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北野武、映画監督として「全然迷っていない」


常にオリジナルの世界観を描き出す北野武監督

芸術にとりつかれたひとりの人間を描く北野武監督の最新作『アキレスと亀』が9月20日より公開された。作品の評価にも興行にもしばられない北野監督は、マスコミなど周囲の声をよそに監督業について「オレ自身は全然迷っていない」とし、自らの映画監督としての立ち位置、ステータスについて語る。

常にオリジナルの世界観を描き出す北野武監督 

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■芸術にのめりこんだ男の芸術残酷物語


 『アキレスと亀』というタイトルは、足の速いアキレスがいつまでたっても亀に追いつけないという、古代ギリシアの数式のパラドックスから引用している。そんな本作で北野監督が主人公にするのは、成功することを夢みる画家。自らもこれまでに描いてきており、その絵を劇中で使用している。

「ヒマに任せて描いた絵がたまっちゃって、これを使って映画を撮ろうと思って。とても才能のある絵にはみえないから、売れない画家の話になっちゃった(笑)。絵は全部自分で画いた“本物”だけど、何十億円もするピカソとかと違って安いから(劇中で)燃やしてもいいやって(笑)」

 主人公は、裕福な家庭に生まれ、子供の頃、絵を褒められたことと、環境が一変したことをきっかけに、画家としての道を歩みはじめた男性。少年期、青年期、中年期と描かれていくその人生には、常に死と不幸が隣りあわせでつきまとう。そんなストーリーのなかで、主人公をそばで支え続ける女性(妻)が登場する。そして今度は夫婦ふたりで芸術にのめりこんでいく……。

「主人公は芸術という麻薬に侵されて、関わる人は皆、不幸になってしまう。カミさんもその1人。主人公はカミさんをひとつの道具くらいにしか思っていないんだけど、あるところで孤独感が沸いてきて、仲良くやりたいと思うようになる。表面的にはいろんな悲しいことがあっても、最後は2人で芸術をやれればいいかって感じてしまう」

■評価にも興行にもしばられない、北野オリジナルの世界観


献身的な主人公の妻役を演じる樋口可南子/(C)2008『アキレスと亀』製作委員会


芸術にとりつかれた真知寿(北野武)

 そんな女性が登場することで、本作のラストはこれまでの北野映画とは少し異なるエンディングを迎える。これに対しては“たけし節”が炸裂した。

「(エンディングは)2人で心中させちゃおうかと思ったんだけど、プロデューサーからやめましょう、もうちょっと夢を持たせましょうって言われたんでやめた。オレの映画はお客さんがいつも映画館から暗い顔して出てくるけど、今回は夢をもたせようって作戦で(笑)

 芸術をやっているだけで幸せという映画のメッセージは、映画監督として多くの作品を送り出し、世界で高い評価を受ける一方、日本では興行的に厳しい作品もあることから、自身に向けているもののようにも思える。そんな問いにはジョークを交えて本音(?)ものぞかせる。

「『TAKESHIS’』(2005年)でまるっきり評価がなくって、頭にきて『監督・ばんざい!』(2007年)を撮ったらもっと客が入んなくて。じゃあ普通にやろうって撮ったのが『アキレスと亀』。映画監督は映画を撮れるだけで幸せで、作品の評価や客の入りを考えるのはやめようっていう映画だから(笑)」

■外国で評価が高くて日本でウケないのがステータス


第65回ヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットに登場した北野武と樋口可南子

 『アキレスと亀』のなかで主人公は、世の中に認められず苦悩する。その姿は、近年の北野監督と重なってみえるという声もあるが、本人はそんな言葉を一蹴。“たけし節”全開で自らの立ち位置を語った。

「オレ自身は全然迷っていないの。オレの映画監督としてのウリは、外国の評価は高いけど日本では客が入らないことだから。なまじ入ってもらうと困るわけ(笑)。日本では人気ねえって散々いって悩んでるフリはしているけど。それは漫才師としてのステータスでもあるんだ。演芸場やライブではおもしろいけどテレビではダメとか、どこかにいいとこがあって一番大事なとこでウケていないというのが、アーティストの一番いいところなんだよ。一番金になりそうなところがダメで、マニアックなところでウケるというのがいいんだ。オレの映画もそういうことだと思っているんだけど、だんだんプロデューサーの笑顔がなくなってきて……(笑)」

 そして最後は自らフォローも……。

「いっとくけど、そんなに(オレの映画に)客が入っていないわけじゃないんだよ。まるっきり入ってなかったら次の映画なんて撮れないからさ。要はあんまり悩んでないってこと」

感情に音楽をつけようとしたらできなかった――梶浦由記
『アキレスと亀』の音楽を手がけたのは、アニメ映画やテレビなどで幅広く活躍するマルチ音楽プロデューサーの梶浦由記。今回の音楽はこれまでの映画とはまったく異なるアプローチで挑んだ。
「感情が観る人によってまったく違う映画で、悲しいんだけど、すごくシニカルな笑いが含まれていたりする。そこに悲しい音楽をベタに付けちゃうと、シニカルな部分が音楽で裏に隠れちゃうから、スゴく悩んで、とっかかりをつかむまで苦労しました。で、今回は感情ではなく絵(映像)に音楽をつけようと思ったんです。北野監督の絵(映像)には、独特なテンポ感とおもしろいリズム感があるなって。それは日本にはないテンポ感、世界にもないのかもしれないんですけれども」


次は観客が席を立つような映画を

――映画を撮り終えての達成感は?

『アキレスと亀』はスタイルとしては王道の映画。結末もまあまあのエンディングがあって。さあ次は、外国で観客が席を立ってしまうような映画を撮ろうと思ってね(笑)。

――前作の時は、もうそろそろ引退とおっしゃっていましたが。

引退っていうとみんな観なきゃと思うんじゃないかと思ってね。そういいながら、あと20作くらいとってやろうかなって(笑)。またかよっていわれながら。

北野武:PROFILE
初監督作は、主演も務めた『その男、凶暴につき』(1989年)。その後、数多くの作品を手がけ、『HANA-BI』(1998年)でベネチア国際映画祭・金獅子賞、『座頭市』(2003年)で同映画祭・監督賞を受賞。昨年の同映画祭では、「監督・ばんざい!賞」が新設され、第1回の受賞者になるなど、数多くの映画賞を受賞し、世界的な評価を受けている。2005年より東京芸術大学大学院映像研究科教授として次世代の映像作家の育成を行う。
 

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