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「映画監督」ともてはやされる違和感がきっかけ



 映画『ディア・ドクター』(6月27日より公開)の西川美和監督が今月上旬、都内でORICON STYLEの取材に応じ、「前作の『ゆれる』を予想以上に多くの方に観ていただけて、映画監督というポジションにいる自分への違和感を覚えたのがきっかけ。次はニセモノをテーマに映画を作ろうと考えた」と、同作に込めた思いを明かした。


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◆医師というのは不思議な存在だと思っていた


 落語家・笑福亭鶴瓶にとって映画初主演となった同作の主人公・伊野は医者。住民の半分は高齢者という過疎の小さな村で、ただ1人の医者として、すべてを一手に引き受け、献身的に働いていた・・・。


 この設定について西川監督は、「かねてから医師というのは不思議な存在だと思っていた」。「人の健康、命というものを左右できる、決して失敗の許されない専門職でありながら、誰もがある種の親近感を抱いている」ところが、観客も抵抗なく物語に入っていけるのでは?と考えた。


 制作にあたっては「たまたま企画を練っていた時期に、自分が病気になり、都内の大病院で人生初の入院、手術を経験した」ことも後押ししたという。そして、いくつかの診療所に泊まり込み、僻地医療の現場に立ち会うなど、かなり綿密な取材を行っている。そこで実感したのは、「都会の大病院の医師に求められるものと僻地の診療所の医師に求められるものは、そもそも質が全然違う」ということ。「個々の医師のパーソナリティの問題だけではないところが面白いと思いました。僻地で働いている医師に聞いたら、口を揃えて『志の高い人ほど続かない』と仰っていた。『えっ?』と疑いたくなるような、ショックな言葉ですが、きれいごとだけでは通用しない現実が、そこにはあるんです」と話す。


 今回のテーマはニセモノ。西川監督は、医者のニセモノすなわち医師免許を持っていないのに医療行為を行って逮捕された過去の事件についても調べたという。「同僚の医師からも、患者さんからも評判のいい先生が多かったんですよね。なぜか。ニセモノであることがバレないように一生懸命、最善を尽くしたからではないでしょうか。自分はニセモノではないかとソワソワしていたほうが、意外とまともで居られるのかなって思うところもある」


 都市と地方の医療格差、医師不足、高齢者医療といった社会的な問題意識を背景とする同作を、「曖昧なことを自分の目で、何もフィルターを通さずに見てほしい」と西川監督。「ホンモノかニセモノか、真実か嘘か、善か悪か、その分かれ目の基準が自分にあることはほとんどない。誰かが定義付けしたもの、法律だとか慣例だとかに従っているだけだったり、新聞報道やテレビのコメンテーターの意見にも流されやすかったり。だから、私は映画館に人を閉じ込めて、自分はどう思うのかということに、ちょっと気づいてもらいたい」と力強く話した。



◆私がこだわったのは、“自分のない男”


 主演を鶴瓶が務めることについては「“日本で一番顔を知られた男”だから、“鶴瓶の映画”と言われるのは正直キツイなって思っていた」という。その一方で、「想像できない可能性」も感じた、「半分賭け」だったようだ。そして出演依頼を鶴瓶が快諾した理由を、「初めての主演というのが魅力的だったようです」と明かした。


 撮影現場での鶴瓶に「師匠は脚本を全然、読まない(笑)。でも、すごくライブで、飲み込みが早い」と、西川監督も驚いた。「鶴瓶師匠は、伊野という別の人間を演じ切ってくれたと思っていました。しかし、最近、キャンペーンなどで鶴瓶さんとご一緒しているうちに、劇中の伊野と鶴瓶さんが実はすごく似ていると思うようになっていた」


 また「人を喜ばせたいという欲求が人一倍強い。でも、いわゆる『善人』かというとそうは言えない」と鶴瓶を評し、「伊野の人物像で私がこだわったのは、善人ではないけど、目の前の人に要求されたことに答えてしまう“自分のない男”でした。結局、似た人を選んでいたんだなぁ」と述懐した。


 同映画の試写上映の段階での評判は上々。西川監督は、「少しホッとしたかな。この作品、(興行的に)当てなきゃいけないみたいなんですよ」と記者を笑わせたが、自己採点は「65点くらいかな。平均点をちょっと超えているって感じ。優良可でいえば、ギリギリ可」と厳しい姿勢を貫いた。


西川美和

【PROFILE】
1974年、広島県生まれ。大学在学中に是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(1999年)にスタッフとして参加。その後、多くの監督のもとで助監督などを経験。2002年『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビューを果たす。2003年、NHKハイビジョンスペシャルでドキュメンタリーと架空のドラマを交差させた異色のテレビ作品『いま裸にしたい男達/宮迫が笑わなくなった日』を発表し、注目される。2006年、長編第2作となる『ゆれる』は日本公開に先立ってカンヌ国際映画祭の監督週間に正式出品され、高い評価を得た後、国内で異例のロングランを記録し、主要映画賞を総なめにした。『ディア・ドクター』は3年ぶり3作目の長編。
『ディア・ドクター』

【ストーリー】
山あいの小さな村から1人の医師が失踪した。警察がやってきて捜査が始まるが、驚いたことに村人は、自分たちが唯一の医師としてしたってきたその男についてはっきりとした素性を何一つ知らなかった。やがて経歴はおろか出身地さえ曖昧なその医師の不可解な行動が浮かび上がってくる。

脚本・監督:西川美和
原作:西川美和『きのうの神さま』(ポプラ社)
出演:笑福亭鶴瓶瑛太 余貴美子 香川照之 井川遥 八千草薫
6月27日(土)より全国ロードショー
(C)2009『Dear Doctor』製作委員会
公式サイト:http://www.deardoctor.jp/
『きのうの神様』

冒頭の一編は、僻村(へきそん)を出て医師を志す少女。離島に臨時赴任してきたやさぐれ医者。エリート外科医の妻の日常。医者への夢破れ家を出た兄と再会する弟。映画『ディア・ドクター』のため医療現場を取材した中から生まれた短編小説集。映画のスピンオフとしても読めるようになっている。

著者:西川美和
出版社:ポプラ社
発行:2009年4月
価格:1470円 (本体1400円+税)


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