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佐野氏の“パクリ”問題、意外にもタレントから擁護の声多いワケ
「創作の基本は“模倣”」たけし、さんま、爆笑・太田らが警鐘
これら“佐野氏擁護派”芸人の中で、一番の急先鋒は爆笑問題の太田光だ。『爆笑問題カウボーイ』(TBSラジオ)で、ネットでの佐野氏バッシングに関して「みんな必死で(佐野氏のパクリ疑惑を)見つけすぎ。落ち着けよ!」と発言。さらには、米国の芸術家、アンディ・ウォーホールを引き合いに出し、「彼だってトマトの缶とかマリリン・モンローとかそのまんまコラージュしただけ。ピカソだってそういう作品を出している」とまで言った。確かにコラージュなどはアート界では一般的だし、それを“オマージュ”や“リスペクト”などと呼べば、各ジャンルでも許される風潮がある。古代ギリシアの哲学者・アリストテレスが「芸術創作活動の基本的原理は模倣である」と言う通り、人の“真似”をすることに芸術の出発点があるのかもしれない。
となれば、お笑いの世界などは、それこそ“人の真似”をすること自体に原点があると言ってもいいだろう。極端に言えば“モノマネ”は、人気歌手の歌を完璧にコピーするだけで多くの人から賞賛を浴びる。モノマネに限らず、ほとんどの芸人たちが誰かしらの芸にオリジナリティを加えてブレイクしてきたとも言えるし、もしそうしたことが許されず、“パクリ”として糾弾されるような社会が到来したら、芸人たちにとっても死活問題だろうし、世の中自体が殺伐としてしまう。そうした意味では、今回の大物芸人たちの“佐野氏擁護発言”は、何でもパクリに認定してバッシングするという最近の風潮に対して、警鐘を鳴らしていると言えるかもしれない。
“パクリ”か“オマージュ”か? 創作するアーティストとユーザーの信頼関係の上で成り立つ
ビートルズなどに影響を受けてミュージシャンになるケースはゴマンとあるし、楽曲自体も影響を受けてしまうことがあるのは仕方がないだろう。そもそも音楽自体が限られたノート(音符)を材料に創作されるのだ。しかし、アーティストたちが影響を受けたことを公言したり、リスペクトするアーティストに対する“トリビュート”であることなどをクレジットすれば、パクリとは言われない。実際、ジョン・レノンやビリー・ジョエルのいくつかの楽曲は、かつてのオールディーズへの“オマージュ”であることは誰もが認めていること。
そうしたわかりやすい例はまだいいが、HIP HOP系が積極的に取り入れる“サンプリング”などになると複雑だ。過去の楽曲のメロディや歌詞のフレーズをそのままに使用したり、原型をとどめないほどに加工して利用する。そうなると、パクリやオマージュではなく、そうしたスタイルの音楽なのだとでも言うしかなくなるのではないか。サンプリングと言うべきか“カバー”と言うべきかよくわからない場合もあり、パクリやオマージュ、パロディ、インスパイア等々、いろいろな表現はあるにせよ、最後は創作するアーティストと享受する側のユーザーとの信頼関係に行き着くようにも思われる。
“パクリ”と“模倣” 一般ユーザーの7割が明確に定義付けできない
ORICON STYLEでは、10代から50代の男女を対象に、『“パクリ”と“模倣”の区別を明確に定義付けできますか?』という調査を実施。その結果、【できる】が27.6%、【できない】が72.4%と「定義付けできない」が7割を超えた。「この世にあらゆるデサインが存在し、唯一無二であることは困難。故意に真似をしたのか、たまたま似たのかは未知数」(東京都/20代/女性)、「パクリと模倣の境界線がはっきりしない」(愛知県/20代/女性)といった声が大多数を占めた。
そうした“境界線”の難しさを知っているからこそ、先の大物芸人たちのような発言が出てくるのだろうし、また“境界線を見極める能力”こそが、今後の芸能界で生き残るための必須条件になるのかもしれない。
(文:五目舎)
あなたは“パクリ”と“模倣”の区別を明確に定義付けできますか?
【明確に定義付けできない】主なコメント
・「パクリと模倣の境界線がはっきりしない」(愛知県/20代/女性)
・「人のアイデアが、完全なるオリジナルであることはそうそうないから」(大阪府/20代/女性)
・「意識してマネしたか、どこかで聴いたり見たりしていたものを、潜在的に覚えていてその影響を無意識のうちに受けてできたものか区別できないような気がする」(福岡県/20代/女性)
・「ハッキリと自分の考えが正しいかは確信持てない」(神奈川県/30代/女性)
・「似ているものもたくさん出回っているし、よくわからない」(北海道/40代/女性)
・「参考にした程度というものと、完全に真似したものというものの、区別がつかないから。人によって見解が分かれるような気がします」(玉県/40代/女性)
・「人によって、判断基準が違うと思うから」(大阪府/40代/男性)
・「アレンジに独自性があるかどうかと思うが、よくわからない」(京都府/50代/男性)
・「何を持ってパクリと模倣の区別を認識するのか、がわからない」(群馬県/50代/男性)
【明確に定義付けできる】主なコメント
・「パクリは、元にあるものを自分のオリジナルを加えていないもの。模倣は、元にあるものに自分の感性を加えたもので、自分の感性(意見)を入れているか入れていないかの違い」(神奈川県/30代/女性)
・「過去の名作に倣っていることを作品紹介に載せるなどして公にしている」(大阪府/30代/女性)
・「模倣は参考になるものを開示しプロセスをはっきりさせる。パクリは悪意のもと完全にコピーし利益をえる」(群馬県/50代/男性)
・「著作権を尊重しているかどうか」(愛知県/50代/男性)
【調査概要】
調査時期:2015年9月28日(月)〜30日(日)
調査対象:合計500名(自社アンケート・パネル【オリコン・モニターリサーチ(外部サイト)】会員10代、20代、30代、40代、50代の男女)
調査地域:全国
調査方法:インターネット調査