思ってもないことに出くわすチャンスを演出したい
5月22日〜29日、東京・渋谷のユーロスペースにて、3月に発表された映画館大賞の特集上映が行われる。興行収入によるランキングではなく、映画館で働いているスタッフが「スクリーンで観てもらいたい」と思う映画はどれか。そんなコンセプトのもと、全国の独立系映画館110館の協力を得て、映画館スタッフの投票で2008年のベスト映画が決定した。その上位作品の中から選りすぐりの7作品を監督や主演俳優らによるトークイベント付きで上映する。
映画館大賞の杉原永純実行委員長に“映画館大賞”創設の理由、そして目指すゴールについて語ってもらった。
杉原永純実行委員長 映画館大賞第1位に輝いた『ダークナイト』TM & (C) DC Comics (C) 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved | |
杉原:『本屋大賞』とコンセプトは同じ。評論家や映画関係者が選ぶ既存の映画賞とも、ファンの人気投票とも違う映画館発のアワードがあってもいいのではないかと考えていました。その矢先に、2008年に映画ファンの投票で日本映画のナンバー1俳優を選ぶ『映画館大賞』(主催・ポレポレ東中野)が発表され、僕らが考えていた作品を選ぶアワード企画を持ち込む形で、実現にこぎつけました。
――具体的にはどのような作業をしたのですか?
杉原:映画館に1館ずつ電話をかけて、ファックス送って、協力を呼びかけました。200館強の独立系の映画館に声をかけて、投票してくれたのが110館。半分以上返ってきた。これは初の試みとしては、上出来。映画館側も今のままではダメだろうという漠然とした危機感を共有していると思いました。
――危機感とは?
杉原: 2008年は日本国内で邦画、洋画を合わせて約800本もの作品が公開されており、もう飽和状態。上映期間も短縮化しているし、大規模な宣伝を行っている作品とそうでない作品の格差も広がっている。それでなくても、メディアの多様化で映画館離れが進んでいるというのに、いい作品もそうでない作品も濁流に飲み込まれるように人々の目に留まる機会が少なくなって、無駄に消費されている状況。このままでは映画館離れを加速させるだけだし、日本の映画文化そのものが貧弱になってしまうという危機感を映画館が抱いていることが、よく分かりました。だから、映画館大賞の目的の一つは、映画館そのものを盛り上げて行くことでもあるんです。
――映画は映画館で観て欲しいということですか?
杉原:はい。映画館で映画を観るメリットってなんだろうと考えると、知らなかった価値観に触れることができることだと思う。映画館で観ると途中でビデオのように巻き戻せないし、料金もそれなりにするし、映画が始まったら最後まで見せてしまう“力”がある。レンタルショップで借りたDVDを観るのとはその点が違う。最初はつまらなかったけど、最後まで見たらちょっと風景が違って見えたり、物事の考え方が少し変わってきたり、そうさせる力が映画館にはあると思うんです。思ってもないことに出くわすチャンスを演出したい。
――今回の投票で決まったベストテン作品のラインナップを見て感じたことは?
杉原:結果的に1位はハリウッドの超大作の『ダークナイト』、僅差で2位だったのが日本のインディペンデント映画『ぐるりのこと。』でした。思いがけず、いい結果が出たと思っています。全く傾向の違う、対照的な2作品だけど、映画館で見てほしいと思わせるその一点で共通する何かがあるということ。興行収入のランキングでは取りこぼしてしまうだろうし、プロが選んだベストテンではこういう並び方にはならないと思う。映画館スタッフといっても、アルバイトもいれば、一人で何十年も映画館を守ってきたような人もいる、そのアマチュアリズムが魅力。だからこそ、個人的に信用できるというか、映画の送り手の思いの詰まったランキングになっていると思う。今後はブラッシュアップを重ねながら、映画館大賞を継続していくことが課題でもあり、目標でもあります。
杉原永純(すぎはら・えいじゅん) 2008年第1回映画館大賞実行委員長。東京藝術大学 美術学部から大学院映像研究科へ進み、現在、博士後期課程で映像メディア学を専攻。映画館主と作る情報サイト・シネミライの企画運営に携わる。将来の夢は映画プロデューサー。ちなみに、杉原さんの1位は『クロバーフィールド』(マット・リーヴス監督)。 |
映画館大賞ベストセレクション アンコール上映スケジュール
料金ほか詳細 チケット/前売り券・当日券ともに1300円均一 会場/ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1−5) 上映時間/連日21:05よりレイトショー 上映に関する詳細/映画館大賞公式サイト |
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2009/05/15