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CREATORx2 TALK:Vol.1『漫画家・松井優征×書家・前田鎌利:書かない“余白”へのこだわりにクリエイター魂が共鳴』

累計発行部数2100万部を超えるヒット作『暗殺教室』原作者の漫画家・松井優征。巨大書道によるライブパフォーマンスやプレゼンテーションクリエイターとしても注目を集める気鋭の書家・前田鎌利。漫画と書、紙に書くというアナログな表現を生業とする2人のクリエイターが初の対談! クリエイティブとは何か? 書くことだけではない、書かない“余白”へのこだわりにクリエイター魂が共鳴した。
書道もプレゼンも同じ。見る人の立場を意識して作る。型にとらわれない。
気持ちが乗る自由なスタイルを貫いてきた (前田)
松井前田先生はとても不思議な経歴ですよね。プレゼンテーションクリエイターと書家では、どちらが本業なんですか?
前田どちらが本業かと問われれば書家ですが、自分のなかではやっていることは同じで、ツールが違うだけなんです。
松井書って、どちらかと言えば右脳を使うものじゃないですか。プレゼンの方は左脳でしょ? 両方を第一線で使いこなしていらっしゃる人って、あまり聞かないですよ。書とプレゼン、それぞれが役に立っていることはあるんですか?
前田たくさんあります。『社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)(外部サイト)にも書いたんですけど、プレゼンって、見る人の立場を意識して作っていくものなんです。例えばプレゼン資料で、メッセージ(テキスト)を表示する場所を考えるときには、古い日本家屋やお寺の壁上部によくある、横書きの書(扁額)の余白を参考にします。中央より少し上に文字を置くことで(実際に資料を)見る人にとって見やすくなる。古来からの知恵なんです。同様にビジュアルの配置などにも、書から学んだことをいろいろと取り入れています。
松井書がプレゼンの役に立っている! 逆もありますか?
前田いま「継未-TUGUMI-」という書道教室を、全国で15校開催しているんですが、授業の冒頭で必ずプレゼンをしています。その日の課題についてやその文字が持つ意味、お教室の理念や今後のイベントの予定まで、毎回お話するんです。そのおかげで、特別なPR活動は一切していないんですけど、口コミで広がって、興味を持った方が自然と集まってくださっています。
書家・前田鎌利
巨大書道ライブパフォーマンスやテレビ番組タイトル、企業ロゴなどを手がけることでも知られる気鋭の書家。ソフトバンク孫正義会長も認めるキレ者プレゼンテーションクリエイターとしてビジネス業界にも名を馳せる。
◆公式サイト(外部サイト)
松井書道教室でプレゼン!? 僕も小学生の頃、1年間だけ書道を習いに行かされていたんですけど、書道教室のなかはいつもシーンとしていましたよ?
前田そうですよね、プレゼンをする書家というのは、なかなかいないと思います(笑)。大体書家って、ロン毛で作務衣を着て……ってイメージなんですけど、そうじゃなきゃ書家じゃないのか? って僕は思うんです(笑)。もっと書道の敷居を下げたいんですよ。
松井少し身の上話をさせていただくと、僕がなぜ1年で書道を辞めたかと言えば、1年やって7級から1級も上がらなかったからなんです。その大きな原因のひとつが、左利きを矯正して、右手で書かなくてはいけなかったことでした。
前田僕は矯正しないんです。僕自身も、右手に飽きたら左手で書いたり、口や足、いろいろやってみて、おもしろい書き方を見つけていきます。
松井マジですか!?
前田書き順も自由ですし、二度書きしたっていい。JAXAの宇宙ステーション補給機「こうのとり」の名前を揮毫(きごう)したときも、打ち上げに成功してほしいという思いを込めて、書き順を無視して、下から打ち上げるように書きました。自分もその方が気持ちも乗るので、お教室の子どもたちにも「作品を作る上では自由にやりましょう」と話しています。
漫画も書道も“白”と“黒”の世界。
『暗殺教室』5巻では普通の“白”じゃないと思わせたかった(松井)
松井前田さんの書道は自由で良いですね。僕もこういう書道に出会いたかったなあ。どうも書というのは、何が正解かというのもよくわからなくて。
前田正解はないですね。見ている方の主観で感じていただければいいんですけど、おもしろいことに、書に対してはみなさん“好き嫌い”じゃなく、“上手い下手”をすぐに言いたがるんですよ。絵画や写真、映画なんかを見ても、あまり上手いとか下手では語らないでしょう? 例えばモネの絵を見て「うまい!」なんて言う人がいたら「何様だ、おまえは!?」みたいな話ですよ(笑)。僕がいつも言っているのは、書は上手い下手で見るものではなく、好き嫌いで見るジャンルのひとつです、と。じゃあ書のどこを見て、好き嫌いを言うかというと、余白を見るんです。
松井余白ですか! 漫画家をやっていると、ひと目見れば、この作者は直線が好きか、曲線が好きなのかというのはわかるんですよ。でも余白って感じ方はなかったなあ。
前田墨の部分より、白い部分をどう切り取ったかを見ていくと、自分の好きな白の残し方というのがあるんです。すると文字が読めなくても、好き嫌いで書を見ることができます。
松井なるほど!!
前田『暗殺教室』を拝見して、いちばん印象に残ったのが、5巻の表紙裏に書かれた松井先生のコメントでした。書家なので当然、白と黒は意識しているんですが、“白を主役に使う”先生の白へのこだわりはすごいな! って。この表紙を作るのは、大変だったんですか?
松井あのときはたしか、白についてめっちゃ考えましたね。書店でほかの漫画と並んだときに、ありふれた普通の白じゃないと思わせなきゃいけないと思って。
漫画家・松井優征
漫画界のみならず、アニメ、映画、ゲームのヒットにより一大コンテンツとなっている『暗殺教室』の生みの親。同作(累計発行部数2100万部突破)や『魔人探偵脳噛ネウロ』などで数々の漫画賞を受賞している人気漫画家。
◆集英社『暗殺教室』サイト(外部サイト)
前田白って、下手するとインパクトがないから、どう料理していったんだろう? と興味を覚えました。そもそも漫画って、白い紙を、黒でコマを切っていくわけですよね? コマ割りって、すんなり決まるものなんですか?
松井えーっと、僕はそこら辺のセンスがないので……(苦笑)。わりと淡々とやっていくんですよね、見やすければいいやって。白に対する考え方とはちょっと違うんですけど、読者の目をゼロコンマ何秒か遅らせたいシーンのときは、画面の活かし方について考えます。例えば15巻の渚のキスシーンは、ページをめくった瞬間、まず(読者の目に)蛇が飛び込んでくる構図にしています。蛇で一拍置くことで、キスの驚きが大きくなる。そういう仕掛けを作ったりします。
前田プレゼンや書でも、目線の誘導は意識しますね。一枚のなかで、いちばん見てもらいたいところを意識して、作っていく。
松井わりと漫画と近いんですね。漫画って、映画やアニメとかといちばん違うのが、読者が能動的にページをめくって、物語が展開していくところだと思うんです。言い方は悪いけど、映画のキスシーンって、その前の流れ次第では押し付けに感じてしまう事もあるじゃないですか。漫画だと、自分でめくったという責任があるぶん、インパクトが強まる。そういうインパクトの大きさは、紙ならではの魅力だと思います。タブレットでもまだ追いつかない気がして。あと明るさやコントラストについても、紙ほどの見やすさを、映像の画面はまだ再現できていないと思います。あとは紙は軽くていい(笑)。
墨をする行為を含め、面倒くささが想いを強くし、相手に伝わるものになる(前田)
『少年ジャンプ』作家として子どもたちに漫画の良さを伝えたい(松井)
前田書も漫画も、紙に書く(描く)という共通項がありますが、紙に書くというアナログな魅力を、僕は面倒くささだと思っています。書って、ずいぶん昔のものも残されているんですけど、うまい人の文字よりもむしろ、誰かに宛てた手紙が多く残されているんです。墨をすって書くという行為もそうですけど、やっぱり時間をかけることで、面倒くささが加わるぶん、想いというのは強くなっていくと思うんです。その想いが強まるほど、相手により伝わるものになるんじゃないかって。
松井墨をするという行為だけでも、とんでもないことですよ。ちょうどよくすれた試しがないです(苦笑)。ある意味、書家さんというのは、面倒くささのスペシャリストかもしれないですね。
前田いい筆は、洗うのに2時間くらいかかるんです。吸い出しといって、口で筆の根元を吸って、筆の奥に入った墨を吸い出したりして、大事に扱う。その全ての所作が大切なんだと思います。
松井そういう所作の一つひとつに意味があるからこそ、書「道」なんだと思います。でもいま、面倒くささのよさを伝えるのって、大変じゃないですか? 放っておいたら、面倒くさいことってどんどん減っていくから。
前田小学校でもお習字の時間が減っています。当然、墨をする時間なんてなくて、墨汁を使って。便利になって、墨をする時間がなくなると、自分自身を内観する時間もなくなってしまうから、すごくもったいないんですけどね。僕は5歳から書を続けているんですけど、次の世代に、日本の文化を伝えていきたいという想いは、近年とくに強まっています。漫画家として、未来を担う子どもに向けてという意識はありますか?
松井漫画家というより『週刊少年ジャンプ』の作家として、そういうことは考えますね。子どもたちにとって、いちばんの漫画の入り口になっているところで、作品を描いている意味は、常に自分に言い聞かせるようにしています。子どもたちに漫画のよさが伝わるようにという意識はあります。
前田僕もジャンプ世代なので、すごくよくわかります!
松井いろいろな名シーンがあって、そういうおもしろさが積み重なっていくことで“漫画っておもしれー!”って骨身にしみた人たちって、ジャンプを卒業したあと、大人になってからも、ちょこちょこ読んでくれたりするので。やっぱりあぐらをかいていてはいけないなって。少しでも油断したら、未来の読者が離れていくというのは、肝に命じておかなくてはいけないと思っています。
前田先生はまだ全然つかめない(笑)。
こういうおもしろい人に会えるとき漫画をやっててよかったなって(松井)
前田アニメや映画、ゲームなど、メディアミックスが進むなかで、自分の伝えたいことを、いろいろな形で、より多くの方に伝えていける環境に変わってきているんじゃないかとも思うのですが?
松井そうですね。これも自分に言い聞かせていることですが、アニメはアニメ、映画は映画で、それぞれの作り手さんたちの本領であるということ。作品によっては、原作者がわがままを言い過ぎて、映画でやりたいことができなくなってしまったり、逆に映画が独自路線に行き過ぎて原作のファンを悲しませてしまう事もあるでしょうし。そこは自分の作品ではありながらも、エージェントのように接していこうと思っていて。漫画の大事なところだけは、それぞれの陣営にも守っていただけるように、そこだけは間違えないように伝えてきました。そこに関するプレゼンは、『暗殺教室』ではうまくいったと思っています。プロジェクトがスタートしたときから「最終回はこうなります」というのをお伝えして、アニメでも映画でも、必ず感動できるというシーンを共有できたので。
前田新作映画『暗殺教室〜卒業編〜』も楽しみです。
松井僕も、前田先生のワークスを見せていただいたんですけど、ここ数年で大きく変質した感じがするのは、何か心境の変化があったんですか?
前田2013年にソフトバンクを辞めてフリーのプレゼンテーション講師になってから、表現したい幅が、自分事から他人事まで巻き込めるようになってきたというのはありますね。それまで自分が主だったところから、ご依頼いただいた、さまざまなクライアントさんのマインドで語っていくなかで、対応できる幅が広がって、作風も変わってきたのかと。
松井なるほど、全体的ににじんできた、と。それにしても、人の話って5分も聞けば人物の輪郭が大体つかめるのに、前田先生はまだ全然つかめない(笑)。こういうおもしろい人に会えるとき、漫画をやっててよかったなって。
前田僕もソフトバンクにいたら、漫画家さんとお話する機会なんてなかったと思います(笑)。
(文:石村加奈/写真:逢坂 聡)

それぞれの業界の第一線で活躍するクリエイターズが、”これだけは欠かせない”こだわりの仕事アイテムをひとつご紹介します!
松井先生/Gペン
「これ一本で、いろいろな線の幅が出せるので、漫画家に愛されています。でも僕は“この道具じゃなきゃ”っていうものは、あえて作らないようにしています。消耗品なので、むしろ売り切れたら次に行けるように、対応できる態勢を作っておきたい」(松井)
「それ大切ですね。僕もこの筆じゃないとダメだというのは持たないようにしています」(前田)
「でも(値段の)高い筆って、やっぱり違うんですか?」(松井)
「表現の幅が少し違ったりはしますけど、値段より、毛の長さで使い分けをしますね。安くても全然OKです」(前田)
前田先生/書交セット
「筆ペンで一筆添えていただいて、コミュニケーションツールとして使っていただいたり、これで作品の草稿したり。仕事から日常まで使用している、僕にとって欠かせない道具です」(前田)
「筆ペン! このライトな姿勢が、前田さんご自身の魅力をそのまま表しているようですね」(松井)

暗殺教室〜卒業編〜

 1年後の地球破壊を宣言するも、なぜか椚ヶ丘中学校の落ちこぼれクラス3年E組の担任教師となった謎のタコ型超生物、通称・殺せんせー。潮田渚(山田涼介)ほか3年E組の生徒たちは地球を救うため、マッハ20の超速度で動き回るその超生物の暗殺を政府から託されているのであった。そして、彼らの前にひとりの暗殺者が正体を現す。それはE組の一員である茅野カエデ(山本舞香)。茅野の正体に衝撃を受ける生徒たちは……。

監督:羽住英一郎
出演:山田涼介 二宮和也 菅田将暉 山本舞香/桐谷美玲(友情出演) 竹富聖花 優希美青 上原実矩/橋本環奈 加藤清史郎
知英 成宮寛貴/椎名桔平
2016年3月25日公開
(C)2016 フジテレビジョン 集英社 ジェイ・ストーム 東宝 ROBOT (C)松井優征/集英社
【公式サイト】(外部サイト)

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