少子化や近年の気候変動により屋外チームスポーツの維持が困難となり、中高生の部活動人口が激減している。一方、急増するのは「eスポーツ部」だ。先日の愛知・名古屋2026アジア競技大会では、11歳のゆうきこと栗原悠輝選手(東京ヴェルディ)が、大会史上最年少で金メダルを獲得し、話題になった。「eスポーツってスポーツなの?」そんな声がいまだ上がる中、学校では何が起きているのか? スポーツ選手から部活生まで長年支え続け、現在はeスポーツという新領域へと参入したミズノ。過去最高の業績を更新した同社に、現状とものづくりの裏側を聞いた。
◆「暑すぎて外で部活ができない」少子化と気候変動のリアル“部活”のいま
近年、中学生の部活動人口が減少の一途をたどり、中学生で部活をしている人は2013年〜2023年の10年間で約20%減っているという。その一方で、eスポーツを部活として行っている学校は約30校(2020年)だったが、現在は756校(2026年8月現在/「NASEF JAPAN(国際教育eスポーツ連盟ネットワーク日本本部)」加盟校)を超え、約25倍に増えた。なかには200人規模の部員数を抱える学校もあり、かつてダンス部が盛り上がった時のような勢いを感じさせる。
「中高生の部活動の中で、特に夏場に外で行うチームスポーツはかなり厳しい状況。気候変動で夏が暑く、少子化で人も少ないため、部活でチームを組むことができません。そんななか、ネット環境やオンライン・オフラインで個人でもできるeスポーツは、非常に需要が高まっていると感じています」(アスレティック事業部事業統括室室長・藤田真之介さん)
ミズノは言わずと知れた国内スポーツメーカーの老舗企業。これまでスポーツ用品を通じて多くのアスリートたちを支え続けてきた。
「総合スポーツ用品メーカーなので、シューズだけでなく、バットやグラブといったギアも満遍なくしっかりとサポートできる点が最大の強みです。五輪競技の半数以上で日本代表チームをサポートしてきた実績もあり、中高生を含めて競技に取り組んでおられる方々に一番しっかりと向き合えている企業だと自負しています」(藤田さん)
そんなミズノにとって、中高生の部活人口が減っているという事実は、ある種危機的な状況とも言えた。そんななかで新たに決断したのが、eスポーツ事業への本格参入だ。これまでに培ったノウハウを、今後eスポーツに活用していく意向だという。
「弊社は“スポーツをしている中高年には強い会社”でしたが、スポーツをしていない若者に対してもっと接点を持ち、ブランド価値を向上していきたいと考えていました。そこで現在の状況を総合的に判断し、eスポーツをタッチポイントにすれば、これまで届かなかった若者層にアプローチしていけるのではないかと考えました」(藤田さん)
◆「1日14時間座りっぱなし」ゲーマーは過酷な“アスリート”だった、スポーツメーカー参入の必然性
いまだ「ゲームをやることはスポーツなのか?」と疑問を呈されることもあるように、eスポーツは野球やサッカーといった伝統的なスポーツとは違うカテゴリで捉えられがちだ。しかし藤田さんは「eスポーツ選手は、非常にアスリート的な要素がある」と、両者の共通点を指摘する。スポーツ関連のギアなどの企画を手掛けるグローバルイクイップメントプロダクト部用具開発課課長の川端洋明さんは、eスポーツ選手の実態についてこう語る。
「野球選手の1日の練習量は3〜5時間程度ですが、eスポーツ選手は試合前になると1日10〜14時間も練習しています。椅子の上で長時間同じ姿勢を維持するため、身体のコンディショニングを意識し、筋トレなどに取り組む方もいます」(川端さん)
想像以上に過酷な練習を重ねているというeスポーツ選手たちは、従来のアスリートと通じる部分が多いようだ。とはいえ、これまで伝統的なスポーツを支えてきた企業だからこそ、葛藤することはなかったのだろうか。
「eスポーツはアジア競技大会でも採用されていますし、アスリートを支える構造もできていますから、社内でもすんなり受け入れられました。新しいことへの挑戦を後押ししてくれるという社内の環境も大きかったと思います」(藤田さん)
「プロゲーミングチームの中にも『eスポーツはまだスポーツとして認められていない』という雰囲気がありますが、そこに弊社がユニフォームやギアを提供すると『ミズノのようなスポーツメーカーがサポートしてくれると、スポーツとして認められた感があってうれしい』と喜ばれます。プレイヤーをアスリートとして支えるという根幹は、従来のスポーツと全く変わらないと思います」(川端さん)
eスポーツは0コンマ1秒を争う激しい戦いだが、「我々がギアなどを通じて、彼らがプレーに集中できる環境づくりに貢献するという点では、リアルなスポーツとよく似ている」と藤田さんは言う。これまで多くのアスリートを支え続けてきたミズノだからこそ、eスポーツに参入するのは必然だったのかもしれない。
◆老舗のギア技術を結集「勝つための道具」と「ユニフォーム文化」の創出
ミズノウエーブ、ミズノエナジーなど独自のテクノロジーを駆使した高機能商品を開発している同社だが、これはeスポーツ事業でも同じ。長時間の着座を考慮した「ゲーミングチェア」や操作性を追求した「コントローラー」、汗をかく場面を想定した「吸汗速乾ウェア」など、使用場面に寄り添った商品開発を行っている。
「格闘ゲームではコントローラーを操作するため、指を長時間動かす場面での使いやすさを考え、『左右非対称』のコントローラーを開発しました。またeスポーツでは対戦中に身体が熱くなり、汗をかくこともあるため、吸汗速乾素材や動きやすいパターン(裁断)などを意識して作っています」(川端さん)
こうした商品は、試作段階でプロ選手に試してもらい、そのフィードバックを商品開発に活かしている。これは野球のバットやシューズなどと同じアプローチである。
「プロゲーマーさんとの取り組みでは、主にコントローラーのボタン配置や形状についてリクエストをいただいています。コントローラーのサンプルを使用してもらった後、『ボタンはもう少し内側に』など非常に細かいリクエストをいただき、それを基に調整を繰り返しました」(川端さん)
「我々はウェアやシューズだけを作っているメーカーではなく、ギアまで手掛ける総合スポーツ用品メーカーです。今回も選手との深い対話を通して、これまでになかったような特殊な形状を生み出せたと思います」(藤田さん)
ミズノは商品開発という「モノづくり」にとどまらず、さらに“部活生がユニフォームを着て戦う文化”を作る「コトづくり」にまで視野を広げている。
「学校のeスポーツ部では、ユニフォームを着て試合に出るという概念がまだありません。私たちは教育機関や各学校との人脈もあり、学校競技のユニフォームのノウハウもありますが、まずユニフォームを着るという文化を作っていこうと考え、大会協賛を通じてその啓蒙活動をしています」(藤田さん)
◆「ずっとミズノに支えられてきた」と言われる10年後の未来へ
かつては子どもがゲームをしていると「ゲームばかりしないで勉強しなさい」と言われたように、親には「ゲーム=勉強の妨げ」という認識があった。eスポーツが定着しつつある現在、そんな過去のイメージは払拭され、親もゲームを容認するようになっているのだろうか。
「今はその過渡期ではないでしょうか。eスポーツの大会で高校生が数千万円〜1億5000万円といった高額賞金を獲得することもありますが、このようにeスポーツが『稼げる競技』として認知されれば、状況はもっと変わると思います。またeスポーツでは、ネットを通じて世界中で知り合いができたり、英語で話す機会が増えるなどグローバルな広がりも期待できます。そうしたメリットから、今後後押しする親御さんが増えてくるかもしれないですね。
今はどんな競技をするにもお金がかかりますが、若者には購買力がありません。親御さんに理解してもらうためのアプローチをしていく必要があると感じています」(藤田さん)
2026年3月期では、売上高、営業利益、当期純利益でいずれも過去最高を更新し、業績好調を見せるミズノ。今後の課題としては、「海外のグローバル市場でしっかりと勝ち切っていくこと。日本発の技術やサポート体制を世界へと広げ、スポーツメーカーとして選手たちをしっかり支え続けていきたい」としている。
「スポーツをやっている人、やっていない人に関わらず、全年代の人たちにアプローチしていくことは大事ですし、これをやり続けないといけません。10年後、eスポーツをやっている方たちに『ずっとミズノに支えられてきた』と思っていただけるよう、継続した取り組みを行っていきたいと思います」(藤田さん)
【写真】11歳!『アジア競技大会』史上最年少で金メダルのゆうき選手
◆「暑すぎて外で部活ができない」少子化と気候変動のリアル“部活”のいま
「中高生の部活動の中で、特に夏場に外で行うチームスポーツはかなり厳しい状況。気候変動で夏が暑く、少子化で人も少ないため、部活でチームを組むことができません。そんななか、ネット環境やオンライン・オフラインで個人でもできるeスポーツは、非常に需要が高まっていると感じています」(アスレティック事業部事業統括室室長・藤田真之介さん)
ミズノは言わずと知れた国内スポーツメーカーの老舗企業。これまでスポーツ用品を通じて多くのアスリートたちを支え続けてきた。
「総合スポーツ用品メーカーなので、シューズだけでなく、バットやグラブといったギアも満遍なくしっかりとサポートできる点が最大の強みです。五輪競技の半数以上で日本代表チームをサポートしてきた実績もあり、中高生を含めて競技に取り組んでおられる方々に一番しっかりと向き合えている企業だと自負しています」(藤田さん)
そんなミズノにとって、中高生の部活人口が減っているという事実は、ある種危機的な状況とも言えた。そんななかで新たに決断したのが、eスポーツ事業への本格参入だ。これまでに培ったノウハウを、今後eスポーツに活用していく意向だという。
「弊社は“スポーツをしている中高年には強い会社”でしたが、スポーツをしていない若者に対してもっと接点を持ち、ブランド価値を向上していきたいと考えていました。そこで現在の状況を総合的に判断し、eスポーツをタッチポイントにすれば、これまで届かなかった若者層にアプローチしていけるのではないかと考えました」(藤田さん)
◆「1日14時間座りっぱなし」ゲーマーは過酷な“アスリート”だった、スポーツメーカー参入の必然性
いまだ「ゲームをやることはスポーツなのか?」と疑問を呈されることもあるように、eスポーツは野球やサッカーといった伝統的なスポーツとは違うカテゴリで捉えられがちだ。しかし藤田さんは「eスポーツ選手は、非常にアスリート的な要素がある」と、両者の共通点を指摘する。スポーツ関連のギアなどの企画を手掛けるグローバルイクイップメントプロダクト部用具開発課課長の川端洋明さんは、eスポーツ選手の実態についてこう語る。
「野球選手の1日の練習量は3〜5時間程度ですが、eスポーツ選手は試合前になると1日10〜14時間も練習しています。椅子の上で長時間同じ姿勢を維持するため、身体のコンディショニングを意識し、筋トレなどに取り組む方もいます」(川端さん)
想像以上に過酷な練習を重ねているというeスポーツ選手たちは、従来のアスリートと通じる部分が多いようだ。とはいえ、これまで伝統的なスポーツを支えてきた企業だからこそ、葛藤することはなかったのだろうか。
「eスポーツはアジア競技大会でも採用されていますし、アスリートを支える構造もできていますから、社内でもすんなり受け入れられました。新しいことへの挑戦を後押ししてくれるという社内の環境も大きかったと思います」(藤田さん)
「プロゲーミングチームの中にも『eスポーツはまだスポーツとして認められていない』という雰囲気がありますが、そこに弊社がユニフォームやギアを提供すると『ミズノのようなスポーツメーカーがサポートしてくれると、スポーツとして認められた感があってうれしい』と喜ばれます。プレイヤーをアスリートとして支えるという根幹は、従来のスポーツと全く変わらないと思います」(川端さん)
eスポーツは0コンマ1秒を争う激しい戦いだが、「我々がギアなどを通じて、彼らがプレーに集中できる環境づくりに貢献するという点では、リアルなスポーツとよく似ている」と藤田さんは言う。これまで多くのアスリートを支え続けてきたミズノだからこそ、eスポーツに参入するのは必然だったのかもしれない。
◆老舗のギア技術を結集「勝つための道具」と「ユニフォーム文化」の創出
ミズノウエーブ、ミズノエナジーなど独自のテクノロジーを駆使した高機能商品を開発している同社だが、これはeスポーツ事業でも同じ。長時間の着座を考慮した「ゲーミングチェア」や操作性を追求した「コントローラー」、汗をかく場面を想定した「吸汗速乾ウェア」など、使用場面に寄り添った商品開発を行っている。
「格闘ゲームではコントローラーを操作するため、指を長時間動かす場面での使いやすさを考え、『左右非対称』のコントローラーを開発しました。またeスポーツでは対戦中に身体が熱くなり、汗をかくこともあるため、吸汗速乾素材や動きやすいパターン(裁断)などを意識して作っています」(川端さん)
こうした商品は、試作段階でプロ選手に試してもらい、そのフィードバックを商品開発に活かしている。これは野球のバットやシューズなどと同じアプローチである。
「プロゲーマーさんとの取り組みでは、主にコントローラーのボタン配置や形状についてリクエストをいただいています。コントローラーのサンプルを使用してもらった後、『ボタンはもう少し内側に』など非常に細かいリクエストをいただき、それを基に調整を繰り返しました」(川端さん)
「我々はウェアやシューズだけを作っているメーカーではなく、ギアまで手掛ける総合スポーツ用品メーカーです。今回も選手との深い対話を通して、これまでになかったような特殊な形状を生み出せたと思います」(藤田さん)
ミズノは商品開発という「モノづくり」にとどまらず、さらに“部活生がユニフォームを着て戦う文化”を作る「コトづくり」にまで視野を広げている。
「学校のeスポーツ部では、ユニフォームを着て試合に出るという概念がまだありません。私たちは教育機関や各学校との人脈もあり、学校競技のユニフォームのノウハウもありますが、まずユニフォームを着るという文化を作っていこうと考え、大会協賛を通じてその啓蒙活動をしています」(藤田さん)
◆「ずっとミズノに支えられてきた」と言われる10年後の未来へ
かつては子どもがゲームをしていると「ゲームばかりしないで勉強しなさい」と言われたように、親には「ゲーム=勉強の妨げ」という認識があった。eスポーツが定着しつつある現在、そんな過去のイメージは払拭され、親もゲームを容認するようになっているのだろうか。
「今はその過渡期ではないでしょうか。eスポーツの大会で高校生が数千万円〜1億5000万円といった高額賞金を獲得することもありますが、このようにeスポーツが『稼げる競技』として認知されれば、状況はもっと変わると思います。またeスポーツでは、ネットを通じて世界中で知り合いができたり、英語で話す機会が増えるなどグローバルな広がりも期待できます。そうしたメリットから、今後後押しする親御さんが増えてくるかもしれないですね。
今はどんな競技をするにもお金がかかりますが、若者には購買力がありません。親御さんに理解してもらうためのアプローチをしていく必要があると感じています」(藤田さん)
2026年3月期では、売上高、営業利益、当期純利益でいずれも過去最高を更新し、業績好調を見せるミズノ。今後の課題としては、「海外のグローバル市場でしっかりと勝ち切っていくこと。日本発の技術やサポート体制を世界へと広げ、スポーツメーカーとして選手たちをしっかり支え続けていきたい」としている。
「スポーツをやっている人、やっていない人に関わらず、全年代の人たちにアプローチしていくことは大事ですし、これをやり続けないといけません。10年後、eスポーツをやっている方たちに『ずっとミズノに支えられてきた』と思っていただけるよう、継続した取り組みを行っていきたいと思います」(藤田さん)
2026/10/20