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20世紀最大の謎といわれる未解決事件『三億円事件』を題材にした映画『ロストクライム −閃光−』が3日に公開された。商業映画として11年ぶりに作品を発表する伊藤俊也監督に同作への思いを聞いた。
『女囚さそり』シリーズの生みの親であり、『誘拐報道』『花いちもんめ』『プライド・運命の瞬間』といった社会派作品を数多く手がけてきた伊藤監督。「犯罪事件には社会の歪みとか人間の深みを照らし出す作用がある。様々な事件に強い関心を持ってきた」という中でも、リアルタイムで事件を知る『三億円事件』には特別な感情があったという。
「事件としては単純明快。偽警官が偽白バイに乗って現れ、現金輸送車に乗っていた人たちを自ら退出させてから、車ごと現金を奪い去った。誰かの命を脅かしたわけでもなく、奪われたお金も保険金で戻ってきた。当時は、“きれいな犯罪”という言葉が出てきたり、権力の象徴でもある警察の鼻を明かした犯人は一躍時代のヒーローのようにもてはやされた。事件そのものに、好奇心をかきてたるエンターテインメント性が備わっていた」
事件はとっくの昔に時効を迎え、真相は今もって闇の中。世紀の劇場型犯罪は様々な犯人説があり、幾度も映像化されてきた。伊藤監督が、今、改めて『三億円事件』を描こうと思ったのはなぜか。
「永瀬隼介さんの原作小説『閃光』(角川文庫刊)はフィクションではあるが、ジャーナリスト出身ということもあって、執拗で緻密な取材が行われたことがうかがえた。三億円事件に関するさまざまな謎 ――犯人は誰か、真の動機は何か、奪った現金はどうなったのか、なぜ事件は未解決のままなのか―― に対する1つの回答として納得できる。これが三億円事件の決定版として新しく映画化する意味もあると、思った時点でもう自分が撮る気満々で乗り出していました」
◆父と子の相克がもう一つのテーマ
物語は現代において発生した1件の殺人事件を発端に、所轄署の若手刑事・片桐(渡辺大)と定年間近の刑事・滝口(奥田瑛二)が、34年前、犯人グループをほぼ特定しながら、解決できなかった三億円事件との関わりを調べ始めることから展開する。ところが、事件の核心に迫ろうとする2人の刑事に立ちはだかったのは、警察だった。
同作は、三億円事件の単なる事件解決ドラマに終わらず、むしろ軸になっているのは「時代を超えて繰り返されるテーマ、父と子の相克の物語」と伊藤監督が言うように、様々な父子が登場する。実行犯と言われた青年とその父、被害にあった現金輸送車のガードマンとその息子、そして若手刑事とベテランの老刑事のコンビも擬似父子として見ることができる。
片桐を演じた渡辺は、いまやハリウッドでも活躍する俳優・渡辺謙の長男だが、今回の現場では渡辺と奥田が“擬似父子”のようなよい関係ができていたという。「奥田さんは渡辺謙さんが、今の大くんと同じ26歳のころに『海と毒薬』(熊井啓監督、1986年)で共演なさっている。そういう縁もあって、非常に愛情深く大君を受け止めてくれた。この作品で大くんを一人前にしてやろうという思いもありました」
渡辺が演じる片桐は、今時のごく普通の青年。最初は反発していたベテラン刑事・滝口に引っ張られるようにして事件に関わっていき、本当の“闘い”を覚えていく。クライマックスではオーバーランしてしまう先輩刑事に代わって、片桐が主導権を握るようになるまで成長を見せる。「役柄の上での成長に合わせて、大君自身も俳優として成長してくれることを願いつつ、大君にとって大変ふさわしい作品になったのではないかと思っています」と伊藤組の家族のような温かいきずなを感じさせた。
さらにもう1点。三億円事件が起きた1968年について。伊藤監督は同作を通して、事件のあった時代を「ノスタルジックに語りたくない」と言う。この年は、1月に東大紛争が始まり、海外のチェコスロバキアでは“プラハの春”が始まった。2月には劇場型犯罪の最初のケースといわれる金嬉老事件(寸又峡事件)があり、4月には米国で牧師のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺され、5月にフランスで五月革命が勃発するという激動の1年だった。同作のストーリーにも関係する新宿騒乱事件が起きたのは同年10月、そして12月10日に三億円事件は起きた。
「ベトナム戦争が末期症状を呈してきた中で、反米的な動きが世界中に広がり、日本でも後の第二次安保闘争(1970年)に向かっている時代。その渦中に青年期を過ごした人たちが今の団塊の世代で、ある種のノスタルジーを伴って語られることが多い。しかし、それに対して私は批判的だ。今回の作品では彼らはむしろ生きながらえてしまった人たちであり、登場人物の一人が妄想の中で犯人に言うように、『生きながらえた私たちを撃ちに来たのね』に、むしろ映画の真意はあると言っていいんじゃないかな」
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20世紀最大の謎といわれる未解決事件『三億円事件』を題材にした映画『ロストクライム −閃光−』が3日に公開された。商業映画として11年ぶりに作品を発表する伊藤俊也監督に同作への思いを聞いた。
『女囚さそり』シリーズの生みの親であり、『誘拐報道』『花いちもんめ』『プライド・運命の瞬間』といった社会派作品を数多く手がけてきた伊藤監督。「犯罪事件には社会の歪みとか人間の深みを照らし出す作用がある。様々な事件に強い関心を持ってきた」という中でも、リアルタイムで事件を知る『三億円事件』には特別な感情があったという。
事件はとっくの昔に時効を迎え、真相は今もって闇の中。世紀の劇場型犯罪は様々な犯人説があり、幾度も映像化されてきた。伊藤監督が、今、改めて『三億円事件』を描こうと思ったのはなぜか。
「永瀬隼介さんの原作小説『閃光』(角川文庫刊)はフィクションではあるが、ジャーナリスト出身ということもあって、執拗で緻密な取材が行われたことがうかがえた。三億円事件に関するさまざまな謎 ――犯人は誰か、真の動機は何か、奪った現金はどうなったのか、なぜ事件は未解決のままなのか―― に対する1つの回答として納得できる。これが三億円事件の決定版として新しく映画化する意味もあると、思った時点でもう自分が撮る気満々で乗り出していました」
◆父と子の相克がもう一つのテーマ
物語は現代において発生した1件の殺人事件を発端に、所轄署の若手刑事・片桐(渡辺大)と定年間近の刑事・滝口(奥田瑛二)が、34年前、犯人グループをほぼ特定しながら、解決できなかった三億円事件との関わりを調べ始めることから展開する。ところが、事件の核心に迫ろうとする2人の刑事に立ちはだかったのは、警察だった。
同作は、三億円事件の単なる事件解決ドラマに終わらず、むしろ軸になっているのは「時代を超えて繰り返されるテーマ、父と子の相克の物語」と伊藤監督が言うように、様々な父子が登場する。実行犯と言われた青年とその父、被害にあった現金輸送車のガードマンとその息子、そして若手刑事とベテランの老刑事のコンビも擬似父子として見ることができる。
片桐を演じた渡辺は、いまやハリウッドでも活躍する俳優・渡辺謙の長男だが、今回の現場では渡辺と奥田が“擬似父子”のようなよい関係ができていたという。「奥田さんは渡辺謙さんが、今の大くんと同じ26歳のころに『海と毒薬』(熊井啓監督、1986年)で共演なさっている。そういう縁もあって、非常に愛情深く大君を受け止めてくれた。この作品で大くんを一人前にしてやろうという思いもありました」
渡辺が演じる片桐は、今時のごく普通の青年。最初は反発していたベテラン刑事・滝口に引っ張られるようにして事件に関わっていき、本当の“闘い”を覚えていく。クライマックスではオーバーランしてしまう先輩刑事に代わって、片桐が主導権を握るようになるまで成長を見せる。「役柄の上での成長に合わせて、大君自身も俳優として成長してくれることを願いつつ、大君にとって大変ふさわしい作品になったのではないかと思っています」と伊藤組の家族のような温かいきずなを感じさせた。
さらにもう1点。三億円事件が起きた1968年について。伊藤監督は同作を通して、事件のあった時代を「ノスタルジックに語りたくない」と言う。この年は、1月に東大紛争が始まり、海外のチェコスロバキアでは“プラハの春”が始まった。2月には劇場型犯罪の最初のケースといわれる金嬉老事件(寸又峡事件)があり、4月には米国で牧師のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺され、5月にフランスで五月革命が勃発するという激動の1年だった。同作のストーリーにも関係する新宿騒乱事件が起きたのは同年10月、そして12月10日に三億円事件は起きた。
「ベトナム戦争が末期症状を呈してきた中で、反米的な動きが世界中に広がり、日本でも後の第二次安保闘争(1970年)に向かっている時代。その渦中に青年期を過ごした人たちが今の団塊の世代で、ある種のノスタルジーを伴って語られることが多い。しかし、それに対して私は批判的だ。今回の作品では彼らはむしろ生きながらえてしまった人たちであり、登場人物の一人が妄想の中で犯人に言うように、『生きながらえた私たちを撃ちに来たのね』に、むしろ映画の真意はあると言っていいんじゃないかな」
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2010/07/05