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活動休止経て紆余曲折のSING LIKE TALKING、結成30周年のいま

解散という選択肢はなかった

――6年の間に解散という選択肢は頭になかったんですか?
佐藤 ないですねぇ。誰かがやめれば解散だと思ってたけど。
藤田 僕はどっちでもよかった(笑)。というか「解散します」って宣言しちゃうと、そこから解散コンサートなりツアーなりあるわけじゃないですか。そういうのもあまり考えられなかったし。
佐藤 記念的なものに僕ら、本当に興味ないんです。10周年も20周年もやってないし。一昨年にデビュー25周年はやりましたけど、基本的に僕らの場合、ずっと活動しなければそのまま解散って感じだと思いますよ。
藤田 それに、やっぱどっかで1%ぐらい、「またやれる日がくるかもしれない」的な可能性はどっかにありまして。
佐藤 それがあったから再始動したんです。じゃなきゃ、誰かが辞めてますって。
西村 でも事務所からは何度も「このままどうするんですか? いっそ解散したほうがいいんじゃないですか?」って言われたよね。
佐藤 「いっそのこと」の意味がわからない。なんで「いっそのこと」解散しなきゃいけないんだっていう(笑)。

――ははは(笑)。ちなみにプライベートでもみなさんは、記念日的なものに興味がないんですか?
佐藤 まったくないです。誕生日も興味ない。でも最近はiPhoneで出てくるんですよね。「明日は藤田千章さんの誕生日です」って(笑)。知っちゃったら無視するのもアレなので、この1〜2年はおめでとうメールを送るようになりましたけど。

――アーティストさんによくある、レコーディング中のバースデーサプライズとかもない?
佐藤 ないないない。ファンのTwitterとかで「今日は千章さんの誕生日ですよね、お祝いするんですか?」とか、きますけど(笑)。でもサポートメンバーやスタッフの誕生日はちゃんと盛り上げますよ。
藤田 あと、たまたまライブと誕生日が重なったりしたら、スタッフがやってくれます。でも、僕ら3人の間では、わざわざやらない。
西村 僕、近所の飲み屋でも、「今日が誕生日なんだ」って言ったことないなぁ。照れくさくて言えないんですよ、そういうのって。「おめでとう」って言ってもらうのを待ってるみたいでしょ。
佐藤 しかも誕生日って知られると、いっぱいメールとかくるから、それに全部返さないといけない。だったら知られないほうがいいかなと(笑)。
藤田 だから女子にはモテないですよ(笑)。

――女子にもやらないんですか?
藤田 そもそも記念日ってものを、全然覚えてないですから。でも言われたらやりますよ。
佐藤 自分のカミさんにはやります。やらないと、その後が大変だから。機嫌がよくなってもらう、いいチャンスでありますし(笑)。

――話は戻りますが、活動停止期間も乗り越え、30年間、バンドを続けてこれた秘訣は何だと思いますか?
佐藤 スタイルにこだわらないところじゃないでしょうか。それこそ今の記念日の話と同じで、解散するなら解散コンサートやるとか、何年かぶりには記念のCDを出さないといけないとか、そういう概念を持たないっていうか。例えば欧米の長いバンドとかって、第1期、第2期、第3期とかあって、メンバーがどんどん変わっていったりするでしょ。彼らの場合、バンドというより一組織で、じゃあ、辞めてメンバーと仲が悪いかっていったらそうでもなくて。そういうバンドって日本ではほとんどないけど、スタイルは自由でいいっていう意識はすごくありますね。自分たちがやりたくなければ休むし、やりたくなればやるし……っていうことだけでいいのかなと。

――音楽へのこだわりはあるけれども、スタイルにはこだわらないと。
佐藤 そうですね。長くやっていれば、その時々の形が生まれるだろうから、それに素直に従っていけばいいというか。じゃないと変に力の入った状態になってしまう。音楽に関しても生演奏じゃないといけないとか、打ち込みのほうが今っぽいとか、そんなことじゃなくて、単純にいま2015年を生きていて、自分が一番カッコいいなと思うサウンドであれば、生でも打ち込みでも、ロックでもソウルでも何でもいい。自分たちに刺さるものを表現すればいいと思うんですよ。

――では、世の中の流行り廃りには興味がない?
佐藤 いや、世の中のムーヴメントとか、世界で流行ってる音楽に関しては、僕はものすごく興味がありますよ。つねに『グラミー賞』がどうなるのかとか注目してますし。音楽ってものの発展とか広がりとか、そういうものを感じる意識が自分の内面にちゃんとあるかどうか。それを確認するためには音楽だけじゃなく、世界の動きを見ていかないといけないと思っているんです。だから、自分たちらしくいるために周りを遮断するってことは絶対にしない。周りのことに360度目を向けつつ、自分たちがそのなかにフラットに溶けているか。巻き込まれるんじゃなく、溶けているかってことはいつも思うようにしてますね。

――「巻き込まれるのではなく、溶けていく」というのは、時代や周囲とつねにニュートラルに関わるということ?
佐藤 そうですね。でも巻き込まれそうになったり、ぶつかることはありますよ。365日、その状態といってもいい。でも僕らの場合、そこで距離をとるのは自分たちに愛情がない人間だけで、愛情さえあればさまざま意見とか、むしろ僕らと違う意見を持った人ほど周りにいて欲しいと思っています。
藤田 音楽に対する考え方ってそれぞれ違うし、正しいとか間違ってるって話ではないので、あえて揃えようっていう意識がないんです。むしろ違うほうが広がっていくので、揃えないことはすごくいいことだと思っていて。
佐藤 違いは広がりですからね。
西村 だから「SING LIKE TALKINGだからこういう音楽作らなきゃいけない」っていうのも、まったくないんです。SING LIKE TALKINGに合わせて自分たちが演奏したり歌うわけではなく、3人が揃えば必然的にSING LIKE TALKINGになるわけで。そのなかでそれぞれ興味あることを持ち寄って、音楽を作る。それがイコール、SING LIKE TALKINGなんですよ。
藤田 ライブとか見てもらうと、それがすごくわかりやすく出てますよ。いろんなサポートミュージシャンの方がいるけど、その上に僕らが乗っかれば僕らの音になっちゃう。それと制作もあまり変わらないんじゃないかな。

スタイルや方向性へのこだわりはない!3人揃うと自然と枠はできるもの

――バンドカラーにこだわるバンドは多いですけど、SING LIKE TALKINGはその逆をいっていると。
西村 こだわらないんじゃなくて、そういうやり方でやってきたのが「SING LIKE TALKINGのカラー」なんです。
佐藤 まあ、こだわってることがあるとしたら、「こだわらないことに、どこまで徹底的にこだわれるか」ってことですかね。そこは若い頃からすごく思っていて、ポール・サイモンもサイモン&ガーファンクルの後に、ブラジルやアフリカに行って、その振り幅たるや大変なもんじゃないですか。つまり、そのときにその人がやりたいと思ってやってきたことが繋がり、結果、それが歴史になるわけで、僕らが目指す音楽の自由さ、素晴らしさってそういうところなんですよ。だから大事なのはどんな音楽を作るかってことよりも、最終的にどれだけ「こだわらない」スタンスでいられたかどうか。それがすなわち僕らにとっての「音楽」みたいな。そういう意識はありますね。

――世界観が大きいですね。
佐藤 そのほうがラクなんです、絶対に。自分たちのスタイルはこうだから、方向性はこうだからってこだわると、その分、精神的に疲れると思う。枠はできるものであって作るものじゃない。3人のメンバーがいれば、そのメンバー以外の枠には絶対ならないわけで。その中で最大限のことをやるためには、3人それぞれの中に枠を作らないようにしていきたいんですよ。

――今回のアルバムには、新録曲3曲も入っていますが、どれも風通しの良い軽やかな印象があって。「こだわらないことへのこだわり」という今の話がすごく曲とリンクするなと思いました。
佐藤 制作はいつもどおりベーシックですよ。僕が曲を書き、千章が歌詞を書いて、最後に西村さんに「飛ばしてハジけてくれればいい」って伝えただけ(笑)。西村さんのギターが入れば、それだけで明快にSING LIKE TALKINGの曲になりますからね。

――1曲目「Ordinary」は“普通”という意味のタイトルですが、どんな想いで書かれたんですか?
佐藤 あ、歌詞のことは千章に聞かないほうがいいですよ。絶対に話さないから(笑)。

――資料には「僕が最近、日常で思ってることを描いてみました」と、コメントを載せてくれていますが。
藤田 いやー、書きようがなくて。何となく自分を取り巻く状況とか、そういうものを書いておこうかなと。あまり参考になさらずに……。
佐藤 なかなか珍しいですよ、ここまで千章が解説を書くのは。インタビューでは絶対にしゃべらないですもん。
藤田 僕が話した瞬間にそういう風に聴いちゃうでしょ。そうなって欲しくないんですよ。勝手に聴いてもらいたいんです。「こんなん出ました、いかがでしょ」ぐらいな。
佐藤 そもそも僕らって、曲の方向性とかも、3rdアルバムぐらいからないんですよ。そのときにできた曲、そして、それがいいなと思ったらレコーディングしたいし、イマイチって思ったらしないみたいな。今回はバラードでいきたいってなっても、いいバラードができなかったから、意味がないですし。で、今回は自分がいいと思ったものがたまたま軽やかだったんでしょうね。これが半年ずれてたら、重々しいハードロックだったかもしれない。

――なるほど。
佐藤 でも何がこようと、その曲が新しいSING LIKE TALKINGです。なぜなら常にそれは“今”の僕らであって、一番新しいものだから。逆に過去のものをやろうと思ってもできない。あの頃のこんな感じはSING LIKE TALKINGっぽいかなって作っても、絶対にいい曲になんかにならないですから。しかも聴いた人には「過去に戻ってる上に相変わらず『Spirit Of Love』で終ってるな」って思われておしまいになってしまう。それなら、「この曲、『Spirit Of Love』よりいいかどうかはわからないけど、あきらかに今までのSING LIKE TALKINGとは違う。ってことは前に進んでるんだ」って思ってもらったほうがいい。その上で曲がいいか悪いか感じるのは個人の感想ですからね。

――2曲目の「Travelers」はまさにそんな3人の姿が浮かぶ曲ですが……多分、関係ないんですよね?(笑)
藤田 はい、まったく関係ないです(笑)。
佐藤 少なくとも僕らはね、自分たちの今を暗喩で表現するって感覚はなくて。歌に関してはアジテーションとか表明とか、アナウンス的なものってないんですよ。ま、インタビュアーさん的には深読みしたくなると思うんですけど。

――はい(笑)。
藤田 だからホント、申し訳ないです。話せることがなくて(笑)。

――いえいえ。今回のアルバムはレーベルの枠を超えて実現した、まさに25年の集大成といえる作品ですが、通して聴きました?
佐藤 実は僕は一切、聴いてないんです。最初の3曲ぐらいテストで上がったものはチェックしましたけど、あとはサウンドオタクの千章さんにすべておまかせしてまして。

――あえて聴いてないと。
佐藤 そう。というのも、聴き手の人たちはCDを買って初めてその曲と出会うけど、僕ら作り手は作品ができた頃にはもう、飽きるほど聴いちゃってるじゃないですか。でもいつか自分たちの作品を、まるでファンの人が初めてCDを買って聴くような感覚で聴いてみたいと思っていて。で、今回はその抜群のチャンスだなと思って一切聴いてない。盤が上がってきたときに「SING LIKE TALKINGってこういう音楽なんだぁ」っていう感覚を味わいたいんです。まあ、千章がいたんでできたんですけど。
藤田 僕は何十時間も聴いちゃいましたよ。もう当分、聴きたくない(笑)。
西村 僕は抜粋して聴きました。

――抜粋ですか?
西村 これ、どういう曲だったったけ?って、忘れちゃってるのだけ聴いたので(笑)。
佐藤 でも今回はスタッフがレーベルの枠を超えるっていう、通常ではできないようなことを実現してくれて。そしてまた、ムリだなと思っていた各アルバムのリマスターも出ることになって、本当に幸せなこと。ありがたいなと思っています。

――ちなみに次にアニバーサリーをやるとしたら何年後でしょ? 記念日には興味のないSING LIKE TALKINGですが(笑)。
佐藤 デビュー30周年はやりたいなと思っています、感謝の意味で。実は“結成30周年”は今回のアルバムにとってつけたようなもので、僕らはあまりわかってない(笑)。なので一昨年の25周年に続き、デビュー30周年の2018年には、また何かやりたいと思っています。

(文:若松正子)

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