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未来に残したいアニメーション映画『屋根裏のラジャー』百瀬義行監督×西村義明プロデューサーの挑戦

 スタジオジブリで中核を担ったプロデューサーが設立し、長編第1作『メアリと魔女の花』(2017年)が150の国と地域で公開され、世界で高い評価を獲得したスタジオポノック。6年ぶりの長編アニメーション最新作『屋根裏のラジャー』が今月15日から全国で公開されている。監督の百瀬義行氏、プロデューサーの西村義明氏が、新しい手描きアニメーションへの挑戦からこどもが主人公のオリジナルアニメーションにこだわる理由まで縦横無尽に語った。

スタジオポノックの長編アニメーション映画最新作『屋根裏のラジャー』(公開中)(左から)西村義明プロデューサー、百瀬義行監督(C)ORICON NewS inc.

スタジオポノックの長編アニメーション映画最新作『屋根裏のラジャー』(公開中)(左から)西村義明プロデューサー、百瀬義行監督(C)ORICON NewS inc.

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■百瀬義行監督の長編アニメーション映画をつくる

 スタジオポノックの短編アンソロジー『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』の一篇、『サムライエッグ』の脚本と監督を務めた百瀬氏。西村プロデューサーは「百瀬監督の長編アニメーション映画をつくることは僕にとっての大きな挑戦でしたし、こうして実現できたことは奇跡のようにも思います」と感慨もひとしおだ。

【西村】百瀬さんの長編アニメーションの新作を見たい、その一心でした。実は、スタジオジブリの制作部門を解散すると告げられる前、百瀬さんが監督を務める企画書と脚本を握っていたんです。だけど実現できなかった。スタジオポノックを立ち上げてからも百瀬さんを据えて新作映画をつくりたかったのですが、百瀬さんの力を120%発揮してもらうためには、漫画原作ではなく、ゼロからキャラクターをつくって、ゼロから世界観をつくり上げるものがいい。オリジナル脚本か、あるいは文学作品を原作にしたものか。かつ、百瀬さんは新しい映像表現にチャレンジしてきた方なので、それなりの予算も必要になってくる。それらを整えるまでにすごく時間がかかってしまった。百瀬監督の長編アニメーション映画をつくることは僕にとっての大きな挑戦でしたし、こうして実現できたことは奇跡のようにも思います。

■スタジオジブリで活躍した鬼才・百瀬義行

小雪ちゃん、ラジャー、エミリ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

小雪ちゃん、ラジャー、エミリ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

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 スタジオジブリで1988年公開の『火垂るの墓』から2013年の『かぐや姫の物語』まで、数々の作品に参加し、高畑勲監督の右腕として活躍した百瀬氏。高畑監督は「百瀬さんがアニメーションを進化させる」と絶大な信頼を寄せ、西村プロデューサーも「映像の革命家」と敬う。1980年代からコンピュータを使用した映像制作に取り組み、『もののけ姫』(1997年公開)制作時にCG室を立ち上げ、CGの使用をジブリに根付かせたのも百瀬氏だった。

【西村】スタジオジブリは高畑勲・宮崎駿(※崎=たつさき)のスタジオと喧伝されてきましたが、スタジオ内にガラス張りの部屋が1つあって、「百部屋(ももべや)」と呼ばれていました。百瀬監督の部屋です。僕は2002年にスタジオジブリに入社してから、この部屋の主が、『ギブリーズ episode2』やハウス食品のCM、capsuleや新垣結衣さんのプロモーションビデオなどを手がけていくのを見てきましたが、同じクリエイターの仕事とは思えないくらい変化に富んだ映像をつくる方です。単に新しいものに手を出したい、というのではなく、作品の内容に最もふさわしい表現をした結果、新しいという。百瀬さんがいたから高畑監督もいろいろ挑戦できたんだろうな、と思っていました。従来の手法を超えていく、その動機というのはどこから出てくるんですか?

【百瀬】それは、ずっとやってきたからね(笑)。飽きるというか、限界を感じてしまうんですよ。今回の『屋根裏のラジャー』に関しては、従来と違うスタイルの長編アニメーションをつくれたという手応えがすごくあるんです。物語にもすごく合っているし、自分としてもやれてよかったと思っています。

■新技術で手描きアニメーションを進化させる

ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

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 『屋根裏のラジャー』の主人公は、少女アマンダの想像が生み出した少年ラジャー。彼女以外の人間には見えない“イマジナリーフレンド(想像上の友達)”だ。原作は、イギリスの作家、A.F.ハロルドによる小説『The Imaginary』(邦題:『ぼくが消えないうちに』/ポプラ社)。

 現実と想像が交錯する世界で起こる、人間には見えない大冒険という特異な物語が、2Dとも3DCGとも異なる美しい映像で生き生きとダイナミックに描き出されていく。本作のアニメーション映像は、フランスのスタジオ「Poisson Rouge」が持つ新たなデジタル技術(ソフトウエア)を用いた光と影の演出によるもの。従来の均一色面によるセル画調キャラクターとは異なるグラデーション彩色による質感表現が可能となり、精緻で美しい背景美術の中でキャラクターに深みと立体感を与えている。百瀬監督がまた手描きアニメーションを進化させたのだ。

【西村】『屋根裏のラジャー』の企画が動き出してから、フランスのスタジオが開発した特殊なソフトウエアの存在を知って、百瀬さんに「こういうのあるんですが…」と提案したんです。

【百瀬】『ギブリーズ』の頃から、キャラクターに質感を与えて、従来とは違うアニメーション表現をすることに興味があったんです。この特殊なソフトウエアを使えばそれができると思ったし、何より『屋根裏のラジャー』という作品に合っていると直感したんです。作品に合っているというのが一番、重要なことじゃないですか。でも、よく決断したよね。

【西村】コロナ禍でフランスに行くこともできませんし、言語は違いますし。門外不出の技術だから、手描きの原動画を送って、フランスのクリエイターが仕上げて戻ってくるのを待つしかない。クリエイターたちの働き方も、日本とフランスでは違う。これ本当にできるのか?いや、やりたい、と決断しました。使うことが決まってから、百瀬さんはこの新技術を生かすために、絵コンテや演出の一部を変えましたね。

【百瀬】やるからにはやった甲斐があるものにしないと。でもその手応えは感じています。イマジナリって誰にも見えないものでしょ。でもこの作品では、見ることができる。見えないものってあいまいな感じがするけれど、それが見えた時にはちゃんと存在感があった方がいい。さらに、見たこともないものを見たら、新鮮な驚きがありますよね。従来どおりのキャラクター描写では、見たこともないものを見ている感じがしないんじゃないかと思っていたんです。でも、「Rouge」の技術によって、本来見ることができない特別なものを、見ている感じがうまく出せたんじゃないかと思うんです。

【西村】見えないけど、そこにいるのだ、という実在感もありますよね。肌の色にも相当こだわっていましたね。

【百瀬】人の肌はただ肌色を塗ればいいわけじゃなくて、肌の下には血管があって、肉があって、骨があって、太陽に手をかざせば熱を帯びて赤くなる。そういう感じをアニメーションで表現できないだろうか、というのも興味あったし、それによって存在感がグッと増すんですよね。そこまでする必要があるのか、わからないけど、今回はそれができたと思います。

■未来に残せる作品をつくりたい

ジンザン、ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

ジンザン、ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

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 日本初となったこの挑戦には思いのほか多くの時間を必要とし、公開予定(22年夏)が1年以上延期されることに。さらに、時間がかかった分、スタッフの人件費がかさみ、22年1月頃には、「ポノックの解散、倒産の危機」にも直面した。しかも、アニメ映画の興行成績は好調だが、それを支えているのは30年以上続く定番シリーズものか、テレビアニメのヒットからの劇場版、ブランド化された「スタジオジブリ」「細田守」「新海誠」くらいで、オリジナル企画は苦戦を強いられがち。さらに、オリジナルアニメをつくるノウハウを持った人もいなくなってきている現状がある。

【西村】宮崎監督は10年ぶりに新作をつくりましたが、高畑監督は2018年にお亡くなりになられてしまい、僕らのように、こどもと、かつてこどもだった大人たちに向けたアニメーション映画をつくり届けるというスタンスは、日本においては業界の傍流というか、取り残された存在になりつつありますよね。

【百瀬】オリジナルアニメーションをつくるノウハウを持った人もいなくなってきているというのもね、仕方ないというか、制作現場の環境はいぜんとして良くないですからね。そんな状況で、信念持ってつくれと言われても、食べていけないですから。

【西村】作品のターゲットは、やはり大人が主流にならざるをえない。「こどもが主人公だとお客さんが減る」と公然と言われているくらいですから。

【百瀬】マーケティング的なことだけで企画が通る、通らないってことになるのも、どうかと思うんですよね。似たりよったりの作品が増えるだけで、つまんなくなっていきそうで、未来に残る作品が少なくなってしまうような気もするし。それでも、残るものは残っていくと思うんですよ。ただ、自分としては、未来に残せる作品をつくっていきたいし、『屋根裏のラジャー』で一つつくれてよかったです。

■ラジャーとアニメーション映画づくりは似ている

ラジャー、アマンダ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

ラジャー、アマンダ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

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 「ラジャーの物語は、アニメーション映画づくりに似ている」と西村プロデューサーは言う。屋根裏部屋で想像の世界を駆け回っていたアマンダとラジャーは、「消えないこと、守ること、ぜったい泣かないこと」の誓いを立て、確かな絆を築いていく。そんなある日、ミスター・バンティングという怪しげな男に出会ったことで、2人は離ればなれになってしまう。

 このままアマンダに忘れられたら、この世から消えてしまう。それがイマジナリの避けられない運命であることを知ったラジャーは、猫のジンザンに導かれ、自分と同じように誰かのイマジナリだった仲間たちと出会う。そして、ラジャーは一縷(る)の望みを抱き、大切な友達を取り戻すための大冒険へと旅立っていく。

【西村】ラジャーがたどり着くイマジナリの町にいるイマジナリたちは、生まれた場所も、生まれた年代もみんなバラバラです。そんなイマジナリたちが、やがてラジャーの思いに共鳴して、大冒険を共にすることになる。これ、映画づくりと似ているな、と感じるんです。

 今回、百瀬監督を含めて、日本のクリエイターたちだけでなく、フランスのクリエイター、そして、韓国や中国、東南アジア各国のクリエイターが制作に参加しています。アメリカからもグラミー賞アーティストのア・グレイト・ビッグ・ワールドとレイチェル・ブラッテンが主題歌を提供してくれました。住んでいるところも年齢もバラバラな人たちが、のべ約500人、最長6 年かけて、この物語を観客に届けるためにそれぞれ力を発揮してくれました。

 映画作りって“ウソで真実を描く”としばしば言われます。ラジャーと存在自体が似ているんです。ラジャーは大人にとっては“ウソっこ”の少年ですし。アマンダが想像しなかったことはできません。非常に無力です。そして、人間に忘れられると、この世界から消えてしまいます。映画や物語も観てくれた人の記憶の中からやがて薄れ、消えていく。そうして、こどもの頃の記憶も、映画を観た記憶も、忘れてしまうけれど、その時に映画は完全にこの世界から無くなってしまうのだろうか、ということを考えたりしていました。

 長丁場の制作になると、自分たちが立ち向かっている先は本当に意味があるのだろうか、と気弱になることもありますよね。そんな時、自分の運命に屈することなく、自分を食らおうとするものから逃れ、追ってくる恐怖に立ち向かって走り続けるラジャーの横で共に旅をしているような感覚になりました。映画を観てくださる方々にもラジャーがたどり着いてほしいと願っています。

 今の時代は少し快楽主義に寄った映画が好まれる傾向がありますよね。たぶん現実がつらすぎるから。もちろん映画は面白いのが大前提ですが、映画にはもっと可能性があるとも信じているんです。僕らがこどもたちに届けたいと思って映画をつくっているのは、こどもの心に1つでも大切なものを残せたら、何か受け取ってくれたこどもが1人でもいてくれたら、彼らが大人になって生きる10年後の世界は変わりはじめると思っているからです。こどもたちが自分たちの物語だと思えるような作品をひとつひとつつくっていけたらと思っています。

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  • ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc
  • ラジャー、アマンダ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc
  • 小雪ちゃん、ラジャー、エミリ=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc
  • リジ―=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc
  • ジンザン、ラジャー=『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc
  • 『屋根裏のラジャー』(公開中)(C)2023 Ponoc

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