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松坂桃李『いつも胸に秘めている個人的な想い』
心の潤いがお芝居につながる部分は大きい
松坂台本をもらったとき、莉子と一緒にパリに行く小笠原の行動に、原作との違いを感じました。原作ではすでにふたりの関係性はほぼ出来上がっているため、彼の同行にも違和感がなかったのですが、今回の映画における小笠原の目線で言えば、密着取材の対象者として興味があるとはいえ、出会って間もない莉子さんに「じゃ、パリまで付いて行きまーす」とはなかなか言いづらい(笑)。だからこそ、そこに至るまでのプロセス、彼の記者としての探究心を丁寧に表現することが非常に大事になると捉えました。
――平凡な社員記者だった小笠原の人生は、莉子との出会いによって大きく変わります。思いがけない大事件に巻き込まれるなかで、記者という仕事のおもしろさに目覚めていきます。
松坂記者になり、ぬるま湯につかっていた期間も5年ほどありましたが、彼なりにやる気はあったと思うんですよ(笑)。そんななかで凜田莉子という人物と出会い、彼女の鑑定眼に魅せられるうちに、取材の楽しさに気づかされていく。(記者としてのやる気に)火がついてからの、何事にも真剣に取り組む姿勢は、小笠原の魅力だと思います。いち観客として共感できるといいますか、人として応援したくなる。喜んだり、落ち込んだり、悩んだりと、映画のなかではどの登場人物より感情の波が激しい役どころでした。莉子は最初から完成された人物で、そこから一度下がってまた上がっていきますけど、小笠原は一段下のスタート地点から少しずつ上がっていく。そんなふたりの対比もおもしろかったですね。
――2009年に『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビューして以来、ぬるま湯につかるどころか、映画、ドラマ、CM、舞台と幅広くご活躍されていますが、松坂さんは俳優という職業をどう捉えていますか?
松坂観てくださる方に感動を与えたり、何らかのメッセージを伝える役割が多くを占める職業ではありますが、個人的には、つながりの仕事だと思っています。さまざまな人と出会い、つながり、再会するなかで、いろいろな刺激を受け、豊かになっている実感があります。役を通して、もうひとつの人生を体験できる魅力的な職業でもありますね。今回、小笠原の人となりを考えるうえで、記者としての探究心をひとつのキーワードとして捉えたのですが、(探究心は)俳優にとっても大事な資質だと思います。感受性も大切ですね。アンテナを張って、いろいろなところに興味を持ち、心の間口を大きく開いて、喜怒哀楽の感情を多面的に膨らませる。心の潤いがお芝居につながる部分は大きいと、最近よく感じます。
見たことがない表情、空気感を引き出したい
松坂初めて小笠原が莉子の店を訪ねて、彼女が鑑定家に切り替わる瞬間を目の当たりにしたシーンはとても印象に残っています。実際にその撮影シーンで、初めて綾瀬さんとお芝居をしました。普段は天真爛漫な綾瀬さんですが、カメラが回ると一瞬で莉子の顔に変わるんです。切り替えの巧さ、集中力の高さ……センスの塊だなって感じました。
――例えば天真爛漫さなど、綾瀬さん本人の資質と莉子のキャラクターが重なり合うことで、奏功する部分も大きかった?
松坂小笠原の原動力は莉子ちゃんの存在なので、撮影現場では常に莉子の鑑定眼ならぬ(笑)記者の視点で、彼女の魅力について探っていたのですが、綾瀬さんにしかできないと感じた場面がたくさんありました。例えば小笠原は登場しないのですが、フランス語をマスターするために莉子が記憶術を披露するシーンでは、本の匂いを嗅いだり、泣いたり笑ったり、仕草や表情の一つひとつが見ていて飽きないんですよね。記者として、ひとりの人間として接するなかで、莉子の存在はとてつもなく大きく、それが小笠原の熱量につながっていったというのかな。「僕じゃなきゃ莉子さんを救えない、何かしてあげたい!」という気持ちが、パリへ行ったり、事件を解決するという大きな行動の原動力になるわけですからね。綾瀬さんが莉子を演じてくれて、本当に良かったと思っています。
――これまでにも樹木希林さんや竹内結子さん、堀北真希さんらが扮するヒロインたちを、時に繊細に、時に力強く支えてきました。ヒーローを演じるときと比べて、現場での居方などに違いはありますか?
松坂自分のなかではそれほど意識しているつもりはありませんが、相手の女優さんの今まで見たことのない表情やニュアンス、空気感が出ると楽しいなという個人的な思いは、胸に秘めています。ただ、そういう部分を引き出したくて現場にいるのではなく、あくまで役として、結果的にそうなっていたらいいなという程度ですが。
――お互いの足りない部分を補い合うように、ともに成長していく莉子と小笠原。原作以上に力強いバディ感を醸し出した、極上のミステリーエンターテインメントの感想は?
松坂小笠原もそうですが、普通に生活するなかで鑑定家と出会う機会ってなかなかありませんよね(笑)。完成作を観ていて、小笠原のような日常的な存在が近くにいることで、もしかしたら莉子みたいな鑑定家が本当に存在するんじゃないかって思えてきたんです。登場人物全員を虜にし、まるで登場人物のように存在する『モナ・リザ』の魔力に翻弄され、人は死なないけれどハラハラし通しのミステリーに、そんなファンタジックな要素も加わってすごくおもしろかったです。
――4月に行われた完成披露会見で、日本映画として初めてロケ撮影が許可されたパリのルーブル美術館で見た『モナ・リザ』の印象について「生きた絵画」と表現されていました。最後に“莉子の微笑”を、小笠原記者の視点で表現するならば?
松坂答えをひとつに絞らせない笑顔なんですよね。どんどん彼女のことを知りたくなるような……まさに『モナ・リザ』と同じ。大変興味深い共通点です(笑)。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:片山よしお)
万能鑑定士Q −モナ・リザの瞳−
関連リンク
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・『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』公式サイト