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携帯から新人アーティストがデビュー

携帯サイト『ゴルゴンゾーラ』からアーティストを発掘

 2004年、携帯電話の着メロ無料配信サイトとしてオープンした『ゴルゴンゾーラ』は、口コミのみで約140万人のユーザーを獲得。それまでの課金制、公式コンテンツにより発展してきたケータイ・ビジネスの常識を覆した。そして今、彼らは新たな試みとして、『ケータイから生まれたアーティスト』を世に送り出そうとしている。そのすべてのプロジェクトを取り仕切るのは弱冠28歳のプロデューサー。彼が描く未来型ビジネスモデルとは?

―― ゴルゴンゾーラは中・高校生向けのサイトということですが、渡辺さんご自身もまだ大学院生だそうですね。

渡辺:はい。大学を卒業して一般採用枠でヤマハ(株)に入社し、内緒で大学院に進学したのですが、バレてしまいました。今では公認です(笑)。3年前、コンテンツ事業推進部に配属され、携帯サイト『ゴルゴンゾーラ』をパートナー企業のLaidさんと手がけました。僕自身、音楽が好きで、高校時代には自分で着メロを作ったこともあったので、一般ユーザー的な発想で「こんなサイトがあったらいいな」と始めたのですが、有料の音楽ダウンロードサイトが主流の時代に「なぜ無料サイトをやろうとするのか?」と理解してもらえない事もありました。でも、50代の直属の上司が、入社2年目だった僕にすべて任せてくれて、やりたいようにやらせてくれたんです。

 

渡辺優樹さん(ヤマハ コンテンツ事業推進部 開発グループ)



外川陽子
『Together』(GOL-0001)
2月14日発売 1200円(税込)
(ゴルゴンゾーラ・レーベル/ディスカス)

―― どのようなサイトなのですか。

渡辺:当初は、ユーザー3〜4万人規模の、“知る人ぞ知る”サイトでしたが、「無料で高品質」というのが口コミで広まり、今では140万人が登録、たくさんのナショナルクライアント様から広告を頂くまでになりました。“ゴンザー”と呼ばれる会員ユーザーは男女比4:6で平均年齢は16.8歳。運営者で皆の兄貴分でもある“ゴンゾー”は27歳、8代続いた着メロ職人で(笑)、ユーザーから送られて来る1日数千件のメールに返事を書いて、日々、情報交換をしています。
 著作権使用料、その他のコストは広告収入で賄っています。キチンと仕組みを考えれば、無料で運営出来るという見本を見せることで、「違法ダウンロードはやめよう」という啓蒙の意味もあります。

―― 『ゴルゴンゾーラ』サイトの成功はあらかじめ予測されていたのですか。

渡辺:これほどまでには予想していませんでした。しかし、不思議なもので、今ではサイトを見ていると僕らには「次にこれが流行する!」というのがある程度分かります。それまで何の兆しもなかったのに、ある日突然、ダウンロード数が急激に増えたり、同じキーワードがたくさん出てきたりするわけです。ゴルゴンゾーラのサイト自体がそのパターンで、ある日を境に10万人から100万人に一気に増加しました。

―― ブレイクのきっかけは何でしたか。

渡辺:『ゴルゴンゾーラ』のユーザー急増のきっかけは“夏休み”でした。学校が休みの間、彼らはメールで連絡を取り合うことが多いため、「こんなサイトがあるよ」というように口コミで広がったのではないかと考えられます。僕らは、サイトの宣伝やマーケティングなどは行っていません。これだけ趣味が多様化して、エンターテイメントが分散していても、彼らの中には何か一貫したものがあるんです。そこにブレイクやヒットにつながる要因がある。ただ、その“何か”はものすごい勢いで変わるので、1ヶ月後、2ヶ月後ではもう間に合わない場合が多い。しかし、ネットならリアルタイムで、しかも双方向で反映することできるんです。

ケータイ発のアーティスト“外川陽子”ができるまで

―― 今回、新たなプロジェクトとして、ユーザー投票で選ばれたアーティストをCDデビューさせるそうですね。

渡辺:ある時、ユーザーに「君たちの夢を募集します」と呼びかけたんです。僕の予想では、「空を飛びたい」、「サッカー選手になりたい」といった無邪気なものが集まると思っていたのですが、蓋を開けてみると「おばあちゃんがいるので高齢者にやさしい社会を作りたい」とか、「イラク問題を解決したい」などの、シリアスで現実的な夢が多かった。驚くと同時に興味を覚えて、実際に何人かに会ってたんです。すると、テレビなどで見る無気力で無責任な若者というのはごく一部であって、大多数は自分の考えを非常にしっかり持っていることが分かったんです。「彼らの思いを世の中に伝えたい、出来たら音楽として1つの曲にまとめたい」と思い、このプロジェクトをスタートしました。

―― 歌詞や楽曲、PVにいたるまで全てがユーザーの手によるものだそうですね。

渡辺:歌詞には10万人の応募があり、ゴルゴンゾーラの中でもファンの多い川嶋あいさんにお願いをしてひとつの歌詞にまとめて頂きました。その後、楽曲を募集し、歌う人を募集しました。歌手については5000人ほどの応募があり、最終的に男性3人、女性3人が候補に残り、ユーザーの投票によって今回デビューする “外川陽子”が選ばれました。実は、僕らスタッフが予想した結果とは違っていたのですが。すべてにおいて言えることですが、僕らが何かを決めるということはなく、ユーザーから上がってきたものをまとめるだけです。余計な手は加えません。
 PVに関しても、サイトで募集して、40名のユーザーに各地域を代表して出演して頂き、CDブックレットには応募してきてくれた子全員の名前を分け隔てなくクレジットしています。“皆が主人公”というのがコンセプトですからね。宣伝に関しても、マスコミや広告に頼らず、「学校の校内放送で流してくれる子」を募集しました。これには少し驚いたエピソードがあって、連絡をもらって、いざ学校に電話してみると、実はその子は不登校で先生たちも連絡が取れなくて困っていた、というケースが10件に1件くらいありました。その子たちは「自分は学校には行けないけれども、自分が参加して作ったこの曲を学校の皆にも聴いて欲しい」って思っているんですよね。その時、「ケータイなら面と向かって言えないことが言える、ケータイだからこそ出来ることがある」と、改めて感じました。

ダウンロードの浸透によるパッケージの必要性の変化

―― 携帯サイトなのに、ダウンロードではなくCDパッケージ化にこだわった理由は?

渡辺:社内でも「配信という在庫を持たないはずの事業部が、在庫を持つことになるのはどうか?」「ダウンロードでいいのでは?」という意見がありましたが、ケータイというバーチャルでクローズドの世界のものを世の中の人に見せるには、やはり、何らかの形のあるものが必要です。
 実際、若い世代では、「CDを買うんじゃなくて着うたフルでいいや」と考える人も増えています。シングルでは、今後、特にその傾向が強くなるかもしれません。だから、CD以外、例えばイベントや物販などで収益を上げるビジネスモデルが必要になってきます。それをするには、様々な権利関係をクリアする必要があります。ゴルゴンゾーラ・レーベルでは自分たちで権利をコントロール出来るため、自由にいろんなことが出来ます。また、プロモーションに関しても、サイト内にコミュニティがあり、ユーザーたち自身が宣伝マンとして活動してくれるので、大きな手間もコストもかからないわけです。
 着うたフルや音楽配信は、パッケージCDに変わる音楽伝達方法のひとつだと思いますが、着メロや着うたに関していえば、最高のプロモーションツールでもあると思っています。なぜなら、着うたは鑑賞用DL音楽ではなく、自己表現アクセサリーであること、あちこちで着うたが鳴る事により、放送と似たプロモーション効果が得られることと捉えているからです。ですから、着うたを売るとCDが売れなくなるという事ではなくて、配信サイトを既存メディアと同じように活用する事で、一般大衆のメディア化総動員体制をいかに作るか。そのバランスをうまいこと取っていくことが重要なんだと思っています。

―― 無料サイトといい、ユーザー発信のアーティストといい、画期的ですね。

渡辺:僕には「既存の枠組みに対抗しよう」なんて気持ちはまるでなくて、今の音楽業界が大好きだし、その中で何かインパクトのある新しいものをやりたいと思っているだけです。ヤマハは、もともと楽器会社ですが、全国各地に音楽教室を作ったり、70年代、80年代には『ポプコン』を主催したりと、“音楽文化の普及”に務めてきた歴史があります。ちなみにスローガンは「感動を・ともに・創る」というんですけど、『ゴルゴンゾーラ』もまさにそれですね。

―― 今後のプロジェクトの予定は?

渡辺:次は男の子のアーティストをデビューさせたいですね。タイミング的には新学期で、ユーザーと一緒にアーティストも新しい生活をスタートする。そこで起こることをリアルタイムで共有していったら面白いんじゃないかと思います。
 これからもやりたいと思ったことを素直にやっていきたいですね。よく、「今の若者には夢がない」と言われますが、僕も時間をかけてゆっくりとやりたいことに流れついた。だからユーザーたちにも「それでいいんだよ」と、伝えていきたいと思っています。
(インタビュー・文/内山磨魅)



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