなかでは、時代とも闘っている。影響を受けたというよりも、全てと闘っている人って、すごいなと思いました。時代と闘うなんて、僕には想像もできないから。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

64-ロクヨン- 前編/後編

 昭和64年。わずか7日間で終わった昭和最後の年に起きた少女誘拐殺人事件は刑事部内で「ロクヨン」と呼ばれ、未解決のままという県警最大の汚点として14年が過ぎ、時効が近づいていた。
 平成14年。主人公の三上義信(佐藤浩市)は「ロクヨン」の捜査にもあたった敏腕刑事だが、警務部広報室に広報官として異動する。そして記者クラブとの確執、キャリア上司との闘い、刑事部と警務部の対立のさなか、ロクヨンをなぞるような新たな誘拐事件が発生。怒涛の、そして驚愕の展開が次々と三上を襲う……。

監督:瀬々敬久
出演:佐藤浩市 綾野剛 榮倉奈々 瑛太 三浦友和
前編5月7日(土)/後編6月11日(土)連続ロードショー
(C)2016 映画「64」製作委員会
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